辺境の地へ飛ばされたオメガ軍医は、最強将軍に溺愛される

夜鳥すぱり

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 砂漠都市サララまでの道中は10日間を予定している。クライス王都から4日かけて鉱山都市ガロンへ行き、そこから砂漠地帯へ行くためラクダに乗り3日かけてオアシス、さらに3日かけて砂漠都市サララへ到着する予定だ。総勢100人もの大移動、しかも新人騎士達でできた編成は、貴族グループ35名、平民グループが60人、医師団3名プラス護衛、この新人騎士団の団長、副団長。

団長に任命されたのは、クロイツ子爵の第三子、モーガン·クロイツ24歳、副団長はリザーク男爵二男のホフマン·リザーク23歳と、年若い。

王国軍の騎士になるには、軍の騎士学校を卒業するか、貴族軍人に推薦されるか、クライス大学騎士科を出るかの三つである。

新人騎士たちの多くは、リズの母校と同じクライス第三総合大学騎士科の生徒で、平民出が多い。騎士科は2年制なので、20から24あたりの新人騎士が多い。ちなみに、医学部は本来6年制で、リズは、2学年飛び級、トーマス、マルスも1学年飛び級している。

騎士団長のモーガンは、20でクライス大学を出た後に、騎士学校へ再入学しているため、22に軍に入った、軍での2年間はクライス王国軍部文官として働き、砂漠都市からの要請である水の供給量を調べるためにこの度、団長に任命された。非常に勤勉で真面目、努力家、武術も手を抜かない頼りになる団長である。その容姿は、鳶色のくるくるとした癖毛が特徴的な甘いマスクの男性で、声が低く実に女性によくモテる。新人騎士の中には、もちろん女性も数名いて、モーガンを熱く見つめるものもいるとかいないとか。

副団長のホフマンは、豪商で知られるリザーク家の次男坊で、本人は家の商売を継ぎたかったが、腹違いの兄によって軍の騎士団へ放り込まれた。剣術が得意で、まぁ騎士として生きていくのも悪くないと思っている。色んな土地を巡って、いつか自分の店を持つことを目標にしている。口が達者で、真面目なモーガンをからかったりしているのを度々目撃され下官に叱責されがち。

リズが最初の目的地ガロンへの地図を見つめていると、背後から足音が聞こえた。

「やぁ、カリル医師、何をそんなに熱心に見ているんだい?」

「あ、モーガン団長、お疲れ様です、あの、地図を見ておりました」

「何か気になる事でも?」

「いえ、岩石地帯の複雑な地形なので、もし落石にあったら怖いなと思っていただけです」

「落石か、確かに注意せねばな」

ふーむと、顎を手で擦りながら、前方の岩石地帯をみる。ゴツゴツとした石の道は泥濘などはないが、滑りやすいし、確かに落石には注意が必要だ。万が一大岩でも崩れてきたら一個隊やられかねない。

「この細い道を進もうと思っていたが、少し遠回りになるがこちらの広い方で行こうか」

「はい、僕もその方が良いと思っていました、こちらの道の山肌はほぼ1枚岩で、こちらの細い方は無理に近道をくりぬいたので、崩れやすいと思われます」

公爵家のぼんくら三男との噂もあったが、リズは、気は弱いが自分の意見をしっかり持っているしなかなかの先見の明もある。噂になるほど、ぼんくらでもなさそうだと、モーガンは、馬車の横にちょこんと座っているリズを繁々とみつめた。

「君は確か、オメガなんだったか」
「え、あ、はぃ……あの、僕がオメガだって皆さんはご存知なのでしょうか」

オメガというだけで、色眼鏡をかけて見られる、しかもこの子は高貴な家柄。可哀想な程にしゅんと、うつ向いてしまったリズをみて、これは迂闊なことを口にしたと、モーガンは焦った。

「いや、知っているのは私と副団長だけだ、もちろん他に喋ったりしない。バース性なんて個人的なことを迂闊に口にしてすまなかった」
「いえ、良いんです、事実なのですから」

「公爵家の……だと、見合い相手が沢山いただろうに、何故軍医なんて危険な仕事を?」

「僕の家は確かに公爵家ですが、兄も姉も優秀で僕とわざわざ縁を結びたい人なんていないと思います、縁談が僕に来たことなんてありませんでしたよ、僕は味噌っかすで」

「そうなのか?世間の情報とは当てにならないものだな、君は誰からの求婚も受けないと噂にあったから」
「そんな噂が?姉と勘違いされているのではないでしょうか、ねぇ様はおそらくとてもモテると思うのです」
「アーーーぁぁ、まぁ」

モーガンはふと、銀の女狐の異名を持つ、マリアンヌを思い浮かべた。モーガンはかつては王宮軍文官として働いていたので、たびたび資料を王宮へ提出しに行く。その際見た彼女の演習場でのじゃじゃ馬っぷりは、縁談をしおらしく待つイメージとはかけ離れていた。何故女王付きの医者なのに騎士を剣で蹴散らして戦っているんだ?と思ったものだ。てっきり高名な女騎士だと思って、居合わせた先輩武官に聞いたら、仕事の憂さ晴らしに時々来る医者だと言われ、意味が解らなかった。

「ねぇ様は、とっても優しくてお美しい人ですから」

にっこりと、笑うリズを、モーガンはこれは参ったなと思いながらみつめた。

今はまだ、馬車に乗っているから人の目に触れることも少ないが、フードから出た顔は、とんでもない美少年で庇護欲をそそる。そそるだけなら良いが、彼はオメガだ。しかも公爵家の箱入り。荒くれた騎士団の男達の中には、不埒な想いを抱くものもいるかもしれない。

「あーー、これから熱射がきつかなるから、君は常にフードを被っていた方がいいな」
「あ、そうですね、熱射病にも気を付けないと、水分は皆さん足りてますか?」
「あぁ、腰に下げているみず袋の三分の一無くなったものはすぐに補給するように伝達してある」

「砂漠に入ったら、塩と砂糖を少し入れた方がいいですね、知らぬ間に身体から汗と流れてしまいますから」
「心得た」

「そろそろ出発の時間では?」

急にぶっきらぼうな声が聞こえた。リュカがいつの間にか、馬車にもたれかかって、此方をみていた。

モーガンが、ハッと振り向き、真顔になった。迂闊にも背後にいつの間にか居た男に気づけなかった。

(このリュカという男は、何者だ?人事資料にはリズ·カリルの護衛とあったが)

「無駄話終わりました?」

不遜な物言いだ。団長である自分に向かって、無駄と来たもんだ。

「無駄というわけではないさ、実に有意義だった」
「へぇ」

「ちょ、リュカさん、あの、団長です、この人、団長ですよ」
「知ってますよ、さ、あんたはもう馬車にすっこんでください」

またリュカに、両脇をワシッと捕まれ、抱き上げられると、リズは、ポッと馬車の中へ入れられた。

「ちょっ、だから、馬車は1人で乗れますよ、抱っこしないでくださいってば」
「へいへい」

「君は……」
「変な気起こさないで下さいね、この人に何かあったら、おっかない銀狐があなたの家にやってきますよ」
「むぅ、私は別に彼に何もしはしない」

「そうですか?ならずっとそうして下さい、俺が護るんで、あんたが心配する必要なにもありませんから」
「なっ……だが」

「俺、強いですよ?たぶんここにいる全員殺せる位にはね」

不穏な言葉を吐いて、リュカは、馬車に乗り込んでしまった。

取り残された、モーガンはしばらく無言で立っていたが、はぁとため息を吐いた後、軍を指揮する為に先頭へと足を向けた。

「リュカさん、リュカさん」
「なんすか」
「前から思っていましたが、リュカさんちょっと言葉のチョイスが悪いです」
「はぁ」
「あのですね、世の中は柵が沢山あって、あまり失礼が過ぎると出世できなかったりと色々大変なんですよ」

「へーー」
「聞いてます?リュカさんっ、もうちょっと上官には敬意を払って下さいね」
「へいへい」

全く心に響かない生返事が返ってきて、リズは、ガクッとした。せっかく、容姿も良くて、運動神経も良くてなんでもできるのに、態度が悪すぎるのが勿体ないなぁと思うのだった。





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