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本編
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それでも、信じていたかった。いつか、こんなおかしくなるほど執着する恋など、落ち着いてくると。我に返ってくれる日が来ると。
彼と過ごした時間は、長い。十年にもわたる親交はそんなに簡単に切れてしまう物ではないと。
なのに、アンドリュー様はわたくしよりも、知り合ってたった一年のクレア様を選ぶのだ。
クレア様がアンドリュー様を選んだわけではないことは、様子を見ていればわかる。婚約を破棄するほどの決定的な何かがあるようにも思えない。
「お前は、クレアになにをした」
憎しみさえこもった声でアンドリュー様が詰め寄ってくる。
「……アンドリュー様?」
「彼女を傷つける者など、誰であろうと許さない」
「何を、おっしゃっているのですか?」
「彼女に暴言を吐き、あらぬ噂を蔓延させ、下らぬ嫌がらせを頻繁に行い……お前はクレアを傷つけたのだろう!」
おかしい。彼は何を言っているのだろう。
その勢いに言葉を失い、何も言い返すことも出来ず、ただ首を横に振る。
こんな風に、一方的に誰かを断罪するような方ではなかったはずだ。
「クレアを傷つけるような者など許さない」
息が詰まり、声も出せず、やはりわたくしは首を横に振ることしか出来ない。
こんなの、アンドリュー様じゃない。人の言葉に耳も貸さず、一方的に人を責め立てるような、こんな……。
「わた、わたくしはっ」
声が涙でにじむ。震える声が、泣きそうになっているわたくしを暴いてしまう。泣きたくなんてない。こんな事に、こんな理不尽を許して良いはずがない。
ふとアンドリュー様の向こう、クレア様の姿が見える。
三人の男性に支えられるようにして震える可憐な姿が。でも、真正面から見ているわたくしにだけは、彼女の口元が、瞳が、楽しそうに笑っているのがわかる。
許せない。許せない、許せない!! なぜあなたは笑っているの! わたくしの大切な人を、こんな風に変えて!! こんな愚かな人ではなかった!! 優しくて、思慮深くて、冷淡なところもあるけれど、それでも愛情の深い人だった!! こんな人ではなかった!! この人をこんな風に変えておいて、あなたはなぜ笑っているの……!!
悔しくて涙がボロボロとこぼれる。こらえることが出来ない。
「わたくしは、そのようなこと、やっておりません!」
叫びながらアンドリュー様に訴えた。その瞳をのぞき込んだ。
「アンドリュー様…!!」
びくりと彼の体が震える。わたくしをねめつけていた瞳が、戸惑うように揺れる。
その時、クレア様の声がした。
「アンドリューさま、フェリアさまを責めないで差し上げて?」
震えるような声は、アンドリューの剣幕に脅えているかのように響いているが、その瞳の輝きがそれを裏切っている。クレア様は現状を楽しんでいるのだ。
怒りに震えながら彼女をにらみつければ、とたんに、問答無用で顔の向きを変えられる。
アンドリュー様が、私のあごを掴み、再び怒りを燃やした目線を向けてきていた。先ほどの戸惑いは、もうそこには見えない。
「クレアの優しさで、このまますむとは思うな。お前の犯した罪は、償ってもらう」
「わたくしは、やっておりません……!!」
「だまれ!」
やってなどいないこと責められ、罪とまで言われ、絶望を感じる。アンドリュー様は、もう、わたくしの知っているアンドリュー様ではないのだと。
「アンドリューさま……」
心配するようなクレアさまの声がする。彼の表情がうっとりと笑みを浮かべる。
「アンドリュー様」
私もまた彼の名前を呼んだ。あふれる涙が止まらない。けれど、アンドリュー様は、もう私を見つめてくれなかった。
声が、届かない……。
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