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終章 不屈なる魔道士たち
14 グウィンの計略
「さっきから、避けやすすぎる。グウィンは本当は――戦う気が、ないのかもしれません」
「……は!?」
なんだその新情報は。
あの狂える龍がチアの蘇生を前にして、戦う気がないなんてこと、ありえるのか?
私がとまどっている間にも、グウィンの尻尾がブンと振られ、私たちを叩き落とそうとしてくる。
だがその仕草は大ぶりで、確かに避けやすそうといわれればそのようにも見えた。
「先ほどからずっとこうです。最初はあなたの歌魔法が効いているためかと思いましたが――それ以上に、グウィンは明らかに本気ではない」
「うーむ、やつの真意がわからんな……いっそ聞いてみるか」
手元の魔道具〝メガホン〟は壊れかけで、もう一度歌魔法を使うには強度が足りない。
だが普通に声を拡大するくらいならできそうだ。
私は〝メガホン〟を口元にかざし、深く息を吸った。
「グウィン!! 貴様わざと手加減するなど、何を考えている!! 死にたいのか!?」
魔道具で大きくなった声がビリビリと空気を震わせる。腹から怒鳴ったせいで、私の耳までキーンとした。
「……よくわかったな」
グウィンが歯をむき出しにして、自嘲気味に嗤う。
私はてっきり、グウィンが手加減していることについて「よくわかったな」と言われたのだと思った。
「それはフィーリが……、ッ!」
だから、フィーリが気づいたんだと告げようとした。
しかし嗤うグウィンを見て、勘違いしていたことに気づく。
「いや、グウィン。まさか貴様――」
グウィンが「よくわかったな」と言ったのは、手加減のことではない。
私がただの煽り文句として告げた部分だった。
――わざと手加減するなど、何を考えている!! 死にたいのか!?
――よくわかったな
私がそのことに気づいた理由は、グウィンの目を見たからだ。
最愛のつがいを喪い、狂った龍。
その目はひどく、ひどく――セパ爺と似ていた。
つがいを喪い、死にたがっている老人とだ。
「――死にたいのか。そのために、この戦いを仕掛けてきたのか、グウィン」
私はもはや〝メガホン〟を使わずに話していた。必要なかったからだ。
グウィンの猛攻が止まり、私たちがいる空には不気味なまでの静寂が訪れていた。
「そうだ」
グウィンは、静かに肯定した。
「な……なぜだ。貴様はチアを蘇生させようとしていたんじゃなかったのか!?」
グウィンが愛したという人間の妻、チア。
フィーリの実母でもある女性をこの世界に呼び戻すため、グウィンは龍族の禁忌魔法にまで手を出したはずだ。
それ以前にも、グウィンは人間のチアとの婚姻に反対された結果、両親を殺害している。
狂気的なまでにチアを愛するグウィンが、なぜ彼女の蘇生よりも自らの死を望むというのか。
「……私はもう、彼女に愛されていないからだ」
「なんだと……?」
「禁忌魔法でチアの肉体に魂を縛った後、チアが合意すれば、魂は肉体に宿るはずだった。しかし魔法は成功したにも関わらず、チアは蘇生を拒み続けたのだ」
力なく語るグウィンに、先ほどまでの獰猛さは残っていなかった。
「チアが蘇らないのならば、私は後を追いたかった。だが最愛を喪っても、王族に生まれた私の体は強靭で、中々死ねはしない。悲しみで喪われる魔力より生み出される魔力の方が多く、二十数年間、私を活かし続けた。
それに、チアの肉体が残っていたのも大きかった。いつか蘇ってくれるかもしれないという希望がある限り、私は死ぬことができなかった。――しかし」
先ほどより落ちくぼんで見える龍の瞳が、ギョロリと私を注視した。
「レイエンダ。貴様の不思議な〝声〟に、彼女の魂が応えたのが、遠くからでもわかった。私がどれだけ望んでも、蘇ってくれなかったのに……貴様の声には、応えたのだ」
グウィンが頭を抱える。その声は、絶望に満ちていた。
「最初は貴様を捕らえ、〝声〟を無理やり使わせようと思った。だが、そんなことをしてもチアは許してくれない。優しくも厳しい人だから――今の私を、彼女が許すことは決してないだろう」
バリ、と音が響いた。
グウィンが顔をかきむしり、自らのウロコを剥がしているのだ。
血が流れるが、苦痛を感じている様子はない。その目は狂気に染まっていた。
「だから……殺せ。私を殺せ、レイエンダ!!」
グウィンは鬼気迫った表情で睨みつけてくる。フィーリが私をかばうように抱きしめた。
「……ひとつ質問をするぞ、グウィン」
「なんだ?」
「フィーリを傷つけ、追放したのは貴様だな?」
幼いフィーリが傷つけられた時の詳細は、フェンから聞いていた。偽りだとは思っていない。
だがどうしても当人の口から確認したかった。
――願わくば、否定されたかった。
しかし。
「そうだ」
グウィンは、肯定する。
その目に罪の意識はまるでない。
当然のことをしたのだというように、あっさりと頷いた。
私は答えを決める。
いや、元から決めていた返答を、確定させた。
〝メガホン〟を口にあて――腹の底の底の底から、大声で答える。
「い・や・だ!!!!!!!! だーれが貴様の願いなど聞いてやるものか!!!! 貴様が死にたがっているのなら、意地でも殺してやらんわ!!!!!!!!!!!!!」
私は、頭の血管がブチ切れそうなほど怒っていた。
幼い子どもをあれだけ残虐に傷つけておいて、何をのうのうと望みを叶えようとしているんだ、このクソ龍は!!
――だがグウィンは、そんな私の返答を予想していたのだろう。
動揺もせず、不敵に笑った。
「私を殺さなければレイエンダの『呪い』は解けない――貴様の魔力は永遠に返ってこないと、言ってもか?」
「……は!?」
なんだその新情報は。
あの狂える龍がチアの蘇生を前にして、戦う気がないなんてこと、ありえるのか?
私がとまどっている間にも、グウィンの尻尾がブンと振られ、私たちを叩き落とそうとしてくる。
だがその仕草は大ぶりで、確かに避けやすそうといわれればそのようにも見えた。
「先ほどからずっとこうです。最初はあなたの歌魔法が効いているためかと思いましたが――それ以上に、グウィンは明らかに本気ではない」
「うーむ、やつの真意がわからんな……いっそ聞いてみるか」
手元の魔道具〝メガホン〟は壊れかけで、もう一度歌魔法を使うには強度が足りない。
だが普通に声を拡大するくらいならできそうだ。
私は〝メガホン〟を口元にかざし、深く息を吸った。
「グウィン!! 貴様わざと手加減するなど、何を考えている!! 死にたいのか!?」
魔道具で大きくなった声がビリビリと空気を震わせる。腹から怒鳴ったせいで、私の耳までキーンとした。
「……よくわかったな」
グウィンが歯をむき出しにして、自嘲気味に嗤う。
私はてっきり、グウィンが手加減していることについて「よくわかったな」と言われたのだと思った。
「それはフィーリが……、ッ!」
だから、フィーリが気づいたんだと告げようとした。
しかし嗤うグウィンを見て、勘違いしていたことに気づく。
「いや、グウィン。まさか貴様――」
グウィンが「よくわかったな」と言ったのは、手加減のことではない。
私がただの煽り文句として告げた部分だった。
――わざと手加減するなど、何を考えている!! 死にたいのか!?
――よくわかったな
私がそのことに気づいた理由は、グウィンの目を見たからだ。
最愛のつがいを喪い、狂った龍。
その目はひどく、ひどく――セパ爺と似ていた。
つがいを喪い、死にたがっている老人とだ。
「――死にたいのか。そのために、この戦いを仕掛けてきたのか、グウィン」
私はもはや〝メガホン〟を使わずに話していた。必要なかったからだ。
グウィンの猛攻が止まり、私たちがいる空には不気味なまでの静寂が訪れていた。
「そうだ」
グウィンは、静かに肯定した。
「な……なぜだ。貴様はチアを蘇生させようとしていたんじゃなかったのか!?」
グウィンが愛したという人間の妻、チア。
フィーリの実母でもある女性をこの世界に呼び戻すため、グウィンは龍族の禁忌魔法にまで手を出したはずだ。
それ以前にも、グウィンは人間のチアとの婚姻に反対された結果、両親を殺害している。
狂気的なまでにチアを愛するグウィンが、なぜ彼女の蘇生よりも自らの死を望むというのか。
「……私はもう、彼女に愛されていないからだ」
「なんだと……?」
「禁忌魔法でチアの肉体に魂を縛った後、チアが合意すれば、魂は肉体に宿るはずだった。しかし魔法は成功したにも関わらず、チアは蘇生を拒み続けたのだ」
力なく語るグウィンに、先ほどまでの獰猛さは残っていなかった。
「チアが蘇らないのならば、私は後を追いたかった。だが最愛を喪っても、王族に生まれた私の体は強靭で、中々死ねはしない。悲しみで喪われる魔力より生み出される魔力の方が多く、二十数年間、私を活かし続けた。
それに、チアの肉体が残っていたのも大きかった。いつか蘇ってくれるかもしれないという希望がある限り、私は死ぬことができなかった。――しかし」
先ほどより落ちくぼんで見える龍の瞳が、ギョロリと私を注視した。
「レイエンダ。貴様の不思議な〝声〟に、彼女の魂が応えたのが、遠くからでもわかった。私がどれだけ望んでも、蘇ってくれなかったのに……貴様の声には、応えたのだ」
グウィンが頭を抱える。その声は、絶望に満ちていた。
「最初は貴様を捕らえ、〝声〟を無理やり使わせようと思った。だが、そんなことをしてもチアは許してくれない。優しくも厳しい人だから――今の私を、彼女が許すことは決してないだろう」
バリ、と音が響いた。
グウィンが顔をかきむしり、自らのウロコを剥がしているのだ。
血が流れるが、苦痛を感じている様子はない。その目は狂気に染まっていた。
「だから……殺せ。私を殺せ、レイエンダ!!」
グウィンは鬼気迫った表情で睨みつけてくる。フィーリが私をかばうように抱きしめた。
「……ひとつ質問をするぞ、グウィン」
「なんだ?」
「フィーリを傷つけ、追放したのは貴様だな?」
幼いフィーリが傷つけられた時の詳細は、フェンから聞いていた。偽りだとは思っていない。
だがどうしても当人の口から確認したかった。
――願わくば、否定されたかった。
しかし。
「そうだ」
グウィンは、肯定する。
その目に罪の意識はまるでない。
当然のことをしたのだというように、あっさりと頷いた。
私は答えを決める。
いや、元から決めていた返答を、確定させた。
〝メガホン〟を口にあて――腹の底の底の底から、大声で答える。
「い・や・だ!!!!!!!! だーれが貴様の願いなど聞いてやるものか!!!! 貴様が死にたがっているのなら、意地でも殺してやらんわ!!!!!!!!!!!!!」
私は、頭の血管がブチ切れそうなほど怒っていた。
幼い子どもをあれだけ残虐に傷つけておいて、何をのうのうと望みを叶えようとしているんだ、このクソ龍は!!
――だがグウィンは、そんな私の返答を予想していたのだろう。
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