私が何をしたって言うんだ!

梅したら

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一章 落ちぶれた大魔道士、オークションから救出される

10 幸せでしたよ ※

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***


「んっ、んんっ、ふぐ、うううぅ……っ!!」
「……声を抑えない、というのも誓約に入れておけばよかったな。ああレイエ、手や腕を噛んで耐えようとしたら拘束するので、そのつもりで。唇も噛み締めてはいけませんよ」
「ひうっ、うっ、……フィーリッ!! 騙したなっ、この、性悪め……!! 指、止めろ……ぉっ、んうぅ……!!」

 グチュグチュと、聞くに耐えない音が耳に届く。耳を塞ぎたいが、私の両手は口を塞ぐことに必死だった。
 両手で口を覆わなければ、あられもない声が飛び出る。理性をかき集めるだけでは、声は抑えられなかった。

 ビリビリ、ビリビリと、断続的に尻から背筋へ電撃が走る。
 これが雷魔法の痛みであれば、どれだけよかっただろう。尻の中をいじられることで発生した電撃は、快感だけをひたすら脳へと届け続けた。

「騙していませんよ。全て誓約書の通り。でしょう?」
「ちがう、ちがうぅ……っ!!」

 私の想定では、フィーリに自分の指を舐めさせて、それを用いるはずだった。
 だが今私の後孔を我が物顔で押し開くのは、私のものよりもずっと太く長い、フィーリの指2本だ。

 その上、目を閉じるという文言も、フィーリではなく私に適用されていた。
 フィーリは魔力を帯びた布を使って、私に決して外れない目隠しをすることで、目を閉じるという条件を達成したのだ。
 たしかに指も目も、私とフィーリのどちらとも取れる文言だった。気づいたのはこの行為が始まってからだ。
 だがフィーリは、当然わかった上で誓約書を作成したのだろう。

 行為が始まるなり、フィーリは私の足を両肩にかつぎ上げた。
 身動きが取れなくなって戸惑う私の目を塞ぎ、唾液をまぶした指で媚薬に侵された孔を蹂躙じゅうりんし始めたのだ。

 怒りも湧くが、快楽で上塗りされていく。今朝自分で触った時とは比べ物にならない快感が、頭を芯まで痺れさせた。

 顔を真っ赤にしビクビクと痙攣する私を、フィーリがどんな顔で見ているのかはわからない。
 しかし目隠しによる暗闇の中、粘った水音と共に、フィーリの楽しげな声が響いた。

「まったくあなたは、本当に騙されやすいな。やっぱり、俺がついていないといけませんね」
「だっ、あっ、だましたんだな、やっぱりぃ……んんぅっ!!」
「まあまあ。一応は、あなたのためでもあります。最初から恥ずかしい姿を見せておけば、二回目以降のハードルが下がるでしょう?」
「ひっ、ううう……そこ、やめろぉ……お、押すな……ああああああっ!?」
「馬鹿だな、押すなと言われたら押しますよ。ここ、気持ちいいんですね? 教えてくださってありがとうございます、沢山可愛がってあげますね」

 フィーリの指がある一点を押すたび、つま先がビクンと跳ねた。
 そこはやめろと言うと、フィーリは一層声を弾ませながら、躊躇なく責め立てる。

「う、うう~~~~!!」
「気持ちいいですよねレイエ。ねえ、気持ちいいと口に出してくれませんか?」
「誰がっ、あっ、言うか……ッ!!」
「言ってくれたら、今すぐ全部やめてあげてもいいですけど」
「…………」
「あ、悩んでる。いいんですか? 俺の言うこと信じて」
「はあっ……!? また騙す気だったのか……!?」
「あはは、あなたを憎む男の言うこと、簡単に信じてはいけませんよ」

 フィーリは聞いたことがない声で笑う。子どもの頃の無邪気な声とも、再会してから微笑みと共にあった声とも違うフィーリだった。

「チッ……何がっ、そんなにっ、楽しいんだ……このっ!!」
「わっ、危なかった。レイエは手が早いですね」
「ふあっ、やめ……んあああああっ!! ああっ、ああああ……っ!!」

 腹筋だけで起き上がり、フィーリに平手打ちしようとする。だが避けられた上に、尻の中の指を増やされグチュグチュと動かされた。

「昔はたまに、あなたが無礼者に平手打ちしているのを見たな。でも俺がどんなに無礼なことをしても、手を上げませんでしたね」
「はっ……ガキを……なぐるわけが……っ!!」
「じゃあ、今のは俺を大人と認めてくれた証拠ですね。嬉しいな」
「んんぐ……っ、しゃべる、なら、ああっ、手、とめろ、ぉ……ふ、うぐ、ぐううう……っ!!」

 バチバチと、塞がれた視界の中で光が弾ける。
 絶頂、なのかもしれない。だがわからない。
 ずっと、ずっと快楽の渦に揉まれ続けている。私のものは硬く芯を持ち、放出できないまま痛いほどに疼いていた。

「……あなたを俺の手で好きにできるのは、少し気分がいいですね。魔法薬のせいというのは腹立たしいですが」
「ッ、奇遇、だなっ、そこだけは同意、する……ぅっ……んぁっ、く、ぅ……!!」
「じゃあ、魔法薬を早く解除するためにも、いっぱい治療しないとですね」
「クソ、嫌だっ……んっ、あっ、ああ……っ」

 ぐり、と一番触れられたくない部分が、三本の指で強く摘まれる。
 そのまま容赦なく揉みしだかれ、視界が真っ白に染まった。

「ああっ、あっ、あああああああぅっ……!!」

 おそらくは、絶頂した。刺激が強すぎてよくわからない。絶頂とは、こんなにも強いものだったか?
 ゼーゼーという自分の呼吸音が、耳の奥で反響する。

「はぁっ、はっ……、…………」
「疲れたでしょう、レイエ。眠っていいですよ。よく頑張りましたね」

 フィーリが私の足を下ろし、全身に清潔魔法をかけてきたのがわかった。
 まぶたを上げる気力もない中、頭をゆっくりと撫でられる。

 手のひらの動きに促され、徐々じょじょに意識が遠ざかっていく。

「――これはあなたのためであると同時に、俺の憎しみへの慰めでもある。治療はきちんとしますから、その最中はせいぜい、痴態を見せてくださいね、レイエ」

 フィーリがそんな言葉を、内容に反して優しく囁くのが聞こえた。
 弛緩しかんした私の体を、フィーリが抱きしめる。

 ああ、やはり――この腕の寝心地だけは、悪くない。


***


 目を覚ますと、空が白み始めていた。まさかまた、何時間も眠るはめになるとは。
 起き上がろうとすると、身動きができない。ずっしりと重たい腕が、背後から私を抱きしめていた。
 もはやこのサイズにも慣れた。大きく育ったフィーリの腕だ。私と揃いの寝間着を着ている。

「…………」

 私はおもむろに、背後に向かって蹴りつけた。
 我ながら弱々しい力だったが、背後の男はビクリと体を跳ねさせる。

「いだっ。……あ、起きましたかレイエ。おはようございます」
「クソ、足に力が入らない」
「痛、痛いですよレイエ。何度も蹴らないで。あなた足癖も悪いですね……」

 ゲシゲシと蹴っていると、足を掴まれ止められた。起き上がったフィーリが、そのまま触診を始める。
 太もも、膝、ふくらはぎ、足首――巻き付いた青い鎖に触れてもなお、その手つきはただの診察で、私を気絶させた狼藉の気配は欠片も見せなかった。

「疲労は魔法で抜いてあるので、力が入らないのは栄養と筋力の不足ですね。ご飯を沢山食べて筋肉をつけたら、もっと強く蹴れるようになりますよ。俺もサポートしますから、健康な体を取り戻していきましょうね」
「……君は私を苦しめたいのか健康にしたいのか、どっちなんだ……」

 いかにも頼れる医師といった雰囲気で話しだした青年が、数時間前に楽しそうに私の醜態しゅうたいを引き出していた人物と同じとは思えない。
 見てくれはよく知るフィーリが大きくなっただけなのに、中身はずいぶん変わってしまったらしい。
 嘘をつかない子だったから、誓約書にあんな罠を仕込むとは思ってもいなかった。

「――両方ですよ。あなたには、俺の恨みや憎しみを思い知ってほしい。同時に、世界で一番幸せにしたいとも、思っています」
「幸せ? 私がか? いらん。幸せなどという定義の曖昧なもの、知らん」
「ふふ、あなたはそうでしょうね。俺には沢山、幸せを与えてくれたのに」
「与えた覚えもないが……」

 大魔道士だった私にとって、一般的な感覚は理解しづらいものがある。『幸せ』もその一つだった。
 フィーリに読み聞かせた絵本の中で単語が使われてはいたが、いまいちわかっていない概念だ。

 知らないものを、与えられるはずがない。

 しかしフィーリは、穏やかな顔で、首を横に振った。

「あなたに覚えがなくても、俺は沢山受け取りましたよ。
例えば、あなたは俺を拾ってくれた。汚れた体を洗って、清潔な服を与えてくれた。
傷の手当をして、俺の目を、耳を、口を、角を、翼を治してくれた。
食事が嫌いなのに、美味しいご飯を食べさせてくれた。食事が嫌いということを言わないまま、俺がねだれば付き合ってくれた。
眠らない夜、毎晩でも付き合って一緒に遊んでくれた。
どんなに忙しい時でも、俺が話しかけたら、必ず目を合わせて話してくれた」

「な、長い。長い上に、それは幸せとやらではないだろう。養い親の義務として与えた治療と、清潔と、食事と、情操教育だ」
「どれも幸せでしたよ。俺にとってはね」

 私が否定しても、フィーリは揺らがない。
 私の手を引き、フィーリの足をまたぐような形で向かい合わせに座らせた。

 この体勢では身長差がなくなり、自ずと顔が近くなる。
 微笑みを浮かべたフィーリが、鼻が触れ合いそうな距離で、青い瞳を向けてきた。

「俺は、あなたに返したいんです。あなたが与えてくれた全てを」

 それは、あの誓約書よりもよほど真摯しんしに、誓いを立てるような言葉だった。

「私に返したい? 与えた覚えがなくても、か?」
「ええ。俺は確かに、受け取ったのだから」

「……私は誓約書で騙したりはしなかったが!?」

「あはは、それについてはすみません。でもあれくらい強引じゃないと、この治療は続きませんよね、レイエ?」
「ぐぬぬ……!!」

 怒りをぶつける私に、フィーリは悪びれなく笑いかける。
 言っていることは正しい。私に理性がある限り、自ら続けるのは困難だ。
 フィーリもそれをわかっているからこそ、独断であれだけのことをやったのだろう。

 まったくもって生意気なガキ――改め、生意気な大人め!!




<二章 騎士団編に続く>
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