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本編
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何度も傷つけられた。だから二の足を踏んでしまうのは仕方のないこと。ただ、彼から逃れると幸せになれる保証があるわけでもない。彼のそばにいると再び傷つくかもしれない。けれど雅貴は言葉通り本当に実咲だけを思い続けるかもしれない。
未来は、何を選んだとしても、保証なんてないのだから。
だとすれば、実咲は雅貴のそばにいることを選ぶ方が幸せなのかもしれない。
いくら考えたところで、どの選択肢を選んでも結局どれも確証のあるものなどないのだ。ならば、もう一度傷つく覚悟で、今幸せと感じられる道を選ぶのもまた一つの選択肢だと思う。
言い訳じみてる。
実咲は頭の片隅で自嘲した。
けれど、それでいい。
言い訳でいい。雅貴と一緒にいられるだけの理由になるのなら。それで自分が納得がいくのなら。
実咲にしがみつくように抱きしめていた雅貴の腕がふとゆるむ。顔を上げた実咲の目に雅貴の顔が映る。躊躇ったように実咲を見つめている。
「……キスしていい? 今、実咲に、すごくキスしたい」
実咲は笑って雅貴の背中に腕をまわした。キスひとつに躊躇う雅貴が見えただけでも、この選択は正解だったかも知れないと思うくらいに、貴重な言葉だと思った。
雅貴がコツンと、実咲の額に額を合わせる。
近すぎて顔がぼやけるのを、実咲はじっと見つめた。
「実咲が、好きだ」
囁く吐息が、実咲をそっとくすぐる。
「……会いたかった。ずっと、会いたかった。実咲と、言葉を交わしたかった。実咲に、触れたかった」
震える声が吐息と共に漏れて、唇と唇が、かするように触れる。
「実咲」
切望するような声が聞こえる。それは歓喜となって実咲の背筋を駆け上るようにゾクゾクと体を震わせた。
「俺は、実咲が、好きだ」
絞り出すような囁きの後、深く、深く唇が重なる。
泣きたいほど幸せな雅貴とのキスが繰り返される。
幸せだった。
重なる唇の感触が、懐かしく、愛おしく、実咲の心を幸せで満たす。
キスを交わしながら実咲は何もかもどうでもいい気分で思う。今は、少しの不安も未来も何も考えず、雅貴の側にいようと。この幸せに流されてしまおうと。
長いキスの後、離れた唇から溜息のような吐息が漏れる。息の上がった浅い呼吸をする実咲の体から、不意に雅貴の温もりが離れた。
雅貴はそのまま腕をほどく。
「ありがとう」
雅貴はぎこちなく笑うと更に体を離した。
「え……?」
思いがけない言葉と行動に、実咲は首をかしげた。
「その、今日は、帰るよ」
実咲は、後ずさるように離れていく雅貴の顔をのぞき見る。貼り付けたようなその笑顔と離れた意味を考える。
雅貴らしくない。
平たく言うと、いたせるときにいたすのが彼らしさだ。今の行動の違和感は、その辺りにある。
逃げているように見えるのだが、まさかね、と実咲は雅貴を探るように見つめた。
「どうしたの?」
ぼそっと呟くと、雅貴がえっと顔を上げる。
「雅貴、なんか変」
歯切れの悪い雅貴に、実咲はからかうように雅貴に詰め寄った。
「……何が?」
雅貴がぎこちなく目をそらす。
「しないの?」
「……していいの?」
うなるような低い声で雅貴が確認してくる。
お預けをくらった犬みたいだと実咲は思った。そうなると、おかしくて笑いがこみ上げてくる。
まさかとは思ったけど、やっぱり、そうかも知れない。
雅貴が、私に、遠慮してる。
恋愛を関係に持ち込んでから、ずっと実咲は雅貴のすることに引っ張られっぱなしだった。慣れていない実咲からすると、最初の頃それはありがたかったけれど、今思えば、対等ではなかったのかもしれない。
なんだか、くすぐったいようなうれしさがこみ上げる。
これからは、これまでとは違う関係を築くのだと、信じられる気がした。
「そんな事、確認したことないくせに」
「……実咲に嫌われたくない」
雅貴がまるですねたように目を背けたまま低い声で呟く。
「今更」
実咲は笑いをこらえながらつっこんだ。
以前はずっと主導権は雅貴にあったような気がするが、少なくとも現時点では、主導権は自分にあるのかも知れないと、実咲は気付く。
これは、面白いかも。
たじろいでいる雅貴を見ながら、実咲はほくそ笑んだ。
「これでも、反省しているんだ。その、俺の都合ばかり実咲に押しつけてきたのを」
「ようやく自覚したの?」
体を引きながらもごもごと言い訳する雅貴を、実咲はにやにや笑いながら見つめると、雅貴が少し開き直ったように実咲をみた。
「はい、すみませんでした」
「心がこもってない」
実咲は笑って雅貴の顔をのぞき込んで、そのままキスをした。
「……いいよ」
実咲は呟いた。
「え?」
躊躇う雅貴の表情は見えない。けれど、実咲は雅貴の首に腕を絡めてもう一度キスをする。
「……いただきます」
耳元で囁いた雅貴の声が妙に神妙で、実咲は笑いながら雅貴を抱きしめる腕に力を込めた。
これなら意外と、やって行けそうな気がした。
未来は、何を選んだとしても、保証なんてないのだから。
だとすれば、実咲は雅貴のそばにいることを選ぶ方が幸せなのかもしれない。
いくら考えたところで、どの選択肢を選んでも結局どれも確証のあるものなどないのだ。ならば、もう一度傷つく覚悟で、今幸せと感じられる道を選ぶのもまた一つの選択肢だと思う。
言い訳じみてる。
実咲は頭の片隅で自嘲した。
けれど、それでいい。
言い訳でいい。雅貴と一緒にいられるだけの理由になるのなら。それで自分が納得がいくのなら。
実咲にしがみつくように抱きしめていた雅貴の腕がふとゆるむ。顔を上げた実咲の目に雅貴の顔が映る。躊躇ったように実咲を見つめている。
「……キスしていい? 今、実咲に、すごくキスしたい」
実咲は笑って雅貴の背中に腕をまわした。キスひとつに躊躇う雅貴が見えただけでも、この選択は正解だったかも知れないと思うくらいに、貴重な言葉だと思った。
雅貴がコツンと、実咲の額に額を合わせる。
近すぎて顔がぼやけるのを、実咲はじっと見つめた。
「実咲が、好きだ」
囁く吐息が、実咲をそっとくすぐる。
「……会いたかった。ずっと、会いたかった。実咲と、言葉を交わしたかった。実咲に、触れたかった」
震える声が吐息と共に漏れて、唇と唇が、かするように触れる。
「実咲」
切望するような声が聞こえる。それは歓喜となって実咲の背筋を駆け上るようにゾクゾクと体を震わせた。
「俺は、実咲が、好きだ」
絞り出すような囁きの後、深く、深く唇が重なる。
泣きたいほど幸せな雅貴とのキスが繰り返される。
幸せだった。
重なる唇の感触が、懐かしく、愛おしく、実咲の心を幸せで満たす。
キスを交わしながら実咲は何もかもどうでもいい気分で思う。今は、少しの不安も未来も何も考えず、雅貴の側にいようと。この幸せに流されてしまおうと。
長いキスの後、離れた唇から溜息のような吐息が漏れる。息の上がった浅い呼吸をする実咲の体から、不意に雅貴の温もりが離れた。
雅貴はそのまま腕をほどく。
「ありがとう」
雅貴はぎこちなく笑うと更に体を離した。
「え……?」
思いがけない言葉と行動に、実咲は首をかしげた。
「その、今日は、帰るよ」
実咲は、後ずさるように離れていく雅貴の顔をのぞき見る。貼り付けたようなその笑顔と離れた意味を考える。
雅貴らしくない。
平たく言うと、いたせるときにいたすのが彼らしさだ。今の行動の違和感は、その辺りにある。
逃げているように見えるのだが、まさかね、と実咲は雅貴を探るように見つめた。
「どうしたの?」
ぼそっと呟くと、雅貴がえっと顔を上げる。
「雅貴、なんか変」
歯切れの悪い雅貴に、実咲はからかうように雅貴に詰め寄った。
「……何が?」
雅貴がぎこちなく目をそらす。
「しないの?」
「……していいの?」
うなるような低い声で雅貴が確認してくる。
お預けをくらった犬みたいだと実咲は思った。そうなると、おかしくて笑いがこみ上げてくる。
まさかとは思ったけど、やっぱり、そうかも知れない。
雅貴が、私に、遠慮してる。
恋愛を関係に持ち込んでから、ずっと実咲は雅貴のすることに引っ張られっぱなしだった。慣れていない実咲からすると、最初の頃それはありがたかったけれど、今思えば、対等ではなかったのかもしれない。
なんだか、くすぐったいようなうれしさがこみ上げる。
これからは、これまでとは違う関係を築くのだと、信じられる気がした。
「そんな事、確認したことないくせに」
「……実咲に嫌われたくない」
雅貴がまるですねたように目を背けたまま低い声で呟く。
「今更」
実咲は笑いをこらえながらつっこんだ。
以前はずっと主導権は雅貴にあったような気がするが、少なくとも現時点では、主導権は自分にあるのかも知れないと、実咲は気付く。
これは、面白いかも。
たじろいでいる雅貴を見ながら、実咲はほくそ笑んだ。
「これでも、反省しているんだ。その、俺の都合ばかり実咲に押しつけてきたのを」
「ようやく自覚したの?」
体を引きながらもごもごと言い訳する雅貴を、実咲はにやにや笑いながら見つめると、雅貴が少し開き直ったように実咲をみた。
「はい、すみませんでした」
「心がこもってない」
実咲は笑って雅貴の顔をのぞき込んで、そのままキスをした。
「……いいよ」
実咲は呟いた。
「え?」
躊躇う雅貴の表情は見えない。けれど、実咲は雅貴の首に腕を絡めてもう一度キスをする。
「……いただきます」
耳元で囁いた雅貴の声が妙に神妙で、実咲は笑いながら雅貴を抱きしめる腕に力を込めた。
これなら意外と、やって行けそうな気がした。
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