【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ

文字の大きさ
81 / 98
第9部 ウォルド領

第81話 聖女ではない理由

しおりを挟む
「よし、登録も無事終わったから帰ろうか。パーティー名は今度決めれば良いよね」
「「「 そうね 」」」
 3人の声がハモる。

「「「 だから、そうね、じゃないわよ! 」」」

 背後から声がした。
 振り向いたが、誰もいない。
 幻聴か?

「さぁ。帰ろう!」
「待ちなさい!」
 ズボンの裾を誰かに捕まれた。
 下を見るとこちらを見上げている、身長130cmくらいの女の子が居た。

 俺は屈み込んで言った。
「お嬢ちゃんはどこの子かな?ここは子供の来るところじゃないよ?」
 すると女の子は頬を膨らませながら言った。
「失礼ね、私はここのギルドマスターよ!」
「ここのギルドも人手不足でついに幼児の手でも、という事か」
「ちがうわよ、私は小人族ホビットなの、小人族ホビット!」

 ホビットだって!

【スキル・鑑定】簡略化発動
 名前:イノーラ
 種族:小人族ホビット
 年齢:140歳
 性別:女
 職業:ギルドマスター
 レベル:28

 本当だ。
 そう言えばアレン領の冒険者ギルドにも、ヘルガさんていうホビットがいたな。

「ヘルガは私の姉よ」
 へ~、姉妹で冒険者ギルドに勤めているのか。
「ねえ、あなた。私と会話するつもりはないの??」
 あっ!いけない。
 いつもの、独り言が。

「で、そのギルドマスターが僕たちに何のようでしょうか?」
「何のようでしょうか、ですって!いったいあなたの頭は、どうなっているの?」
「???」
 俺は頬に指をあて考えた。

「後ろを見てごらんなさい」
 言われて後ろを振り向いた。
 何という事だ!
 ギルドの壁は穴が開いたり、ボロボロになっている。
 そして20人近くの冒険者が横たわり、血だまりの中で声を上げている。

「「「 なんだ、これは。どうしたんだ!! 」」」

 
「うぅ~」
「いてぇ」
「手、手が…」
「脚が…俺の脚が」

 腕が変な角度に曲がっているもの、太腿に矢が刺さっているもの、剣でアーマーの上から切られた痕があるもの、何かが当たったような打撲痕があるもの。
 そこは酷い有様だった。
 いった誰がこんな事を!


「あなたよ、あなた。正確にはあなた達ね」
「えっ、俺達が。ただ冒険者登録に来ただけなのに」
「馬鹿なのあなたは?それとも健忘症?」

「では証拠を見せてください」
「証拠ですって。マリサその時のことを詳しく教えて」
 受付のマリサさんが近くに寄ってくる。

「はい、イノーラ様。まず彼ら4人が登録していると、ロブソンさん達4人が聞くに堪えない言葉で、彼女達3人を愚弄したのです」
 ロブソンて言うのか、あいつら。

「どんな言葉?」
「はい、それが…」
 マリサさんがイノーラさんにその時の話をして聞かせる。

「それはひどいわね、私でも怒るわ。でもこれはやり過ぎよ」
「でも剣を向けられれば身を守るのは当然では?それに多勢たぜい無勢ぶぜい、多少の過剰防衛も認められるのでは?」
「だからと言ってもね。マリサ、彼らの冒険者レベルはいくつなの」
「Fです、イノーラ様」
「F?Fですって。Fの冒険者4人相手にCやDランク19人が相手にならないなんて」
「本当です、イノーラ様」

「壁に外が見えるくらい大きな穴が、開いているのはあなたがやったことなの?」

「違いますよ。突然、大きな音がしたと思ったら壁に大きな穴が開いたんですよ。きっと建築ミスです。施工業者を訴えた方が良いと思います。俺は最初にそこに寝転がっている男に蹴りを入れただけです。すると残りの3人が剣を抜き向かってきた。でも安物の剣だったのでしょう、剣が途中から折れました。そしたら突然剣を持てない華奢な手だったのか、腕が変な角度で曲がって折れたんですよ。大道芸かと思った」

「そんな訳ないでしょう、彼の言っていることは本当なの」
「ほ、本当です」
「誰、あなたは?」
「俺はアーマン、Dランク冒険者です。最初から見てました。彼はロブソン達をのした後、他の冒険者15人が剣を抜き彼に襲い掛かった。そこに彼の仲間の女性達が加勢してこの有様です」

「では彼らは正当防衛になるわね。でもこのギルドの修理費はどうするのよ」
「それにイノーラ様。20人近い冒険者がしばらくは、役に立たないのは問題です」
「それは困ったわ。修理費はあなた達にも、肩代わりしてもらいますからね」

「それは嫌だわ。私に良い考えがあるわ」
 パメラさんはそう言うと、腕が曲がっているロブソン達のところに向かった。

「ひい!」
「あなた達はもう剣は持てない。分かるわよね」
「コクリ、コクリ」
 ロブソン達は頷いている。

「でも治してあげたら、私達の修理費分を負担してくれない?」
「そんなことができるのは教会の聖職者だけだ。治すことができるなら何でもする」
「約束よ。イノーラさん聞きましたね」
「えぇ、確かに聞いたわ」

「ルイディナ、ちょっとこっちに来てくれる」
「なあにパメラ」
「曲がった腕を伸ばしてほしいのよ」
「分かったわ」

「「「 や、やめろ~ 」」」

「大丈夫よ、痛くしないから。優しくしてあげるから、ねっ」

「「「 やめてくれ~ 」」」

「さあ行くわよ」

 ボキッ!!

「「「 ギャ~! 」」」

 ギルド中に聞こえる様な絶叫が響いた。


「命の鼓動よ。躍れ命の躍動、汝の傷を癒せ。ウォーターヒール!」

 呪文の詠唱と共にパメラの体は水色に光った。
 曲がった腕に左手を添え、右手をあてる。
 すると右手に光りが集まり、みるみる腫れが引き治っていく。

「「「 おぉ~~!! 」」」
 
 周りからどよめきが起きる。
 それはそうだ。
 回復魔法なんて教会の上位の聖職者だけだ。
 しかも頼んだら一生働いても返せない金額を、要求されてもおかしくない。

「な、治ってる。俺の腕が治った。聖女だ、聖女様だ」
「聖女様」
「聖女様~」
「私の傷も治してください」
「私もです。聖女様」
 パメラの周りに男達が寄ってくる。

「パメラさん、回復魔法なんていつの間に…」
 俺がそう言うとパメラさんはウインクをした。

「ではここで誓いなさい。私達の修理費分を負担すると」
「もちろんです」
「負担いたします、聖女様」
「私も」
「私もです」
 希望者が殺到した。

 最初に俺が殴ったロブソンという男はあごの骨が砕けていた。
 それをパメラは治す。
 それまで苦痛の表情を浮かべていた男は、治って行く程に恍惚とした表情をする。
 そして両手を胸の前で組みお礼を言う。
 
 クロスボウの弓矢を太腿に受けた男達は、ルイディナさんに一気に矢を抜かれ悶絶しながら癒しの光に包まれる。
 そして苦痛の顔から恍惚とした表情に変わる。
 ルイディナさんの矢は、クロスボウ用の特注だから無駄に出来ないんだ。
 しかし抜き方が雑だ。
 

 オルガさんにプレートごと切られ血を流している男や、エアガンを受け打撲痕のある男達が癒しの光に包まれ恍惚とした顔をする。
 治った相手は両手を胸の前で組みパメラにお礼を言う。

 受付のマリサさんに頼んで俺達分の修理費も、彼らが肩代わりする誓約書を書いてもらった。

「聖女様、ありがとうございました」

「「「 ありがとうございました 」」」

 あまりにも『聖女様』と治した男達が言うので、俺は危険を感じだ。
 面倒な事が起こると困るからだ。

「パメラさんはみなさんが言う聖女ではありません!なぜなら俺の妻ですから」
 俺はパメラさんの腰に手を回し引き寄せた。

 パメラさんはちょっと恥ずかしがった。

 すると男達は羨ましそうな顔をした。
 さっきまでブスと言って、嘲笑ったのは誰だ?


 そして一拍おいてから、男達は『あぁ』という納得した顔をした。
 パメラが聖女ではない理由が分かったようだ。

 聖女は『純潔』を失うと、能力がなくなる。
 パメラは既婚者だ。
 だから『聖女様』ではありません。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...