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本編
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「そこまでですわ」
突然、第三者の声が響く。目を向ければ、そこには皇太子殿下の婚約者候補でもある侯爵令嬢の姿があった。
彼女はちらりとこちらに目を向けてから、すぐに殿下の方へと視線を移す。
「いい加減に目を覚ましてくださらないと、そろそろ取り返しが付かなくなりますわよ」
ため息交じりの声に、また君か、と、とがった声が反応した。
「年下の女性に、このような行為、止めることもなさらないなんて紳士のすることではございませんわね」
「クレアを害した女だ、仕方あるまい」
殿下と侯爵令嬢が言葉を交わす。
「クレア、クレア、クレアと!! もう聞き飽きましたわ!!」
殿下に向けて心底不愉快そうに言葉を投げつけた後、侯爵令嬢は再びこちらに目を向けてきた。
「……ねえ、あなた。フェリア様とおっしゃったかしら?」
「は、はい」
「この方達の様子、おかしいと思ったことは?」
うっすらと笑みを浮かべている侯爵令嬢に、わたくしは戸惑いながらもうなずく。
「どのように?」
「まるで、クレア様の言葉しか聞こえてないかのようですわ……」
「ええ、わたくしも同じように思っておりましたの。そこで、わたくし、調べてみましたのよ。何か、そのように人を操る方法がないのかと。そしたら、おもしろい文献が見つかりましたの。……ねぇ、クレア様? あなた様の血筋には、ずいぶんとおもしろい方がいらっしゃるようね? 未だ魔術が色濃く残るといわれている彼方の国の、魔術師の血」
クレア様は突然侯爵令嬢に声をかけられ、いかにも困惑した様子で不安げに首をかしげた。
「何のことだか、わかりません」
「……なんのつもりだ。侯爵家の令嬢にそんな風に詰め寄られては、クレアが恐れてしまう。退け」
皇太子殿下の言葉に、侯爵令嬢は薄く笑った。
「殿下。この方がおっしゃったんですの?フェリア様が、クレア様を害したと?」
「ああ、そうだ」
「しておりません……!! わたくし、そのようなことは、一度も!!」
とっさに出てきた叫び声に、侯爵令嬢が小さくうなずいてくださり、そしてクレア様は……びくりと体を震わせた。
わざとらしい。
その様子が悔しくて唇をかみしめる。
「そうやって、そんな顔をして、クレアを苦しめるのか」
低い声がそばで響く。
アンドリュー様が、わたくしを冷たい目で見下ろしていた。
「……そんなっ」
「婚約者に、そのような冷たい顔をなさる物ではありませんわ。……で、クレア様の言葉を裏付ける、証拠はございまして?」
侯爵令嬢がわたくしをかばうように動いてくださった。
「……証拠? 当然証拠な、ど……」
自信ありげに言いかけて、ふっと、動きが止まる。最近クレア様がいないときによく見せる、ぼんやりとした様子、……それは、まるで思考が突然に止まったように見えた。
「……アンドリューさま?」
クレア様がそっと声をかける。とたんにはっとした様子で彼は当然のように言い放った。
「……クレアがそう言ったのだ、間違いなどない」
迷いのない様子にめまいがする。それが、立場のある者が言う言葉だろうか。
「……間違いない、ですわね」
隣でぼそりとつぶやいた侯爵令嬢の声に、はっとする。
間違いない、とは、先ほどおっしゃっていた、魔術師の血のことだろうか。
「血を、飲ませるのだそうですわ」
「……え?」
「魔術師の血は、一時的な酩酊感を持たせるのだそうです。その間に洗脳すれば、その者は魔術師の傀儡に等しくなってしまうのだとか。詳しいことはわたくしもわかっておりません。ですが、まさしく傀儡ですわね。考えようとしたとたん、まるでそれを拒絶されるように体がとまってしまわれたのが、わかりましたでしょう?」
「はい」
「そして、彼女の声で我に返り、彼女をなんの疑いもなく肯定した……」
それは、クレア様のこと以外は、考えられなくなっている、ということなのだろうか。他のことに思考を働かせようとすると、意識がとまってしまう、と……?
そう考えれば、アンドリュー様の様子につじつまが合う。他のことに関心がなくなったわけではない、……考えることが、出来なくなっていた……?
でも、わたくしが話しかけたときは、一度は必ず反応をしていらした。それの意味するところは……。
突然、第三者の声が響く。目を向ければ、そこには皇太子殿下の婚約者候補でもある侯爵令嬢の姿があった。
彼女はちらりとこちらに目を向けてから、すぐに殿下の方へと視線を移す。
「いい加減に目を覚ましてくださらないと、そろそろ取り返しが付かなくなりますわよ」
ため息交じりの声に、また君か、と、とがった声が反応した。
「年下の女性に、このような行為、止めることもなさらないなんて紳士のすることではございませんわね」
「クレアを害した女だ、仕方あるまい」
殿下と侯爵令嬢が言葉を交わす。
「クレア、クレア、クレアと!! もう聞き飽きましたわ!!」
殿下に向けて心底不愉快そうに言葉を投げつけた後、侯爵令嬢は再びこちらに目を向けてきた。
「……ねえ、あなた。フェリア様とおっしゃったかしら?」
「は、はい」
「この方達の様子、おかしいと思ったことは?」
うっすらと笑みを浮かべている侯爵令嬢に、わたくしは戸惑いながらもうなずく。
「どのように?」
「まるで、クレア様の言葉しか聞こえてないかのようですわ……」
「ええ、わたくしも同じように思っておりましたの。そこで、わたくし、調べてみましたのよ。何か、そのように人を操る方法がないのかと。そしたら、おもしろい文献が見つかりましたの。……ねぇ、クレア様? あなた様の血筋には、ずいぶんとおもしろい方がいらっしゃるようね? 未だ魔術が色濃く残るといわれている彼方の国の、魔術師の血」
クレア様は突然侯爵令嬢に声をかけられ、いかにも困惑した様子で不安げに首をかしげた。
「何のことだか、わかりません」
「……なんのつもりだ。侯爵家の令嬢にそんな風に詰め寄られては、クレアが恐れてしまう。退け」
皇太子殿下の言葉に、侯爵令嬢は薄く笑った。
「殿下。この方がおっしゃったんですの?フェリア様が、クレア様を害したと?」
「ああ、そうだ」
「しておりません……!! わたくし、そのようなことは、一度も!!」
とっさに出てきた叫び声に、侯爵令嬢が小さくうなずいてくださり、そしてクレア様は……びくりと体を震わせた。
わざとらしい。
その様子が悔しくて唇をかみしめる。
「そうやって、そんな顔をして、クレアを苦しめるのか」
低い声がそばで響く。
アンドリュー様が、わたくしを冷たい目で見下ろしていた。
「……そんなっ」
「婚約者に、そのような冷たい顔をなさる物ではありませんわ。……で、クレア様の言葉を裏付ける、証拠はございまして?」
侯爵令嬢がわたくしをかばうように動いてくださった。
「……証拠? 当然証拠な、ど……」
自信ありげに言いかけて、ふっと、動きが止まる。最近クレア様がいないときによく見せる、ぼんやりとした様子、……それは、まるで思考が突然に止まったように見えた。
「……アンドリューさま?」
クレア様がそっと声をかける。とたんにはっとした様子で彼は当然のように言い放った。
「……クレアがそう言ったのだ、間違いなどない」
迷いのない様子にめまいがする。それが、立場のある者が言う言葉だろうか。
「……間違いない、ですわね」
隣でぼそりとつぶやいた侯爵令嬢の声に、はっとする。
間違いない、とは、先ほどおっしゃっていた、魔術師の血のことだろうか。
「血を、飲ませるのだそうですわ」
「……え?」
「魔術師の血は、一時的な酩酊感を持たせるのだそうです。その間に洗脳すれば、その者は魔術師の傀儡に等しくなってしまうのだとか。詳しいことはわたくしもわかっておりません。ですが、まさしく傀儡ですわね。考えようとしたとたん、まるでそれを拒絶されるように体がとまってしまわれたのが、わかりましたでしょう?」
「はい」
「そして、彼女の声で我に返り、彼女をなんの疑いもなく肯定した……」
それは、クレア様のこと以外は、考えられなくなっている、ということなのだろうか。他のことに思考を働かせようとすると、意識がとまってしまう、と……?
そう考えれば、アンドリュー様の様子につじつまが合う。他のことに関心がなくなったわけではない、……考えることが、出来なくなっていた……?
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