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薔薇ノ国編
10.薔薇ノ迷路
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翌日--
私はブランブルス城の中をマーニャに案内して貰っていた。
けれどいつの間にか、マーニャとはぐれてしまったのだ。
「ここは、どこ?」
私は帰り道も分からず、途方に暮れる。
とりあえず適当に、城の中を歩いてみることにした。
だが王宮内はあまりにも広くて、歩けば歩くほど更に迷う一方だ。
「どうしょう……」
頭を抱えて嘆いていると、前から声がした。
顔を上げると、男女が話をしている姿が見えた。
(人だわ!なんてついてるのかしら!)
私はあの人達に、帰り道を聞くことに決めた。
二人に近づくと、会話が鮮明に聞こえてきた。
「ユリイカ、髪の毛切ったんだね。似合っていて素敵だよ」
「まぁ、王子様ったら!お世辞は辞めてくださいませ」
「お世辞じゃないさ。さっきから僕の心臓がドキドキしてるのが分からないのかい?触ってみる?」
「もうっ、王子様ったらぁ!!」
私は、歩みを止めた。
なんて甘ったるい会話だろうか…
あの二人の空間だけ、とろけるような空気に包まれていた。
とてもじゃないが、話し掛けられる雰囲気ではない。
(ちょっと待って!今、あの人…王子様って言わなかったかしら?ってことは、もしかして隣にいる男性がオルフェオ様!?)
私が驚き固まっていると、女中の格好をした女性と目が合った。
女性は焦った顔をすると「では、私はこれで…」と慌ててその場を立ち去る。
すると王子と呼ばれたその男性は、私の方に向かってきた。
「君は、もしかして噂の桜姫?」
「はい、あなたは……」
「僕はこの国の第二王子、アシュラムさ」
(アシュラム……ってことは、この方がマーニャの言ってた遊び人!?)
太陽を彷彿させる橙色の癖毛に、琥珀色の瞳をした、とても見た目麗しいお姿だ。
白地に金色の豪華な刺繍が施された、煌びやかな衣装を纏っている。
アシュラム様の周りだけキラキラと輝いて見えた。
「初めまして、アシュラム様。私は桜ノ国から嫁いで参りました、真桜と申し上げます」
「もう、桜っちは堅苦しいなァ。僕のことは呼び捨てでいいよ。それから敬語も禁止ね」
「さ、桜っち!?」
私は、思わず聞き返した。
何てふざけた呼び名だろうか--
「うん。だってそっちの方が、親しみがあっていいだろう?」
そう言って得意げに笑うアシュラム様に、私はただ苦笑いを返す。
「ところでアシュラムさ……いいえアシュラム、ここはどこだかわかるかしら」
「ここは、中庭に続く回廊だよ。もしかして、迷っちゃった?」
アシュラムは首を傾げながら、意地悪そうな顔で聞く。
図星を突かれて、私は視線を泳がす。
「ご…ご察しの通りよ」
「アハハハハ。そういう、おっちょこちょいな桜っちも僕は好きだよ。まったく桜っちは可愛いなァ。オルフェオには勿体ないくらいだよ」
「んなっ……」
全身を寒気が駆け巡る。
平然と甘い言葉を並べる アシュラムは手馴れた感じで、常習犯だというのが窺い知れた。
(なんて女たらしな人のかしら。初対面なのに信じられないわ。アシュラムは女の敵よ)
私は、アシュラムには気を付けようと誓った。
***
「アシュラム、ここまで送ってくれてありがとう」
私は部屋の前につくと、ここまで連れて来てくれたアシュラムにお礼を告げる。
「また何か分からないことがあったら、遠慮なく聞いてね。僕はいつでも桜っちの味方だから」
片目を瞬かせて、白い歯をニカッと見せて、どこまでも屈託のない笑顔でアシュラムは言った。
その笑顔で見つめられたら、世の中の女性の大半は、アシュラムの虜になってしまうだろう。
今日アシュラムと初めて会って、アシュラムと接しているうちに、なぜ彼が三人の王子の中で、誰よりも人気なのか私は少しだけ分かった気がした。
王子という高貴な立場でありながら、偉ぶったりせず、誰に対しても分け隔てなく気さくに接するアシュラムに皆、心が惹かれるのだろう。
(女たらしなのは、置いといて……)
私はブランブルス城の中をマーニャに案内して貰っていた。
けれどいつの間にか、マーニャとはぐれてしまったのだ。
「ここは、どこ?」
私は帰り道も分からず、途方に暮れる。
とりあえず適当に、城の中を歩いてみることにした。
だが王宮内はあまりにも広くて、歩けば歩くほど更に迷う一方だ。
「どうしょう……」
頭を抱えて嘆いていると、前から声がした。
顔を上げると、男女が話をしている姿が見えた。
(人だわ!なんてついてるのかしら!)
私はあの人達に、帰り道を聞くことに決めた。
二人に近づくと、会話が鮮明に聞こえてきた。
「ユリイカ、髪の毛切ったんだね。似合っていて素敵だよ」
「まぁ、王子様ったら!お世辞は辞めてくださいませ」
「お世辞じゃないさ。さっきから僕の心臓がドキドキしてるのが分からないのかい?触ってみる?」
「もうっ、王子様ったらぁ!!」
私は、歩みを止めた。
なんて甘ったるい会話だろうか…
あの二人の空間だけ、とろけるような空気に包まれていた。
とてもじゃないが、話し掛けられる雰囲気ではない。
(ちょっと待って!今、あの人…王子様って言わなかったかしら?ってことは、もしかして隣にいる男性がオルフェオ様!?)
私が驚き固まっていると、女中の格好をした女性と目が合った。
女性は焦った顔をすると「では、私はこれで…」と慌ててその場を立ち去る。
すると王子と呼ばれたその男性は、私の方に向かってきた。
「君は、もしかして噂の桜姫?」
「はい、あなたは……」
「僕はこの国の第二王子、アシュラムさ」
(アシュラム……ってことは、この方がマーニャの言ってた遊び人!?)
太陽を彷彿させる橙色の癖毛に、琥珀色の瞳をした、とても見た目麗しいお姿だ。
白地に金色の豪華な刺繍が施された、煌びやかな衣装を纏っている。
アシュラム様の周りだけキラキラと輝いて見えた。
「初めまして、アシュラム様。私は桜ノ国から嫁いで参りました、真桜と申し上げます」
「もう、桜っちは堅苦しいなァ。僕のことは呼び捨てでいいよ。それから敬語も禁止ね」
「さ、桜っち!?」
私は、思わず聞き返した。
何てふざけた呼び名だろうか--
「うん。だってそっちの方が、親しみがあっていいだろう?」
そう言って得意げに笑うアシュラム様に、私はただ苦笑いを返す。
「ところでアシュラムさ……いいえアシュラム、ここはどこだかわかるかしら」
「ここは、中庭に続く回廊だよ。もしかして、迷っちゃった?」
アシュラムは首を傾げながら、意地悪そうな顔で聞く。
図星を突かれて、私は視線を泳がす。
「ご…ご察しの通りよ」
「アハハハハ。そういう、おっちょこちょいな桜っちも僕は好きだよ。まったく桜っちは可愛いなァ。オルフェオには勿体ないくらいだよ」
「んなっ……」
全身を寒気が駆け巡る。
平然と甘い言葉を並べる アシュラムは手馴れた感じで、常習犯だというのが窺い知れた。
(なんて女たらしな人のかしら。初対面なのに信じられないわ。アシュラムは女の敵よ)
私は、アシュラムには気を付けようと誓った。
***
「アシュラム、ここまで送ってくれてありがとう」
私は部屋の前につくと、ここまで連れて来てくれたアシュラムにお礼を告げる。
「また何か分からないことがあったら、遠慮なく聞いてね。僕はいつでも桜っちの味方だから」
片目を瞬かせて、白い歯をニカッと見せて、どこまでも屈託のない笑顔でアシュラムは言った。
その笑顔で見つめられたら、世の中の女性の大半は、アシュラムの虜になってしまうだろう。
今日アシュラムと初めて会って、アシュラムと接しているうちに、なぜ彼が三人の王子の中で、誰よりも人気なのか私は少しだけ分かった気がした。
王子という高貴な立場でありながら、偉ぶったりせず、誰に対しても分け隔てなく気さくに接するアシュラムに皆、心が惹かれるのだろう。
(女たらしなのは、置いといて……)
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