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しおりを挟む私の言動はきっと日本でいたなら「普通」に「優しい」物で、「気遣い」とか「思いやり」と受け入れられただろう。でも、この特殊な状況下では、きっとそれは邪魔で、重荷になる物だったんじゃないかと思う。
でも一ノ瀬君は、役に立たない私なんかの「日本人的な」「普通」の「気遣い」を欲していた。
一ノ瀬君にとって「日本人」の「普通」であれることが、救いだったなんて、思いもよらない言葉だった。
ぽつぽつと、とりとめなく話し続ける彼の言葉に、うん、そう、と相槌を打ちながら彼の言葉を促す。
こんな風に、気持ちを話してもらえたのは、初めてで、うれしかった。
そして一ノ瀬君はいちど言葉を切ると、覚悟を決めたように、再び話し始めた。
「俺、さ……こっち来るとき、ほんとは、手を離したら、俺だけ行けるって分かってたんだ。あの瞬間からこの力は発揮されてて。手を離せば河野さん巻き込まずにすむって、分かってた。……でも、絶対離しちゃいけないって、思ったんだ。離したら、俺一生苦しい思いするって、分かって、怖くて、離せなかった……」
それは、苦しそうな告白だった。絞り出すような声は、時々かすれて震えていた。
彼はきっと、このことを知られたくなくて、そして、ずっと言いたかったんだろう。抱え込んでいるのが、苦しくてたまらなかったんだろう。
「……だから、ごめんな……」
一ノ瀬君がことあるごとに紡いでいた「ごめん」の意味は、彼にとってとても重い言葉だった。私が思うより、ずっと、ずっと。
でもね、私は、やっぱり一ノ瀬君のせいじゃないと思うんだ。
仮に一ノ瀬君のせいだとしても、やっぱり、私は許してる。だって私が一ノ瀬君とこの世界に来たとき、一ノ瀬君が私にここにいる意味を与えてくれていたから。
『俺があの時、河野さんを、……離したくなかったから』
一ノ瀬君、あの聖地の湖で、そう言ってくれたよね。一ノ瀬君が、私を望んでくれた。一番最初に伝えられたそれは、ずっと、私の支えだった。
「今も、そう思ってくれる?」
「え?」
「今も、離せないって、思ってくれる?」
「あたりまえだ!! 今だって、俺は、河野さんがいなかったら……」
彼は震えながらうつむいて唇をかみしめる。
私も、私もだよ。一ノ瀬君と、離れたくなかった。離して欲しくなかった。だから、きっと、これでよかった。
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