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3章 呪い
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いや、そんなことはどうでもいい。早くあのケースを返しにいかないと。
私は男の子が指し示した蔦を取り払う。手にひやりと冷たい風の感触がした。
「ここです。入り口はここにあります」
2人が駆け寄ってきた。
「また凛が見つけたか。よくわかったね?」
「あの男の子が教えてくれたの。……やっぱり気づかなかった? すぐ傍にいたんだけど」
「ええ、そうなの?」
美伽は気味悪げに顔をしかめた。
「またその男の子か……。本当に何が目的であの場所に誘い込むんだろうな」
言いながら真人さんは蔦を取り払う。やはり男の人の力だと早い。入り口が露になった。
「あれ、増えてる……」
侵入者を阻むように取り付けられていた注連縄は3つだった。それが、5つになっている。
「やっぱり、あのお爺さんがやったのかな……?」
「多分な。……あの人も何者なんだろう? あの場所のことを何か知っていそうだが……」
考え込もうとする真人さんだが、すぐに我に返り、新しく取り付けられた注連縄の1つを丁寧に外した。
「勝手に外しちゃって……大丈夫なんですか?」
「外さないと潜れないだろう。帰る時に元通りにしておけば大丈夫さ」
これで2度目の侵入となる。
もう来ることはない場所だと思っていた。足を踏み入れるなんて二度とごめんだ。
だけど行くしかない。私はポケットに入っている護符をぎゅっと握る。峰岸さんがくれたものだ。
どうか私達をお守りください──……
トンネルを抜けると、しとしと降っていた雨はあがっていた。
頭上には灰色のまだら状の曇天が続いている。あの時と同じ空模様だ。
耳鳴りが──過去の世界へと連れ去る合図がした。
こんなところで……? 一体何が──?
△▼△
3人の人影が浮かび上がった。
大人の男女と幼い女の子だ。家族……だろうか?
全員粗末な着物を着ている。その身なりは、かなり古い時代の人物ということを示唆していた。
多分、ここが滅びる前に生きていた人々ではないかと思われる。
『ここを抜けたら、自由が待っている。バレないうちにさあ早く……』
男性がトンネルに入った直後、それは起きた。
『ぐっ!? ああぁぁッ!』
突然の断末魔の叫び。
男性の胸には刀が貫いていた。
背中から突き出た刃は血で紅く染まり、月明かりで妖しく輝いている。
男性は倒れ、絶命した。
女性と女の子は抱き合って、声にならない叫びをあげる。
『愚か者め。逃げおおせると思うたか』
慈悲の欠片もない声がした。
トンネルから現れたのは、白い法衣のような衣装を着た、もう少しで中年期に差し掛かるだろうと思われる男だ。
彼のすぐ後ろには、甲冑を装備して槍を携えた、物々しい雰囲気を放つ4人の屈強そうな男達。
法衣のような衣装──色は違うけど、いつかの夢で現れた男もそんな出で立ちだった。美しいけれど、ひどく酷薄な印象の男──。
この男は、あの男の仲間……なんだろうか?
法衣の男は、哀れにも、骸となった男性に突き刺さっている刀を引き抜いた。どうやら彼が犯人らしい……。
突然現れた男達を前にして、女性と女の子は死神に出会したかのように怯え、震え上がった。
『早急に“それ”は処分しておけ』
『はっ!』
“それ”──その言い方は、人間に対するものではなかった。
法衣の男に命じられ、武装した男のうちの2人が殺された男性をどこかへ運んでいく。
『此奴らはいかがしましょう?』
『明日、広場で処刑せよ。二度とこのような戯けた考えを抱かぬよう、“道具”どもの前で時間をかけて嬲り殺しにするがいい。良き見せしめとなるだろう』
直後、びちゃびちゃと液体を撒き散らすような音がした。
女性だ。体を前のめりにくの字に曲げ、激しく嘔吐した。
“嬲り殺し”という刑に処される──。その恐怖に耐えきれなかったのだろう。
『連れていけ』
『はっ!』
女性と女の子は連行されていく。
──ここで現実へと戻された……。
△▼△
途端に、腹部に鉛でも詰められたような重たさと不快感を覚えた。
あんな……あんな……か弱い女性と子供を──!
『時間をかけて嬲り殺しにするがいい』
再び、法衣の男の声が聴こえた気がした。
あの男は“道具ども”と言っていた。
それが、この集落に住んでいた人々を示していることは想像に難くない。
想像以上に、この土地には血塗られた過去があったようだ。
気分はますます塞ぐ。
…………ううん、これ以上考えるのは止めよう。
それよりも目の前のことに集中しないと。
噂の屋敷を目指し、私達は歩いていく。
それにしても……
辺りの風景に改めて目を向ける。
あの時も感じたが、やはりこの土地は何かがおかしい。
…………静かすぎるのだ。蝉や鳥の鳴き声が一切ない。
まるで、切り離された別の空間にいる。そんな錯覚をしてしまう。
私達を取り囲むのは、荒れた家屋と田畑の跡。
え──?
私はその光景に違和感を覚えた。
「ねえ、ここって……本当にあの時と同じ場所……?」
美伽が恐る恐る口にした。私の心を読み取ったかのようだ。
違和感の正体……それは打ち捨てられた家屋だ。前回来た時は、どこも倒壊していて見る影もなくひしゃげていた。
それが、どういうわけか復元しているのだ。
時間を遡った──という表現がしっくりくるかもしれない。
けれど、果たしてそんなことがあり得るのだろうか……。
「既に常識では到底考えられないことが起きているんだ。この光景もその延長にあるんだろう」
確かにその通りだ。
培ってきた常識はここではほとんど意味をなさない。
私は男の子が指し示した蔦を取り払う。手にひやりと冷たい風の感触がした。
「ここです。入り口はここにあります」
2人が駆け寄ってきた。
「また凛が見つけたか。よくわかったね?」
「あの男の子が教えてくれたの。……やっぱり気づかなかった? すぐ傍にいたんだけど」
「ええ、そうなの?」
美伽は気味悪げに顔をしかめた。
「またその男の子か……。本当に何が目的であの場所に誘い込むんだろうな」
言いながら真人さんは蔦を取り払う。やはり男の人の力だと早い。入り口が露になった。
「あれ、増えてる……」
侵入者を阻むように取り付けられていた注連縄は3つだった。それが、5つになっている。
「やっぱり、あのお爺さんがやったのかな……?」
「多分な。……あの人も何者なんだろう? あの場所のことを何か知っていそうだが……」
考え込もうとする真人さんだが、すぐに我に返り、新しく取り付けられた注連縄の1つを丁寧に外した。
「勝手に外しちゃって……大丈夫なんですか?」
「外さないと潜れないだろう。帰る時に元通りにしておけば大丈夫さ」
これで2度目の侵入となる。
もう来ることはない場所だと思っていた。足を踏み入れるなんて二度とごめんだ。
だけど行くしかない。私はポケットに入っている護符をぎゅっと握る。峰岸さんがくれたものだ。
どうか私達をお守りください──……
トンネルを抜けると、しとしと降っていた雨はあがっていた。
頭上には灰色のまだら状の曇天が続いている。あの時と同じ空模様だ。
耳鳴りが──過去の世界へと連れ去る合図がした。
こんなところで……? 一体何が──?
△▼△
3人の人影が浮かび上がった。
大人の男女と幼い女の子だ。家族……だろうか?
全員粗末な着物を着ている。その身なりは、かなり古い時代の人物ということを示唆していた。
多分、ここが滅びる前に生きていた人々ではないかと思われる。
『ここを抜けたら、自由が待っている。バレないうちにさあ早く……』
男性がトンネルに入った直後、それは起きた。
『ぐっ!? ああぁぁッ!』
突然の断末魔の叫び。
男性の胸には刀が貫いていた。
背中から突き出た刃は血で紅く染まり、月明かりで妖しく輝いている。
男性は倒れ、絶命した。
女性と女の子は抱き合って、声にならない叫びをあげる。
『愚か者め。逃げおおせると思うたか』
慈悲の欠片もない声がした。
トンネルから現れたのは、白い法衣のような衣装を着た、もう少しで中年期に差し掛かるだろうと思われる男だ。
彼のすぐ後ろには、甲冑を装備して槍を携えた、物々しい雰囲気を放つ4人の屈強そうな男達。
法衣のような衣装──色は違うけど、いつかの夢で現れた男もそんな出で立ちだった。美しいけれど、ひどく酷薄な印象の男──。
この男は、あの男の仲間……なんだろうか?
法衣の男は、哀れにも、骸となった男性に突き刺さっている刀を引き抜いた。どうやら彼が犯人らしい……。
突然現れた男達を前にして、女性と女の子は死神に出会したかのように怯え、震え上がった。
『早急に“それ”は処分しておけ』
『はっ!』
“それ”──その言い方は、人間に対するものではなかった。
法衣の男に命じられ、武装した男のうちの2人が殺された男性をどこかへ運んでいく。
『此奴らはいかがしましょう?』
『明日、広場で処刑せよ。二度とこのような戯けた考えを抱かぬよう、“道具”どもの前で時間をかけて嬲り殺しにするがいい。良き見せしめとなるだろう』
直後、びちゃびちゃと液体を撒き散らすような音がした。
女性だ。体を前のめりにくの字に曲げ、激しく嘔吐した。
“嬲り殺し”という刑に処される──。その恐怖に耐えきれなかったのだろう。
『連れていけ』
『はっ!』
女性と女の子は連行されていく。
──ここで現実へと戻された……。
△▼△
途端に、腹部に鉛でも詰められたような重たさと不快感を覚えた。
あんな……あんな……か弱い女性と子供を──!
『時間をかけて嬲り殺しにするがいい』
再び、法衣の男の声が聴こえた気がした。
あの男は“道具ども”と言っていた。
それが、この集落に住んでいた人々を示していることは想像に難くない。
想像以上に、この土地には血塗られた過去があったようだ。
気分はますます塞ぐ。
…………ううん、これ以上考えるのは止めよう。
それよりも目の前のことに集中しないと。
噂の屋敷を目指し、私達は歩いていく。
それにしても……
辺りの風景に改めて目を向ける。
あの時も感じたが、やはりこの土地は何かがおかしい。
…………静かすぎるのだ。蝉や鳥の鳴き声が一切ない。
まるで、切り離された別の空間にいる。そんな錯覚をしてしまう。
私達を取り囲むのは、荒れた家屋と田畑の跡。
え──?
私はその光景に違和感を覚えた。
「ねえ、ここって……本当にあの時と同じ場所……?」
美伽が恐る恐る口にした。私の心を読み取ったかのようだ。
違和感の正体……それは打ち捨てられた家屋だ。前回来た時は、どこも倒壊していて見る影もなくひしゃげていた。
それが、どういうわけか復元しているのだ。
時間を遡った──という表現がしっくりくるかもしれない。
けれど、果たしてそんなことがあり得るのだろうか……。
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確かにその通りだ。
培ってきた常識はここではほとんど意味をなさない。
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