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8話

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ジレンマと風間はE棟と記された、門の扉を開け1歩2歩と踏み込んだ。

(ボタ ボタ ボタ )と強い雨がビニール傘を叩く、透明のビール傘は黒ずみ
泥交じりのような雨粒がどんよりとした空から叩きつける。
この黒い雨は、現実なのか、見せられているのか呪界のなかでは、何が真実なのかが曖昧である。
風間はこの雨を知っていて傘を借りたのは間違いない。
既に風間にはジレンマが感じとれていないものを感じているのであろう。

石畳の向こうにはエントランスが見える。

エントランスに入ると二人は傘を閉じガラス扉の中をのぞく。
昼間というのに、まるで夜のように中はうす暗く。照明はチカチカと音を立てながら内部を照らす。

「木箱はどの辺にあるのかなぁ」
ジレンマは袖についた雨を払いながら風間に問う

「きっと最上階の13階のどこかの部屋だろう、てか、こんな広範囲で呪界を展開できるとはな、そうとうやばい物を置かれてる」

「せっかくこちらの優位な時間にきたつもりなのに全く意味なかったね」

2人は周囲を観察しながらエレベーターホールに向かう。

(バチっ バチっ)

風間の右腕のあたりで時折、静電気のような
放電が発生している。

風間の右腕は白虎に取り憑かれた、彼女に噛まれ特殊な能力を得た腕。
霊的なものに触れたり、霊視を可能とした
神の手と周りから言われている。

砂防団地にいる霊体やこの世のものでないものが干渉しているのであろう。

エレベーターに乗り込み、ジレンマは13階のボタンを押す。

(チン)13階に到着し扉が開いた。

(タッタッタッ)

誰か団地の廊下を走ってくる。エレベーターホールは少し窪んでいて何者かを確認するには間近にならないと確認できない。

ジレンマと風間は足を止めて耳を澄ませ足音の行方を探る。

「誰か来ますね、住民かな」

「完全に避難しきれてないとか言ってたから生き残りかもしれないな」

(タッタッタッ)

身構える2人の前に息を切らし現れたのは女の子であった。

「おじさん助けて、ママがパパに叩かれてるの」

「ママとパパどこにいるんだい?」
膝をついてジレンマは女の子に問う。
すると女の子は廊下の先を指差し奥の部屋だと言った。

「風間くん、助けに行かないと」

少女の頭に右手を添える、すると女の子は
青白く輝き、小さな光の玉になり吸い込まれるように、曇り空へ上がっていった。

「残留思念だ」
風間はそういった。

「どう見ても、霊体には見えなかった。」

「ここの呪界が残留思念をも具現化しちまってやがる。幻覚か現実か見極めないと飛び降りた住民のように引き込まれるぞ」

隠されている呪物の呪界がこのあたりの磁場を増幅させているようであり、団地にある霊体の残留思念が2人を困惑させているのであった。











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