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本編
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「そろそろ、よろしいでしょうか」
突然に侯爵令嬢が声を張り上げた。
「この程度の状況証拠では足らないかとは思いますが、これ以上の放置は危険であると判断していただけませんか?」
現れた騎士達に、息を飲む。
「……父上!」
騎士団長の存在にクレア様の隣にいた団長の息子が声をあげる。
「動くな」
わずかに表情を曇らせた団長であったが、すぐにその表情から感情を消し、彼の指示によってクレア様を始め、彼女を取り巻くお三方、そしてアンドリュー様が拘束されてゆく。
「父上、なぜ、このような……!」
「団長殿、クレアをお放しください、彼女はか弱き乙女です」
口々に訴える彼らの言葉に、団長は「そんなことすらも判断が付かなくなったのか」と、重いため息をついた。
「……騎士団長様、あの、アンドリュー様は、皆様は、どのような……」
「……君はアンドリュー殿の、婚約者殿、だね」
「はい」
「ひとまずは、保護という形でこちらで拘束することとなっている。調べが付き次第、対処が決まるのだが、今は何とも言えない」
「……そうですか」
「離して! 離しなさいよ……!!」
甲高い叫び声が上がり団長との会話が途切れる。そちらに目を向ければ、今までの楚々とした様子とは打って変わったクレア様がいた。声を張り上げて暴れている。
「みんな、私を助けて! お願い……!!」
「……クレア!!」
すぐそばで拘束されていたアンドリュー様が声を張り上げた。
「すぐ助ける……!!」
「……動くな。お前達が動けば、すぐさまクレア嬢の首を掻き切る」
団長のその言葉に反応して、クレア様を押さえていた騎士が、剣をその首に当てる。
ぴたりと四人の動きが止まった。
首に剣を当てられ、ぐっと詰まったかに見えたクレア様は、次の瞬間、声をあげて笑い出した。
「あはははははは! 思ったより早かったわね!……いいえ、遅かったのかしら?」
クレア様がにやりと笑って団長を、侯爵令嬢を、そしてわたくしを見た。
「ざーんねん。ゲームオーバーね。……ほんっと、つまらない世界。せっかくヒロインになったみたいだから全部手に入れるかもしれないと思ったのに。ちょっとぐらい無理したけど、もうちょっとおもしろくなるかと思ったのに」
つまらなそうに口をとがらす彼女は、四人の男達に目を走らせる。
彼女の言っている意味がわからない。ゲームオーバー? ヒロイン? 彼女は、何を目指していたの?
「クレ、ア……?」
「馬鹿な男達。あたしにつけいられて、操られて。……それでも、愛しているのよ……」
クレア様が、にやぁと笑みを浮かべた。
「望まぬ世界でどうせ汚く腐るなら、愛する男を道連れにしてこの世界を狂わせてやろうと思ってたんだけど」
あははは! と何がおかしいのか声をあげて笑い出した。そして笑いが途絶えると、怒り狂った様子で叫びだした。
「こんな世界、大っ嫌い!!なんで壊れないの! なんでここでバレるの! はやく壊れなさいよ! 今すぐ終わって! そしたらあたしは元の世界に……! 私の世界に……!!」
意味のわからないことを大声でわめき、彼女は、ぜぇぜぇと息を吐く。そして、うふふと軽やかに笑う。彼女の感情の変化についていけない。気が狂っているようにしか見えない。気持ち悪いほどに怖い。
「……まぁ、良いわ。だーいすきな彼らには、あたしの存在は刻みつけてやったから」
「もう良い、黙りなさい」
団長が口を挟む。すると、うふふっとクレア様は微笑んで、「なんてダンディーなおじさま」と場違いなことを口にする。
「あら、もう少し、聞いた方が良いわ。あたしの力について、聞きたいでしょう?」
「何が言いたいのだね?」
「血の呪いはね、離されていれば、そのうち薄れてゆくの。だからぁ、このままあたしと離してしまえば彼らはまた元に戻るわ。でもそこに一つ、条件があるの。私に会えば、また簡単に支配されちゃうのよ。うふふ。素敵でしょう?」
可憐な姿からは思いも寄らない毒々しい言葉が漏れてくる。
けれどなぜそんな自分に不利なことを彼女は話しているのだろう。何か企みが……? それとも、嘘を……?
わたくしには判断が付かず、ちらりと団長と侯爵令嬢を盗み見る。団長の表情は読めず、侯爵令嬢の表情は厳しい。
「つまりぃ、あなたたちにとって、どうあっても、あたしは邪魔っていう訳なのよねぇ。だからあたし、考えてたのよ。失敗したときはどうするのか。ねぇ、アンドリューさま?」
にやりと笑った彼女が、笑顔のまま四人の名前を一人ずつ呼んでいく。
そして彼らの視線を一身に集めた彼女は高らかに笑った。
「あたしを愛してくれて、ありがとう。楽しかったわ? ……その記憶を持って、あたしを思い出す度に苦しみなさいな! これは愛の証よ! あなたたちの心に、クレアという名の生涯消えない傷を刻みつけてあげるわ!」
そう叫ぶと彼女は「あはははは」と高らかに笑いながら、拘束の為に添えられていた剣に向けて、自身の首を差し出した。
瞬間、目の前が真っ赤に染まったのような錯覚を覚えた。
視界を染めるほどに飛び散っている血しぶき。遠くに聞こえる自分自身の叫び声、わめくようにくわんくわんと響くアンドリュー様の声。他にも、いろいろな音が景色が、私の耳を目を、意味もなく通り過ぎてゆく。
視界の端で、アンドリュー様を始め、四人の体が、ふつりと力を失い倒れるのが見える。何が起こっているのか理解出来ないまま、私もまた、体の力が抜けるのを、そして意識が遠のくのを感じた。
突然に侯爵令嬢が声を張り上げた。
「この程度の状況証拠では足らないかとは思いますが、これ以上の放置は危険であると判断していただけませんか?」
現れた騎士達に、息を飲む。
「……父上!」
騎士団長の存在にクレア様の隣にいた団長の息子が声をあげる。
「動くな」
わずかに表情を曇らせた団長であったが、すぐにその表情から感情を消し、彼の指示によってクレア様を始め、彼女を取り巻くお三方、そしてアンドリュー様が拘束されてゆく。
「父上、なぜ、このような……!」
「団長殿、クレアをお放しください、彼女はか弱き乙女です」
口々に訴える彼らの言葉に、団長は「そんなことすらも判断が付かなくなったのか」と、重いため息をついた。
「……騎士団長様、あの、アンドリュー様は、皆様は、どのような……」
「……君はアンドリュー殿の、婚約者殿、だね」
「はい」
「ひとまずは、保護という形でこちらで拘束することとなっている。調べが付き次第、対処が決まるのだが、今は何とも言えない」
「……そうですか」
「離して! 離しなさいよ……!!」
甲高い叫び声が上がり団長との会話が途切れる。そちらに目を向ければ、今までの楚々とした様子とは打って変わったクレア様がいた。声を張り上げて暴れている。
「みんな、私を助けて! お願い……!!」
「……クレア!!」
すぐそばで拘束されていたアンドリュー様が声を張り上げた。
「すぐ助ける……!!」
「……動くな。お前達が動けば、すぐさまクレア嬢の首を掻き切る」
団長のその言葉に反応して、クレア様を押さえていた騎士が、剣をその首に当てる。
ぴたりと四人の動きが止まった。
首に剣を当てられ、ぐっと詰まったかに見えたクレア様は、次の瞬間、声をあげて笑い出した。
「あはははははは! 思ったより早かったわね!……いいえ、遅かったのかしら?」
クレア様がにやりと笑って団長を、侯爵令嬢を、そしてわたくしを見た。
「ざーんねん。ゲームオーバーね。……ほんっと、つまらない世界。せっかくヒロインになったみたいだから全部手に入れるかもしれないと思ったのに。ちょっとぐらい無理したけど、もうちょっとおもしろくなるかと思ったのに」
つまらなそうに口をとがらす彼女は、四人の男達に目を走らせる。
彼女の言っている意味がわからない。ゲームオーバー? ヒロイン? 彼女は、何を目指していたの?
「クレ、ア……?」
「馬鹿な男達。あたしにつけいられて、操られて。……それでも、愛しているのよ……」
クレア様が、にやぁと笑みを浮かべた。
「望まぬ世界でどうせ汚く腐るなら、愛する男を道連れにしてこの世界を狂わせてやろうと思ってたんだけど」
あははは! と何がおかしいのか声をあげて笑い出した。そして笑いが途絶えると、怒り狂った様子で叫びだした。
「こんな世界、大っ嫌い!!なんで壊れないの! なんでここでバレるの! はやく壊れなさいよ! 今すぐ終わって! そしたらあたしは元の世界に……! 私の世界に……!!」
意味のわからないことを大声でわめき、彼女は、ぜぇぜぇと息を吐く。そして、うふふと軽やかに笑う。彼女の感情の変化についていけない。気が狂っているようにしか見えない。気持ち悪いほどに怖い。
「……まぁ、良いわ。だーいすきな彼らには、あたしの存在は刻みつけてやったから」
「もう良い、黙りなさい」
団長が口を挟む。すると、うふふっとクレア様は微笑んで、「なんてダンディーなおじさま」と場違いなことを口にする。
「あら、もう少し、聞いた方が良いわ。あたしの力について、聞きたいでしょう?」
「何が言いたいのだね?」
「血の呪いはね、離されていれば、そのうち薄れてゆくの。だからぁ、このままあたしと離してしまえば彼らはまた元に戻るわ。でもそこに一つ、条件があるの。私に会えば、また簡単に支配されちゃうのよ。うふふ。素敵でしょう?」
可憐な姿からは思いも寄らない毒々しい言葉が漏れてくる。
けれどなぜそんな自分に不利なことを彼女は話しているのだろう。何か企みが……? それとも、嘘を……?
わたくしには判断が付かず、ちらりと団長と侯爵令嬢を盗み見る。団長の表情は読めず、侯爵令嬢の表情は厳しい。
「つまりぃ、あなたたちにとって、どうあっても、あたしは邪魔っていう訳なのよねぇ。だからあたし、考えてたのよ。失敗したときはどうするのか。ねぇ、アンドリューさま?」
にやりと笑った彼女が、笑顔のまま四人の名前を一人ずつ呼んでいく。
そして彼らの視線を一身に集めた彼女は高らかに笑った。
「あたしを愛してくれて、ありがとう。楽しかったわ? ……その記憶を持って、あたしを思い出す度に苦しみなさいな! これは愛の証よ! あなたたちの心に、クレアという名の生涯消えない傷を刻みつけてあげるわ!」
そう叫ぶと彼女は「あはははは」と高らかに笑いながら、拘束の為に添えられていた剣に向けて、自身の首を差し出した。
瞬間、目の前が真っ赤に染まったのような錯覚を覚えた。
視界を染めるほどに飛び散っている血しぶき。遠くに聞こえる自分自身の叫び声、わめくようにくわんくわんと響くアンドリュー様の声。他にも、いろいろな音が景色が、私の耳を目を、意味もなく通り過ぎてゆく。
視界の端で、アンドリュー様を始め、四人の体が、ふつりと力を失い倒れるのが見える。何が起こっているのか理解出来ないまま、私もまた、体の力が抜けるのを、そして意識が遠のくのを感じた。
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