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駿河口と相模口
しおりを挟む源太郎が当主となってから、今川領と北条領の国境には大規模な砦を建立し、防衛戦を主としていた。
何故なら、領地の整備・街道整備と並んで人と物の需要を創り出す為でもある。
外征でも勿論需要は創り出せるが、その場合の需要を満たす供給との均衡が取れる程、甲斐がまだ豊かになっていなかった故、供給の基盤を優先した為、防衛戦を徹底したのである。
それ故、常に今川・北条との紛争では人的損失は最小で切り抜けられた。
それに引き換え、今川・北条は紛争の度に人的損害を武田よりも多く出していた。
攻撃を仕掛ける側は、砦にこもって防衛する側の3倍以上の兵力を用意するのは基本である故、人的損害だけでなく、食料や武器の予備など、消費される物資の損害は、ほとんどの場合、攻撃側の方が多く被る。
その上、紛争を経験する度に生き残った兵は、経験を得て多少なりとも強くなってゆく。
兵士一人当たりの練度を比較すれば、武田の兵士の方が今川・北条よりも頭半分くらい抜け出ているくらいまでになっていた。
相模側国境の砦
晴信達は砦の上から北条勢を眺めている。
「勝沼の叔父上、小山田の義叔父。北条勢の様子は如何か?」
「おお!入道殿、この信友が見た感じでござるが、此度はチト兵数が多い様でござる。念のため、為景殿が当たられた後、お聞きになられるが好いと存ずる。戦の嗅覚は我等では及びもつかぬ故・・・」
「晴信殿、為景殿は先代様と仲が良い様でござるのぅ。毎度毎度、北条が来るたびにお二人で手勢を率いて来られて、嬉々として北条を蹴散らした後、遊び終わった童(わらべ)の様に満足げに帰って行かれる・・・」
「叔父上方、心底戦好きなのでござりましょう。兄上が申すには、『後2年は防衛戦で誤魔化したい』との事でござる。瑞空導師様のご協力を取り付けられまして、何か所か街道筋に寺院を開いて頂けるゆえ門前町にして、国力の差を以て北条を屈服させたいそうでござる」
「「ほお~ぅ・・・烏景(うけい)様であったか?ワシ等とは考える事が違うのぅ」」
「戦をせねば人も物も残るが、戦をすると人も物も無くなるから割に合わぬそうでござります」
「おぉ~お!入道殿ぉ!此度は北条勢の意気がいつもとチトばかり違うのぅ」
晴信を見つけた為景が笑みを烏陰ながら話しかけてきた。
「「「チト違うとは?・・・」」」
「兵全体にやりたい事を伝えてあるのであろう・・・単純に『砦を焼き払え』とな」
「「なっ!」」
「やはりそうでござるか」
言葉に詰まった叔父二人とは違い、晴信は納得した表情である。
「為景殿、如何すれば北条勢は諦めるでござりましょう?」
「簡単な事!大将を引きずり出して叩けばよいのよ!」
「此度は北条氏綱・氏康の親子が出張ってきておるそうでござる。簡単に前に出てくるものでしょうか?」
「この砦の全貌を見ておきたい筈。必ずや前に出てきますぞ!」
晴信達は打ち合わせる為砦の中へ入っていった。
駿河側国境の砦
「穴山殿、今川の大将はどなたであろうか?」
砦から今川勢を見晴らしながら源太郎が尋ねた。
「はっ!総大将・岡部久綱、副将・岡部親綱、朝比奈泰能の2名にござります」
「副将が2名・・・此度は何か違いますな?紹介し遅れ申した、此度初陣の信繁と諏訪頼経、2人の弟を同行させ申した。穴山殿、弟たちを良しなにお願い申す」
「「穴山様、何卒良しなに!」」
源太郎達は穴山に頭を下げた。
「御館様に弟君!それがしなどに頭を下げてはなりませぬ!穴山信友にござりまする。それがしこそ、何卒良しなにお願い致し申す!」
穴山が慌てて頭を下げ返した。
「おぅおぅおぅ・・・『妖魔様』改め『お天道様』よ!」
「何でござるか?!『暴虐の人食い虎』改め『捻くれいじけ虎』となり申した先代様!」
「そなた、父に向って何という言い草じゃ!どうせ今川の連中、この砦を知りたいだけであろう。絵図面渡してやって、サッサと戦にせいっ!」
「それがしもサッサと終わらせて館へ帰りとうござる!されど、今川が退かねば帰れませぬ。それとも父上、単騎にて敵総大将の元まで行く気ではござるまいな?」
「おおぉ!よう解ったのぅ!」
「今川勢を舐め腐るのもいい加減になされ!いくら楽な立場にて戦に臨めるとて、相手を揶揄うのは止めなされ!戦にも最低限の作法がござる。遊びではござらぬ!」
「ならば、お天道様よ!考えがあるのじゃな?」
「使いとうはありませぬが、次に来られた時を最後とする為の仕込み故、砦の堅さを認識してもらいまする」
「ならば、じっくりと聞かせよ」
「各々方、中で説明いたす」
源太郎は諸将を促して砦の中へ入っていった。
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