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3章 呪い
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「また、その子か……」
「こう言うのも悪いけど、それ、信じてもいいの? だってさ、その子、幽霊……なわけでしょ?」
美伽が疑う気持ちも理解できる。
だけど、あの男の子からは悪意は全く感じないのも事実だ。
理由はわからないけれど、あの子はあの亡霊を慕っているだけ……。
そのことを2人に伝えた。
「だったら尚更信用できないじゃん! その子、あいつの手先ってわけでしょ!? それ、きっと罠だよっ!」
頭を思いっきり殴られたような衝撃だった。
そうか、そういう考え方もあるんだ……。
……わからなくなってきた。
美伽の言い分が正しいとすれば、あの子はやはり敵……ということになってしまうのだろうか?
「考えていても仕方ないよ。それよりも早く進もう」
真人さんは左側に伸びている廊下の方へと歩を進めていく。
「待ってくださいよ! もし罠だったら……」
「だとしても、どのみちあの場所に行かなきゃならないんだ。そうでないと俺達に未来はない……」
その一言が効いたらしい。美伽は口を噤み従う。
進んでいくと今度は二股に廊下は分かれている。
『今度は右に……』
また、語りかけてきた。
導かれるままに私達は進んでいく。
そして……
『その扉から中庭に出られるよ……。早く来て……』
扉を開けると屋外へと続いている。
あの、池がある中庭だ。
そして、例の離れ家も──……
離れ家に視線を向けた。
過剰なまでに配置されてあった錠前付きの格子戸。
その奥にある部屋……。直接入ったわけではないけど、きっとそこは座敷牢になっているはず。
男の子は“お兄ちゃんの部屋”と言っていた。
それは、彼は生前、この離れ家に監禁されていたことを意味する。
夢の中でちらりと見えた生前の姿。とても優しそうな人だった。
そんな人がなぜ、監禁されなければならなかったんだろう……。
離れ家の入り口を開けた。
「!?」
懐中電灯で照らした先──それを見て私は驚愕した。
「あなたは……」
格子戸の前に立っていたのは、冬服姿の男の子──私達をここに導いた本人であった。
「こ、この子が例の……?」
美伽と真人さんも驚きを露にしているということは、彼らにも見えているということである。
男の子は無表情に無言で両手を差し出してきた。
美伽と真人さんは警戒する。
「真人さん、ケースを乗せてあげてください。多分、あの人に返してくれるんだと思う……」
真人さんは訝しげな表情ながらも、言われた通りにしてくれた。
ケースを受け取った男の子は、やはり無表情に無言だ。
そして、スーっと消えてしまった。
そのまま私達は、しばしそこに立ち尽くす。
あの子と初対面の2人には、私に比べると驚きは倍だったのだろう。その顔は驚愕に固められている。
「……やるべきことはやったんだ。行こうか」
停止していた時間を動かすように真人さんは言った。
長居は無用ということで、私達は引き上げる。
離れ家を出る寸前──
『返してくれて、ありがとう……』
また、声が聴こえた。
けれど、それは子供の声ではない。
穏やかで優しげな男性の声だった。
△▼△
トンネルを出ると、真人さんは外した注連縄を元通りにした。蔦で入り口を覆い隠すことも忘れない。
「ふぅ、今回は怖いことは何も起きなくてよかったよね。まあ、本物の幽霊を見ることにはなったけどさ。でも、思ったよりも怖くなくてよかった……」
「きっと、峰岸さんがくれた護符が守ってくれたんだと思う」
ポケットから護符を取りだした。それを見た瞬間、私の肌は粟立った。
「いやっ、何これ!?」
美伽も自分の護符を見るなり悲鳴をあげた。
──純白であった護符が、まるで煤を塗りたくったように真っ黒に変色していたのだ……。
「護符が悪いものを吸い取ってくれたんだろうな。感謝の気持ちを込めてお焚き上げをしよう」
そうだ。護符は私達を守ってくれたんだ。気味悪がってはバチが当たる。
△▼△
行きの車内はひたすらに重たい空気に支配されていたけれど、帰りの車内はいくらか空気も軽くなっていた。
それは、去り際に聴こえたメッセージを2人に伝えたからだろう。
美伽は嬉しそうに、その旨を未央さん達に電話で報告している。
『返してくれて、ありがとう……』
優しげな男性の声が言っていた。
これは、どう考えてもあの亡霊からのメッセージに他ならない。
許しを得ることができた。
だから向こうも、もう私達に敵意を向ける理由がない。
だからきっと、大丈夫なはず──。
……そう思っていた。
だけど、それは私達の勘違いであった。
△▼△
「──ッ!」
私は飛び起きると真っ先に自分の胸を確認した。
「そんなっ! どうして!?」
これで捕まるのは3度目だ。
つまり、痣は3本になったということ。
背中で吹き出した汗が、パジャマをぺたりと皮膚に貼り付かせる。
動悸が止まらない。
遮るものは何もないのに、狭い場所に押し込められたような息苦しさを覚える。
未だに繰り返される悪夢。
どうして? どうして!?
まるで……わからない──!
そして、この数時間後……
柏原さんが亡くなったことを知らされることになる──……。
「こう言うのも悪いけど、それ、信じてもいいの? だってさ、その子、幽霊……なわけでしょ?」
美伽が疑う気持ちも理解できる。
だけど、あの男の子からは悪意は全く感じないのも事実だ。
理由はわからないけれど、あの子はあの亡霊を慕っているだけ……。
そのことを2人に伝えた。
「だったら尚更信用できないじゃん! その子、あいつの手先ってわけでしょ!? それ、きっと罠だよっ!」
頭を思いっきり殴られたような衝撃だった。
そうか、そういう考え方もあるんだ……。
……わからなくなってきた。
美伽の言い分が正しいとすれば、あの子はやはり敵……ということになってしまうのだろうか?
「考えていても仕方ないよ。それよりも早く進もう」
真人さんは左側に伸びている廊下の方へと歩を進めていく。
「待ってくださいよ! もし罠だったら……」
「だとしても、どのみちあの場所に行かなきゃならないんだ。そうでないと俺達に未来はない……」
その一言が効いたらしい。美伽は口を噤み従う。
進んでいくと今度は二股に廊下は分かれている。
『今度は右に……』
また、語りかけてきた。
導かれるままに私達は進んでいく。
そして……
『その扉から中庭に出られるよ……。早く来て……』
扉を開けると屋外へと続いている。
あの、池がある中庭だ。
そして、例の離れ家も──……
離れ家に視線を向けた。
過剰なまでに配置されてあった錠前付きの格子戸。
その奥にある部屋……。直接入ったわけではないけど、きっとそこは座敷牢になっているはず。
男の子は“お兄ちゃんの部屋”と言っていた。
それは、彼は生前、この離れ家に監禁されていたことを意味する。
夢の中でちらりと見えた生前の姿。とても優しそうな人だった。
そんな人がなぜ、監禁されなければならなかったんだろう……。
離れ家の入り口を開けた。
「!?」
懐中電灯で照らした先──それを見て私は驚愕した。
「あなたは……」
格子戸の前に立っていたのは、冬服姿の男の子──私達をここに導いた本人であった。
「こ、この子が例の……?」
美伽と真人さんも驚きを露にしているということは、彼らにも見えているということである。
男の子は無表情に無言で両手を差し出してきた。
美伽と真人さんは警戒する。
「真人さん、ケースを乗せてあげてください。多分、あの人に返してくれるんだと思う……」
真人さんは訝しげな表情ながらも、言われた通りにしてくれた。
ケースを受け取った男の子は、やはり無表情に無言だ。
そして、スーっと消えてしまった。
そのまま私達は、しばしそこに立ち尽くす。
あの子と初対面の2人には、私に比べると驚きは倍だったのだろう。その顔は驚愕に固められている。
「……やるべきことはやったんだ。行こうか」
停止していた時間を動かすように真人さんは言った。
長居は無用ということで、私達は引き上げる。
離れ家を出る寸前──
『返してくれて、ありがとう……』
また、声が聴こえた。
けれど、それは子供の声ではない。
穏やかで優しげな男性の声だった。
△▼△
トンネルを出ると、真人さんは外した注連縄を元通りにした。蔦で入り口を覆い隠すことも忘れない。
「ふぅ、今回は怖いことは何も起きなくてよかったよね。まあ、本物の幽霊を見ることにはなったけどさ。でも、思ったよりも怖くなくてよかった……」
「きっと、峰岸さんがくれた護符が守ってくれたんだと思う」
ポケットから護符を取りだした。それを見た瞬間、私の肌は粟立った。
「いやっ、何これ!?」
美伽も自分の護符を見るなり悲鳴をあげた。
──純白であった護符が、まるで煤を塗りたくったように真っ黒に変色していたのだ……。
「護符が悪いものを吸い取ってくれたんだろうな。感謝の気持ちを込めてお焚き上げをしよう」
そうだ。護符は私達を守ってくれたんだ。気味悪がってはバチが当たる。
△▼△
行きの車内はひたすらに重たい空気に支配されていたけれど、帰りの車内はいくらか空気も軽くなっていた。
それは、去り際に聴こえたメッセージを2人に伝えたからだろう。
美伽は嬉しそうに、その旨を未央さん達に電話で報告している。
『返してくれて、ありがとう……』
優しげな男性の声が言っていた。
これは、どう考えてもあの亡霊からのメッセージに他ならない。
許しを得ることができた。
だから向こうも、もう私達に敵意を向ける理由がない。
だからきっと、大丈夫なはず──。
……そう思っていた。
だけど、それは私達の勘違いであった。
△▼△
「──ッ!」
私は飛び起きると真っ先に自分の胸を確認した。
「そんなっ! どうして!?」
これで捕まるのは3度目だ。
つまり、痣は3本になったということ。
背中で吹き出した汗が、パジャマをぺたりと皮膚に貼り付かせる。
動悸が止まらない。
遮るものは何もないのに、狭い場所に押し込められたような息苦しさを覚える。
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