13 / 58
3章 呪い
3
しおりを挟む
ダイニングルームの方へ行くと、オカ研のメンバーは既に全員揃っていた。
そこに私と美伽が加わり、食事は始まった。
メインのハンバーグも、副菜のマカロニサラダもレトルトだけど、味噌汁だけは手作りだ。ちなみに未央さんが作ってくれた。独り暮らしをしているとかで、料理はそこそこできるとのことだ。
雑談を交えながら、和やかに食事は進行していく。
けれど、雑談に参加しない者が1人。新井さんだ。
彼と私達の間には、埋めがたい溝ができてしまい、今や彼は完璧に孤立していた。
真人さんと未央さんは無視こそしないけれど、必要がない限り関わらないという感じだ。
そして美伽と柏原さんに至っては、完全無視を決め込んでいる。
……まあ、私もそうかもしれない。けど、険悪になる前からそれほど関わりがあったわけでもないから、これが自然体ではあると思う。
孤立している新井さんだけど、本人はあまり気にしていないようだ。
彼は食事中であるにもかかわらず、行儀悪くスマホをいじって、逆に私達のことを無視している。
なんとなく居心地の悪さを感じていると、
「そうだ、皆……ああいや、食事中にする話じゃないか……」
「ちょっとマサやん、切り出しておいてそれはないんじゃないの?」
「そーそー。グロ系の話とかじゃないんならさ、言っちゃいなよ」
オカ研女性メンバーに促された真人さんは、少々決まり悪そうにしつつも、ある提案をした。
「お祓い……ですか?」
「ああ。あんなにはっきりとした怪異に遭遇したんだ。その……もしかすると、何か憑いてきてるかもしれないだろ?」
「つ、憑いてきてるって……何が!?」
「…………浮幽霊……とか……」
怯える美伽に、真人さんは申し訳なさそうな顔で、ぽつりと告げる。
「ええっ!? 大丈夫なんですか、それ!?」
「美伽ちゃん、落ち着いて。浮幽霊は自縛霊と違って、影響力はそれほど強くはない。放っておいても自然に離れていくことが多い」
真人さんの説明を受け、美伽はいくらか安心したように強張らせていた表情を緩める。
「てかさー、自縛霊は強いの?」
「そうだな、自縛霊というのは字の通り、そこに縛られている霊のことだ。なんらかに執着して成仏できずにいる──その執着が強ければ強いほど、強い霊と考えていいだろう。強力だが、その土地から動くことができない。それが地縛霊の特徴だ」
「ふーん。……じゃあさ、最後に現れた……あの白い着物の奴は……? あれはやっぱり自縛霊?」
「自縛霊だろう。それも、相当に強い」
様々な怪異から身を守ってくれた塩も、あの亡霊にだけは効果がなかった。それが何よりの証明である。
「…………彼の執着はなんなのかしら……?」
未央さんが遠慮がちに口を挟んだ。新井さんを除き、皆は彼女に注目する。
「なんとなく、気にならない?」
作家を志す未央さんらしい思考だと私は思った。
しかし考えたところで、あの亡霊が囚われている執着などわかるはずもない。
それよりも、あの亡霊による悪影響などが気になるところだ。
真人さんに意見を求めてみる。
「正直なところわからない。それも引っくるめて、お祓いを受けた方がいいんじゃないかと思うわけだが」
断る理由はなかった。私達は真人さんの提案を受け入れる。
それでも1人だけ、拒否をする者がいた。
「俺、パス。めんどくせーし」
新井さんだ。スマホの画面から目を離さずに、ぞんざいに切り捨てた。
それでも真人さんは、諭すようにお祓いを受けることをすすめるが、
「しつけーな! 憑かれてんなら、具合が悪くなったりとか、肩が重くなったりとか、そういうのがあるだろ? けど、んなもんねーよ。お祓いなんざ、行くだけ無駄無駄」
「……そうか。だが、もし気が変わった時は連絡してくれ」
「はいはい。ああそうだ、俺、オカ研辞めっから」
「……わかった」
△▼△
山の夜は静かだ。
それは滞在初日に知ったこと。
けれど、それだけだった。
耳が痛くなりそうな無音状態に軽く戸惑いはしたけれど、その静けさが、こうも不安を掻き立てることはなかった。
……今は何時頃だろうか?
枕元のスマホに手を伸ばしかけるが、止めておく。
時間を知ったところで、眠気が訪れるわけでもない。
それどころか、余計に眠気が遠ざかる気がした。
ベッド脇の小さな棚には、手乗りサイズのランタン型LEDライトが置かれている。
これがあるおかげで、真の闇にならずに済んでいるというもの。
胸に巣食う不安から逃れるように、寝返りを打った。
ライトが置かれている棚を挟んだ向こう側のベッドには、美伽が横たわっている。
彼女と目が合った。
「凛、眠れないの?」
「そういう美伽こそ」
美伽は体を起こすと、私の方を向き、ベッドの上で膝を抱え込むようにして座った。
「なんかさ、ダメ。目つぶると、あの幽霊が浮かんじゃって……」
「そっか、美伽もなんだ」
「凛も?」
「うん……」
「無理もないよね。まさか、あんなにはっきりと幽霊が見えるなんて思わなかった……。ねえ、あたし達大丈夫だよね? あいつ、もう現れたりしないよね……?」
美伽の声は震えていた。怯えの光を宿す瞳。それが揺らいでいる。
私も起きて、美伽と向かい合うようにベッドに腰掛ける。
「大丈夫だよ。真人さんも言ってたじゃない。地縛霊は強力だけど、その土地に縛られているから、そこから動くことはできないって」
「そうだね。ごめん、なんか不安になっちゃって……」
「そんなのお互い様だよ」
目は完全に冴えてしまった。これでは、もう眠れそうもない。
それは美伽も同じらしく、だったら起きていようと部屋の明かりをつけた。
雑談に興じていると、恐れや不安が少しずつ萎んでいくのを感じた。
美伽の瞳に潜んでいた怯えが消えている。彼女の気分も紛れているようだ。
そこに私と美伽が加わり、食事は始まった。
メインのハンバーグも、副菜のマカロニサラダもレトルトだけど、味噌汁だけは手作りだ。ちなみに未央さんが作ってくれた。独り暮らしをしているとかで、料理はそこそこできるとのことだ。
雑談を交えながら、和やかに食事は進行していく。
けれど、雑談に参加しない者が1人。新井さんだ。
彼と私達の間には、埋めがたい溝ができてしまい、今や彼は完璧に孤立していた。
真人さんと未央さんは無視こそしないけれど、必要がない限り関わらないという感じだ。
そして美伽と柏原さんに至っては、完全無視を決め込んでいる。
……まあ、私もそうかもしれない。けど、険悪になる前からそれほど関わりがあったわけでもないから、これが自然体ではあると思う。
孤立している新井さんだけど、本人はあまり気にしていないようだ。
彼は食事中であるにもかかわらず、行儀悪くスマホをいじって、逆に私達のことを無視している。
なんとなく居心地の悪さを感じていると、
「そうだ、皆……ああいや、食事中にする話じゃないか……」
「ちょっとマサやん、切り出しておいてそれはないんじゃないの?」
「そーそー。グロ系の話とかじゃないんならさ、言っちゃいなよ」
オカ研女性メンバーに促された真人さんは、少々決まり悪そうにしつつも、ある提案をした。
「お祓い……ですか?」
「ああ。あんなにはっきりとした怪異に遭遇したんだ。その……もしかすると、何か憑いてきてるかもしれないだろ?」
「つ、憑いてきてるって……何が!?」
「…………浮幽霊……とか……」
怯える美伽に、真人さんは申し訳なさそうな顔で、ぽつりと告げる。
「ええっ!? 大丈夫なんですか、それ!?」
「美伽ちゃん、落ち着いて。浮幽霊は自縛霊と違って、影響力はそれほど強くはない。放っておいても自然に離れていくことが多い」
真人さんの説明を受け、美伽はいくらか安心したように強張らせていた表情を緩める。
「てかさー、自縛霊は強いの?」
「そうだな、自縛霊というのは字の通り、そこに縛られている霊のことだ。なんらかに執着して成仏できずにいる──その執着が強ければ強いほど、強い霊と考えていいだろう。強力だが、その土地から動くことができない。それが地縛霊の特徴だ」
「ふーん。……じゃあさ、最後に現れた……あの白い着物の奴は……? あれはやっぱり自縛霊?」
「自縛霊だろう。それも、相当に強い」
様々な怪異から身を守ってくれた塩も、あの亡霊にだけは効果がなかった。それが何よりの証明である。
「…………彼の執着はなんなのかしら……?」
未央さんが遠慮がちに口を挟んだ。新井さんを除き、皆は彼女に注目する。
「なんとなく、気にならない?」
作家を志す未央さんらしい思考だと私は思った。
しかし考えたところで、あの亡霊が囚われている執着などわかるはずもない。
それよりも、あの亡霊による悪影響などが気になるところだ。
真人さんに意見を求めてみる。
「正直なところわからない。それも引っくるめて、お祓いを受けた方がいいんじゃないかと思うわけだが」
断る理由はなかった。私達は真人さんの提案を受け入れる。
それでも1人だけ、拒否をする者がいた。
「俺、パス。めんどくせーし」
新井さんだ。スマホの画面から目を離さずに、ぞんざいに切り捨てた。
それでも真人さんは、諭すようにお祓いを受けることをすすめるが、
「しつけーな! 憑かれてんなら、具合が悪くなったりとか、肩が重くなったりとか、そういうのがあるだろ? けど、んなもんねーよ。お祓いなんざ、行くだけ無駄無駄」
「……そうか。だが、もし気が変わった時は連絡してくれ」
「はいはい。ああそうだ、俺、オカ研辞めっから」
「……わかった」
△▼△
山の夜は静かだ。
それは滞在初日に知ったこと。
けれど、それだけだった。
耳が痛くなりそうな無音状態に軽く戸惑いはしたけれど、その静けさが、こうも不安を掻き立てることはなかった。
……今は何時頃だろうか?
枕元のスマホに手を伸ばしかけるが、止めておく。
時間を知ったところで、眠気が訪れるわけでもない。
それどころか、余計に眠気が遠ざかる気がした。
ベッド脇の小さな棚には、手乗りサイズのランタン型LEDライトが置かれている。
これがあるおかげで、真の闇にならずに済んでいるというもの。
胸に巣食う不安から逃れるように、寝返りを打った。
ライトが置かれている棚を挟んだ向こう側のベッドには、美伽が横たわっている。
彼女と目が合った。
「凛、眠れないの?」
「そういう美伽こそ」
美伽は体を起こすと、私の方を向き、ベッドの上で膝を抱え込むようにして座った。
「なんかさ、ダメ。目つぶると、あの幽霊が浮かんじゃって……」
「そっか、美伽もなんだ」
「凛も?」
「うん……」
「無理もないよね。まさか、あんなにはっきりと幽霊が見えるなんて思わなかった……。ねえ、あたし達大丈夫だよね? あいつ、もう現れたりしないよね……?」
美伽の声は震えていた。怯えの光を宿す瞳。それが揺らいでいる。
私も起きて、美伽と向かい合うようにベッドに腰掛ける。
「大丈夫だよ。真人さんも言ってたじゃない。地縛霊は強力だけど、その土地に縛られているから、そこから動くことはできないって」
「そうだね。ごめん、なんか不安になっちゃって……」
「そんなのお互い様だよ」
目は完全に冴えてしまった。これでは、もう眠れそうもない。
それは美伽も同じらしく、だったら起きていようと部屋の明かりをつけた。
雑談に興じていると、恐れや不安が少しずつ萎んでいくのを感じた。
美伽の瞳に潜んでいた怯えが消えている。彼女の気分も紛れているようだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
【完結】百怪
アンミン
ホラー
【PV数100万突破】
第9回ネット小説大賞、一次選考通過、
第11回ネット小説大賞、一次選考通過、
マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ
第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。
百物語系のお話。
怖くない話の短編がメインです。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる