プレゼント・タイム

床田とこ

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 歩幅の広い蓮太と違って、私は小走りで校門へ向かう。遅刻をしたことはないからよく知らないが、私たちの学校は時間になると校門の門扉を閉めて遅刻者を炙り出す。十数メートル先で、生活指導の先生が門扉に手を掛けているのが見えた。
 
「だからさ、私は『かわいそう』なんかじゃない!ってさ。そう言えばいいんだよ」

「え? 何言ってんの?」

「家族もちゃんといて、ご近所付き合いもちゃんとやってるってさ。小さい頃の事故で母親はいなくなってしまったけれど、けして『かわいそう』ではないんだって。こうして俺もいるんだし……。ちゃんとそう言えばいいんだよ」

「ちょっと何言ってるか分かんない。それ言って、何か変わる?」
 
 小走りなんて、無駄なエネルギー消費の極致だ。日頃の運動不足の八つ当たり込みで、ちょっとイライラした。
 
「変わるさ。本当のことを言って分かってもらえたら、誰もアイを『かわいそう』なんて思わなくなるよ。きっと分かってくれる。アイは全然変な子なんかじゃないって、皆んな受け入れてくれるようになるさ」
 
 リミット4秒前に、並んで校門を通過する。セーフ。
 息を整えるひと呼吸目でチャイムが鳴って、テスト勉強で寝坊した生徒たちの断末魔が、閉められた校門の外から聞こえてきた。
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