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真麻一花

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囚心

13


 そう言えば、あのあたりからだな、と、雅貴は家を出た原因を思い出して顔をゆがめる。
 家を出てから、女の子とのつきあい方が変わっていった。今なら何とか冷静にあの頃のことを思い出せる。変わったのは間違いなく、アレがきっかけだった。

 母がいた時は、もっと女の子を大切にしていた。大切にしていたというか、普通だった。格別女好きでもなかったし、それほど女の子に興味もなかった。どちらかといえば男友達と遊ぶ方が楽しかった。
 初めて女の子と付き合った時も、それ以降も普通の男女交際の域を出なかったし、彼女のことを普通に大切にしていた。二股とか考えたこともなければ、したこともなかった。
 性的なことには、年齢的にもそれなりに興味を持っていたため、そういう意味では女の子に興味はあったけれど、遊ぶのなら男同士の方が楽しかったこともあって、やる事はやっていたが、普通に楽しく、ほどほどに淡泊なつきあいだった。

 義母からのレイプ未遂の後、一時期は、義理の母親年齢の小綺麗な女性を軽視していた時期もあった。けれど反動が来ているという自覚もあったし、犬と一緒に一人暮らしを始めたことですぐに落ち着いた。

 けれど今になって思えば、決して落ち着いていなかったのだ。
 雅貴は思い返しながら、はっきりと自覚する。

 女の子との付き合い方がおかしくなったのは一人暮らしを始めてからだった。
 今までその事に関しては、一人暮らしのせいで生活が乱れた程度にしか考えていなかった。
 しかし自身の変化を自覚した今、あの頃を思い返すにつれ、自分の女の子との付き合い方が、おかしくなっていった過程が思い出され、ぞっとした。

 当時の彼女と付き合ったのは、義母から逃げるように一人暮らしを始めてからすぐだった。
 ちょうど彼女がいない時期に「付き合って下さい」と言われたのだ。
 その子はそれまで付き合ってきたような好みの女の子ではなかった。雅貴がそれまで好意を抱いていたのはもっと落ち着いた穏やかそうな子だったのに、その時は、少し派手目でそれまでなら断っていただろう女の子からの告白を断らなかった。

 それは、なぜだったのか。
 もしかしたら、と雅貴は考える。
 女の子と付き合うことで、女性に対して抱くようになっていた不快感や不信感を払拭しようとしたのではなかったか、つまり雅貴は義理の母親の影から逃げる術に、彼女を利用したのではないのか。

 だとしたら、運も悪かったのだろう。付き合ったその彼女は、雅貴の見た目しか見ていなかったのだから。ルックスの良い、隣につれて歩けば自慢できる彼氏が欲しいだけだったのだから。
 そんな彼女の姿は、雅貴の体を目当てにした義理の母親に、どこか重なって見えたのかもしれない。

 当時は一人暮らしで、やりたいお年頃だっただけだと自分でも思い込んでいたが、今思うと、それだけでは説明できないほどに、雅貴は彼女を家に連れ込むようになっていた。
 好きだったわけでもない。だから一緒にいたいわけでは当然無い。寂しいというには、雅貴を気遣ってくれる友達がたくさんいたからそれもない。セックスにおぼれていたと言うには、あまりにも雅貴は冷めていた。

 言うならば、アレは、征服欲だった。
 あの時の感覚は今でも思い出せる。なぜなら、実咲に見放されるまで、女性に対して持っていた感情と全く同じだったから。
 セックスがおもしろかったのではなく、自分の言いなりになる彼女の姿を見るのが快感だったと言っても良い。

 そんな雅貴の、とてもではないがまともとは言い難い付き合い方が、更に悪循環を加速させたのだろう。
 あれから、雅貴の女性との付き合い方が、まるで転落するように乱れていった。



 気付いた諸々の事象と、自身の変化にぞっとする。ぞわりと震えてから、雅貴は、指先が冷えていることに気付いた。

 自分はおそらく、抱いてきた女性を通じて、彼女たちを征服することで義理の母親を見下し、あざけり、何でもない女だと、あんな事はたいしたことではなかったのだと感じたかったのではないかと、そう思えた。

 今まで抱いてきた女性は、あの義理の母親の代用だったのではないか。

 雅貴の中で、それらの考えが、自分の感情にカチリと当てはまって行く。

 俺は今まで、あの出来事を引きずっていたのか……?

 考えてみた物の、まさかという思いが強かった。もう九年も前の話だ。それに未遂でしかなく、ただ押し倒されただけのことだ。今まで何の感情もなく女性を抱いてきた、それと大差ないじゃないか。
 そう自分に言い訳しようとした。

 けれど、考えれば、考えるほど、自分があの出来事を引きずっていたとしか思えない事実にばかり思い当たる。

 義理の母親への嫌悪感は、レイプ未遂だけではないのだ。彼女は脅迫することで雅貴の居場所さえも奪ったのだから。
 そして、卑劣な女からの脅迫に屈するしかなかった屈辱と、そんな女に、いとも簡単に自分の生活基盤さえも奪われかねない恐怖と、不安感。
 あの時、雅貴のよりどころのほぼ全てが、あの女によって奪われたのだ。それはそのまま、女性への不信感へとすり替わっていた。
 結果、女性は簡単に人を陥れるのだと、雅貴は反射的に警戒するようになってしまっていた。

 そこへ来て、雅貴がその当時逃げるために付き合った彼女が良くなかった。彼女に関しては雅貴自身の考え方も態度も褒められた物ではなく、少なからず自業自得な部分は否めない。
 それでも彼女と義母、二人のイメージが重なることで、雅貴の女性に対する警戒心は決定づけられたのだろう。

 そして雅貴は女性を征服し、自分が上位に立つことで安心してしまうという、安定感を覚えてしまった。
 それは無自覚に雅貴を浸食していった。それはルックスだけで女性を引きつけることのできる雅貴だったからこそ、簡単に得ることの出来た安心感だった。

 けれど、そんな事は、当時、当然自覚はない。
 ただ、その彼女との付き合い以来、雅貴の中では「女ってこんなもんか」という感覚が更に強くなっていただけだった。
 女の子にとって、自分はアクセサリーと同じなのだ。だから、相応の物を、つまり性欲を満たすことで返してもらっている程度の感覚になっていた。自分が得ていたのが性欲ではなく、征服する安心感とは気付かず。

 彼女たちのアクセサリーになっている対価だと言い訳をして、手当たり次第に女の子と付き合うようになった。
 そう思えたことを免罪符に、ろくでもない付き合い方をしたから当然だったのだろうが、ろくでもない男への対応は、女の子もろくでもない対応しかしなかった。

 時には『そういう女性』ではないタイプからのアプローチもあったが、そちらには興味を引かれなかった。征服欲と、見下したいプライドありきの付き合いが感情の基盤にあったのだから、人として好感をもてる女性はいかにも面倒そうに見えていたようだ。
 雅貴を顔だけで見ない真っ当な女性達を拒絶していれば、必然的に、雅貴の周りに集まるのは派手で自己主張の強い、自信のある女性ばかりとなった。
 そしてそういう女性が好みなのだと、周りの人間だけでなく、雅貴自身もそう思い込んでいた。
 気がつけば、女性との付き合いは、上っ面だけの、自分の快感だけを求める付き合いだけになっていた。

 雅貴は、女性にとっての、格好のアクセサリーとなった。人に見せびらかして自己満足を得る為の道具。

 そして、雅貴は一つの結論を得た。
 女性とは、どんなにきれいに取り繕っていても、中身はそうではないのだと。
 特に、きれいに着飾った女性全般に、雅貴はそう当てはめた。

 その頃は、ただ父親と趣味が似てるだけだと思っていた。
 けれどそうではなかったのだ。
 あれはあの女への、復讐だったのだ。傷ついた心の埋め合わせをしようと必死だったのだ。本来の復讐の対象を、他の女性にすり替えていたのだ。

 実咲は、元々復讐の対象ではなかった。出会った当初、彼女が雅貴を恋愛の対象に見ていなかったからかもしれない。それとも雅貴の顔ではなく、個性に興味を持っていると感じたからか。
 そもそも本来なら、実咲は付き合う対象にすらならないはずだったのだ。雅貴が無意識に「めんどくさい」とはじいてきたタイプの女性なのだから。
 でも、はじくことが出来なかった。手放したくなくて「付き合えない」と言えなかった。

 あの時には既に、実咲に惹かれていたせいかもしれないし、あの頃の実咲が雅貴の付き合うタイプの女性のように作り込んでいたせいもあったかもしれない。それとも両方が運良く、もしくは運が悪く作用したのか。ともあれ、雅貴は実咲を女性として求めてしまった。

 そして、付き合うことで、体を重ねることで、彼女の位置づけに、混乱が起こったのかもしれない。大切にしたい想いと、見下したい感情と。
 雅貴にとって「抱く女」は、恐らく見下す相手でなければいけなかったのだ。
 けれど実咲を見下せないから、それを苛立ちにすり変えた。それを、他の女性を抱くことで発散していた。

 彼女より強い立場であろうとしていたのだ。

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