禁踏区

nami

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3章 呪い

13

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「また、その子か……」

「こう言うのも悪いけど、それ、信じてもいいの? だってさ、その子、幽霊……なわけでしょ?」

 美伽が疑う気持ちも理解できる。
 だけど、あの男の子からは悪意は全く感じないのも事実だ。

 理由はわからないけれど、あの子はあの亡霊を慕っているだけ……。
 そのことを2人に伝えた。

「だったら尚更信用できないじゃん! その子、あいつの手先ってわけでしょ!? それ、きっと罠だよっ!」

 頭を思いっきり殴られたような衝撃だった。
 そうか、そういう考え方もあるんだ……。

 ……わからなくなってきた。
 美伽の言い分が正しいとすれば、あの子はやはり敵……ということになってしまうのだろうか?

「考えていても仕方ないよ。それよりも早く進もう」

 真人さんは左側に伸びている廊下の方へと歩を進めていく。

「待ってくださいよ! もし罠だったら……」

「だとしても、どのみちあの場所に行かなきゃならないんだ。そうでないと俺達に未来はない……」

 その一言が効いたらしい。美伽は口を噤み従う。


 進んでいくと今度は二股に廊下は分かれている。


『今度は右に……』


 また、語りかけてきた。
 導かれるままに私達は進んでいく。


  そして……


『その扉から中庭に出られるよ……。早く来て……』


 扉を開けると屋外へと続いている。
 あの、池がある中庭だ。


 そして、例の離れ家も──……


 離れ家に視線を向けた。
 過剰なまでに配置されてあった錠前付きの格子戸。
 その奥にある部屋……。直接入ったわけではないけど、きっとそこは座敷牢になっているはず。


 男の子は“お兄ちゃんの部屋”と言っていた。


 それは、彼は生前、この離れ家に監禁されていたことを意味する。


 夢の中でちらりと見えた生前の姿。とても優しそうな人だった。
 そんな人がなぜ、監禁されなければならなかったんだろう……。
 離れ家の入り口を開けた。


「!?」


 懐中電灯で照らした先──それを見て私は驚愕した。


「あなたは……」


 格子戸の前に立っていたのは、冬服姿の男の子──私達をここに導いた本人であった。


「こ、この子が例の……?」

 美伽と真人さんも驚きを露にしているということは、彼らにも見えているということである。


 男の子は無表情に無言で両手を差し出してきた。
 美伽と真人さんは警戒する。


「真人さん、ケースを乗せてあげてください。多分、あの人に返してくれるんだと思う……」


 真人さんは訝しげな表情ながらも、言われた通りにしてくれた。


 ケースを受け取った男の子は、やはり無表情に無言だ。
 そして、スーっと消えてしまった。


 そのまま私達は、しばしそこに立ち尽くす。
 あの子と初対面の2人には、私に比べると驚きは倍だったのだろう。その顔は驚愕に固められている。


「……やるべきことはやったんだ。行こうか」


 停止していた時間を動かすように真人さんは言った。
 長居は無用ということで、私達は引き上げる。



 離れ家を出る寸前──



『返してくれて、ありがとう……』



 また、声が聴こえた。


 けれど、それは子供の声ではない。
 穏やかで優しげな男性の声だった。


 △▼△


 トンネルを出ると、真人さんは外した注連縄を元通りにした。蔦で入り口を覆い隠すことも忘れない。

「ふぅ、今回は怖いことは何も起きなくてよかったよね。まあ、本物の幽霊を見ることにはなったけどさ。でも、思ったよりも怖くなくてよかった……」

「きっと、峰岸さんがくれた護符が守ってくれたんだと思う」

 ポケットから護符を取りだした。それを見た瞬間、私の肌は粟立った。

「いやっ、何これ!?」

 美伽も自分の護符を見るなり悲鳴をあげた。


 ──純白であった護符が、まるで煤を塗りたくったように真っ黒に変色していたのだ……。


「護符が悪いものを吸い取ってくれたんだろうな。感謝の気持ちを込めてお焚き上げをしよう」

 そうだ。護符は私達を守ってくれたんだ。気味悪がってはバチが当たる。


 △▼△


 行きの車内はひたすらに重たい空気に支配されていたけれど、帰りの車内はいくらか空気も軽くなっていた。
 それは、去り際に聴こえたメッセージを2人に伝えたからだろう。
 美伽は嬉しそうに、その旨を未央さん達に電話で報告している。


『返してくれて、ありがとう……』


 優しげな男性の声が言っていた。
 これは、どう考えてもあの亡霊からのメッセージに他ならない。


 許しを得ることができた。
 だから向こうも、もう私達に敵意を向ける理由がない。


 だからきっと、大丈夫なはず──。




 ……そう思っていた。



 だけど、それは私達の勘違いであった。


 △▼△


「──ッ!」


 私は飛び起きると真っ先に自分の胸を確認した。


「そんなっ! どうして!?」


 これで捕まるのは3度目だ。
 つまり、痣は3本になったということ。

 背中で吹き出した汗が、パジャマをぺたりと皮膚に貼り付かせる。
 動悸が止まらない。
 遮るものは何もないのに、狭い場所に押し込められたような息苦しさを覚える。


 未だに繰り返される悪夢。


 どうして? どうして!?
 まるで……わからない──!



 そして、この数時間後……


 柏原さんが亡くなったことを知らされることになる──……。
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