胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第一章

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 小学三年生でバース判定がオメガだと解ってから、葉月は父親に告白するのを躊躇って、だが、言わない訳にもいかなくて、迷ったあげく、一週間後の夕飯時に、覚悟を決めて父に告げた。

「父さん、あの、バース判定がでたんだけど」
「あぁ、そうかどうだった?」
「俺、オメガだった」

 しばしの沈黙が怖かった。嫌われたかもしれないと思って、父の顔が見れなくて、ずっとうつむいてると、向かいの席に座ってた父が席を立ち、こちらにきて、葉月を抱き締めた。

「大丈夫だ、葉月、大丈夫、父さんが守るからな」
「……守らなくていいよ、俺、強くなるし」
「そうか? 困ったことがあったら、私か鉄堅君にちゃんと相談するんだぞ」

「なんで……てっけん」
「あの子は本当に葉月を大切に思ってくれているから、葉月も鉄堅君を大切にしなさい、幼馴染みなんだから」
「う、うーーん、はぃ」

 まぁ、確かに鉄堅は俺の事を大切に思ってるかもしれないけど、他の子だって、別によくない?なにも鉄堅でなくてもと思うのだけど、父は何故か鉄堅のことを凄く気に入っていて、きっと俺がオメガであることにガッカリしたはずだし、異を唱えてさらに父の気持ちを下げるのも良くないと思って、ここは黙った。


 そんなこんなで、中学へ上がっても、まだ鉄堅は俺のまわりに当然の様にうろちょろと存在していて、部活も一緒で、やはり学校の行きも帰りも一緒で、ペアでいることが当たり前で、何故かクラスも常に一緒で、とにかくずっと一緒なのだ。

 そこで、葉月は思った。高校は別の所へ行こうと。進路の紙を見つめていると、鉄堅が葉月の志望校を知りたそうに話しかけてきた。

「ねぇ、葉月ちゃん、高校は何処を受けるの? 」
「あーーえっと、まだ決めてない」
「そっか同じとこ行きたいな」
「お前は頭良いんだから県立受けろよ」
「でも、僕、葉月ちゃんと同じとこ行きたいな」

 じっとりと見つめてくる鉄堅の視線が最近、妙に熱がこもってて恐いような気がする。無言でじーーっと、見てくるのは小さい頃からずっとだから慣れてはいるけど、こんなに粘りつくような視線だったか? と時々、ゾクッとする。怖いとすら思う。この目、そうだあの、変質者の目がこんなだったような。再びゾクッと身体を震わせて、葉月は鉄堅から視線をそらした。

 だめだ、絶対に高校は別の所へ行こう。しかしながら、俺が受かりそうな公立は一、二校しかない。しかも一校は遠い、必然的に近い野桜高校になってしまう……確実にばれる。

 こうなったら、奥の手を使うしかない。

「県立仰暒高校ってかっこいいよな、仰暒いってる友達とかいたら俺は嬉しいかも、てっけん、仰暒うけてみたら?」
「え……でも、葉月ちゃん受けないよね?」

「そりゃ、まぁ、受けたいけど俺はそんな頭良くないし」
「なら僕も受けない」
「でも、仰暒だぞ、かっこいいじゃん」
「高校なんかただの通過点だよ」
「通過って、お前何処へ向かって……いや、いい何処へでも勝手にいってくれ」
「葉月ちゃんと一緒にいきたいんだ、もし、違う高校に通うなら」
「え?」

  鉄堅の目がぎらりと光った。ゾクッとまた身体が震え葉月の身体はその瞳にからめ捕られた様に硬直した。いつもはじっと見つめてるだけの鉄堅が、机の上の葉月の手をギュッと掴んだ。鉄堅の手が凄く熱くて振り払おうとしたが、捕まった手は動かなかった。

「僕のツガイになって」

「は? ツガイって、そんなの、オメガとアルファしか」

 なれないと言いそうになって、ハッとする。まさかと思うが、まさかと思うがまさかなのか。

「お前、俺のバース知ってるのか」
「知ってるよ」

 知っていて当然の様に鉄堅は今さら何? みたいな顔をした。鉄堅の手から逃れようと、手を引いたが、更に強く捕まれて、葉月は動揺した。何故俺がオメガだと知っているのか、父以外誰にも話してないのに。

「誰に聞いた」
「聞かなくても解るよ」
「何で」
「僕はアルファだから」

 こくんと、唾を飲み込んだ。嘘だ、鉄堅がアルファだなんて、そんなの聞いたことない、え?でもなんでアルファなら俺がオメガだって解るの?

「葉月ちゃんから甘い香りがするからだよ」

 葉月の疑問符に答えるように、鉄堅はほの暗く笑った。なんか恐い。

「か、香りって、なんでそんなんで」
「アルファにしかわからない、オメガの香りだよ」
「そ、そんな、いつから」

「はじめて会ったときからずっとだよ」
「ええっ、ほ、保育園のときから?」
「うん、赤ちゃんの時、まだ葉月ちゃん喋れなかったし、よだれ滴しながら僕にキスしてくれたの覚えてる」

「ンンンッ、赤ちゃん? おまえ、そんな前の記憶嘘だろ」
「有るよ、なんなら胎児の時の記憶もある、真っ暗な中でも近くに葉月ちゃんがいるの解ってて、はやくここから出て会いたいなっていつも思ってた」

「胎児! すご、まじかよ、こわ」

 そんな前からこいつは俺のバースを知ってたなんて、自分でも解らないのになんでそんな事が解るんだと呆然とした。それにしても俺への執着が異常だとは思っていたが、そんな胎児の頃からとか怖すぎる。たまたまなのか?

「ほ、他の人の匂いとかも解るのか?」
「さぁ? 興味がないから」
「いや、でも、俺だけ違う匂いなわけ」
「葉月ちゃんの匂いは特別だよ、甘くてとろけるような美味しそうな匂いなんだから」

 うっとりとした表情で鉄堅は、ペロリと唇を舐めた。ゾゾゾゾッと背筋に悪寒が走った。なんなんだ、こいつ。美味しそうな匂いって、なんだよ。怖すぎて、葉月はぐいっと手を引いて鉄堅の熱い手の平から逃れた。

「あ、お前、そう言うこと二度と俺に言うな、言ったらもう絶対嫌いになるから」

「え……うん、解った」

 恐らく鉄の掟に書き加えられた、俺への匂い発言禁止、鉄堅は不服そうな顔をしているが、これで二度とこんな発言は聞かなくて済む。進路希望の紙をクシャっと掴んで鞄に放り込むと、葉月は、席をたって教室を出た。背後からはまた鉄堅がのろのろと着いてくる。


◆◇◆

 葉月は、帰路につきながら、後ろから一定の距離を明けてついてくる鉄堅を一度として振り返らなかった。突き刺さるような視線を浴びているのは解るが、今は話したくなかった。

 バースについては、誰にもバレないように気をつけていたのに、まさか、とっくの昔に鉄堅にバレてしかもバレてることを隠されてたなんて。これは裏切りだ。俺を馬鹿にしてる。しかも、しかも、鉄堅がアルファだなんて。

 葉月は、奥歯をギリギリと噛みながら歩いた。幼馴染みに裏切られた、悔しいような、出し抜かれたような、嫉妬のような、何ともいえない、だが確実に負から来る感情を押さえきれず、歩いた。

「葉月ちゃん、どうして怒るの?」

 途中、何度も鉄堅が聞いてきたが、無視をした。どうしてかなんて、葉月にも上手く言えないからだ。

 葉月の家に寄りたそうにしている鉄堅をガン無視して、葉月は乱暴に家の扉を閉めた。がチャリと、ついでに鍵もかける。

 なぜ、こんなに嫌なのか解らない。とにかく、鉄堅に自分がオメガだと知られたくなかったのに、とっくに知られていて、しかも黙っていたのがどうしても許せない。

 そして最も許せないのは、葉月の動揺そっちのけで、自分と離れるならツガイになれなんて、とんでもない条件だしてきて、そんな発言をあの気弱な鉄堅がするなんて、信じられなかった。

「そりゃ、昔から結婚してって何回も言われてるけどそんなのするわけないし、もし誰かと結婚するとしてもまだ先の話だし、ちゃんと断らずに無視してた俺が悪い……のか? でも、だって、そんなの、まだ中学なのに変じゃん、だ、だいたい俺達ただの幼馴染みなだけなのに、そこでなんで、結婚とか言うんだよ、そういうの、恋人が言うやつじゃん、あいつがやっぱり変なんだ」

 そうだ、そうだ、俺達は家が近い幼馴染みだけど、それだけで恋人じゃない。恋人じゃないのに結婚なんかしないし、ましてツガイになんかなるわけない。

 冷蔵庫から、乱暴に牛乳パックを取り出して、ゴクゴクと飲んだ。昔からひょろりと背が高い鉄堅に負けたくなくて、飲みだした牛乳は、なかなか葉月を大きくしてくれない。

 同じ陸上部に所属しているが、鉄堅は長距離のエースで、自分は、短距離だけど地味でパッとしない。背が伸びないせいもあってか、記録も伸び悩んでる。オメガのせいだなんて思いたく無いけど、このままアルファの鉄堅には敵わないのだろうか。

「鉄堅、アルファだったんだ……なんだよ言えば良いのに」

 言わないなんて、俺の事ずっと心の中で馬鹿にしてたのかなと、嫌な気持ちになった。小学生の時必死で守ろうとしてくれてたのも、俺がオメガで弱いからとか、アルファの方が強いからとか? 見下されてたのだろうか。悔しい。だいたい、うちの家がアルファのせいでメチャクチャになったの知ってる癖に。

「大嫌いだあんなやつ」

 従順なふりして、馬鹿にされてたなんて、許せない。陸上部ももう辞めてやる。金輪際一緒になんか居るもんか。

 自分の部屋へいって、制服のままバフンっとベットへ倒れた。胃がムカムカする。気持ち悪い。全部、全部、全部、鉄堅のせいだ。オメガとか、アルファとか気にせず生きたかったのに。なんで思い出させるんだよ。知ってる癖に、俺がアルファを憎んでるって知ってるくせに。


 そのまま、眠ってしまっていたのか、父が帰ってくる音で目を覚ました。あ、やばい、洗濯物取り込んでない。慌てて、部屋の外へでると、リビングの隣の和室で洗濯物をもっさりと持った父と目があった。

「なんだ、寝てたのか? ただいま」
「お帰り、ごめ、洗濯物忘れてた」
「大丈夫、疲れてたのか? 風呂沸かしたから先に入りなさい」
「うん、あのさ」
「ん?」
「いや、何でもない」

 一瞬、鉄堅がアルファだったと言おうとして、葉月は口を噤んだ。父にアルファの話題は禁句だ。でも、これから陸上部をやめるし、鉄堅とは距離を置くのに、理由がいる。上手い理由が欲しい。

「俺、東青高校へいこうかなって、思ってるんだけど」
「東青? 遠いぞ、野桜じゃだめなのか?」
「ん……東青、学ランじゃん、俺、ブレザーとかやだし野桜ブレザーでしょ」
「ははっ、制服で決めるのか? 今時だな、葉月の好きにしなさい」
「うん、ありがと、でも、誰にも言わないでね、特に鉄堅には言わないでね恥ずかしいじゃん」
「解った解った、さ、風呂入っておいで」
「うん」

 チリっと、少し胸が痛んだ。父に嘘をついた。遠くへ行きたいのは、鉄堅と離れる為だ。離れてもう二度と会わない為だ。






















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