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6 狼さん、抜け毛です!?
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「おおかみしゃん…」
「んー」
現在、夕方七時。自宅。
先輩が隣で俺をなでなでしながら一緒にいてくれてる。
あの後、保健室で休んだ後、家に帰ったのはいいけれど、先輩に「大事を取って休んどけ」と言われて現在お布団の中。
「もふもふしたいです…」
「それは駄目だ。部屋中を毛まみれにしたくねぇ」
「むー…抜け毛です?」
「確かに夏が近いから換毛期っちゃー換毛期だが」
やっぱりあるんだ、換毛期。
もふもふ尻尾と耳がすっきりになるの、なんか羨ましい。
「…俺も先輩と同じ狼だったらよかったなぁ」
「何も良くない。他の奴と番になるお前を想像したくない」
「俺はいつでも先輩大好きですよー?
…でも、今日は好きすぎてほんとに死にかけましたけど」
「…過呼吸起こしたって聞いた時は俺も死ぬかと思った。
もし死んだら俺も後追うぞ」
あんまり真剣な表情だったから、胸がきゅーっとなる。
「駄目です…それだけはだめ」
一人は寂しいけれど、死ぬのはもっと寂しい。俺の場合、こーちゃんととらちゃんと一緒にバンドできなくなるし。先生やクラスのみんなと勉強できなくなるし、これから先、色んな人や場所に出会えなくなる。
…何より、先輩といられないのは俺が耐えられない。
「…もっと男らしくなりたいと思っても、難しいですね」
「…そーだな。お前は」
ひんやりとしてて、がっしりしてて、優しくて、大きな手。
「弱虫なくせに舞台立つわ俺と一緒にいたいわっつー度胸はあるからなァ」
優しく微笑む先輩が、一番優しい。
「先輩は、優しいよ」
「俺は、そこまで優しくねぇよ。隙あらばお前を攫いたくなるし、囲ってマーキングしたくなるし、お前の格好良くて可愛い姿を全世界に広めたくもあるしな」
そこまで言い切る先輩、ホント好き。
「じゃぁ、俺、先輩に何をおかえしできるかなぁ」
「俺にとってみればいつものお前もステージの上のお前も、俺と今こうしている時のお前も好きだからな」
「…くぅん」
俺、幸せで爆発しそう。…いや、常に爆発してる。
先輩無しじゃ生きられない。そんな体と心になってる気がする。
―――――
疾風が保健室に運ばれた、と聞いた時、全身の毛が逆立った。
サイリウムを振って応援してくれた疾風が唐突にサイリウムを手放し、蹲った姿を見た時、平常心を保っていられるかどうかだったが…。
『先輩、なるべく一緒にいてやって下さい』
『疾風は自覚あるかどうか分かんないですけど、こいつとことん無理して笑顔でいようとするし、再起不能になるまで動こうとする節あるし、目が離せないんですよね。なんつーか、天然?』
『でも先輩好きすぎて倒れるってのは初』
『それな。マジで過呼吸起こすとか愛溢れすぎ』
…こいつが本気だってことを改めて認識する。
そして、触れる度に一瞬で消えそうな温かさに、胸が疼く。
できればもっと触れていたい。
「疾風…」
でも、今はその時じゃない。それに…
「(…今発情して耳と尻尾を出したら、あちこち毛がひっついちまう)」
いや、発情したら出る訳でもないのだが、なるべく出さないように、人間社会に溶け込むために必要なことだからこうしてるのであって。
「(それに…)」
尻尾を触るということは、交尾OKのサイン、ということになり間違いなく俺が勘違いをする。これはよくない。
…まぁ、耳程度ならいいか。
そっと疾風の手に、元に戻した耳を触れさせる。
すると、そこをたどたどしく撫でる感覚に、少しもどかしさを感じる。
…今はこれでいい。
まだ、その時じゃない。
「(もし、その時が来たら―――――、)」
俺は、獣になるのか、人になるのか。
出来れば、この心臓の音を、覚えておきたい。
小さくても確かな、この音を。
―――――
「…ふぇ?」
気付けば朝の四時だった。
そう言えば昨日は過呼吸で殆ど意識が無かった。こーちゃんととらちゃんが保健室に運んでくれてー…そこからー…
「…せんぱい?」
横で先輩がぐっすり寝ていた。俺に頭を預けるように。
「…疾風、生きてるか?」
「…はい、生きてますよー」
最初は不安そうな表情から、一気に優しい表情になって。
「…そうか」
その吐息をつく瞬間までも好き。
「大丈夫ですよ、俺の狼さん」
一つ撫でると、なんだろう、ちょっと耳元がもふもふするような…?
「あ、先輩、耳…」
「ん?嗚呼、これか。…もう少し触るか?」
「…はいっ」
朝ごはんも大事だけど、先輩のもふもふを堪能してから。
…いつか、先輩ともっと凄いいちゃいちゃ、するんだろうなぁ。
でも、もう少し、ゆったり先輩と一緒にいたいなぁ。
…ほんとは、真っ先にぎゅーっ…てしてたいけどね。
「…あれ?」
いつの間にか、布団に柔らかい抜け毛が。
「…あっ…すまん」
「…狼さん、抜け毛です?」
「換毛期」
「…夏毛の狼さんが楽しみです」
爽やかな先輩ももっふもふな先輩も気になる。気になる…。
今日の朝ごはんは鮭の塩焼きとわかめとなめこの味噌汁とほうれん草のお浸しと人参の浅漬けかな?
今から先輩と朝ごはん、凄く楽しみで仕方ない。
「…無理するなお前」
「…一緒に作ってくれるんですか?」
「許す」
なお、この後一緒にご飯作りしました。しあわせ。
「んー」
現在、夕方七時。自宅。
先輩が隣で俺をなでなでしながら一緒にいてくれてる。
あの後、保健室で休んだ後、家に帰ったのはいいけれど、先輩に「大事を取って休んどけ」と言われて現在お布団の中。
「もふもふしたいです…」
「それは駄目だ。部屋中を毛まみれにしたくねぇ」
「むー…抜け毛です?」
「確かに夏が近いから換毛期っちゃー換毛期だが」
やっぱりあるんだ、換毛期。
もふもふ尻尾と耳がすっきりになるの、なんか羨ましい。
「…俺も先輩と同じ狼だったらよかったなぁ」
「何も良くない。他の奴と番になるお前を想像したくない」
「俺はいつでも先輩大好きですよー?
…でも、今日は好きすぎてほんとに死にかけましたけど」
「…過呼吸起こしたって聞いた時は俺も死ぬかと思った。
もし死んだら俺も後追うぞ」
あんまり真剣な表情だったから、胸がきゅーっとなる。
「駄目です…それだけはだめ」
一人は寂しいけれど、死ぬのはもっと寂しい。俺の場合、こーちゃんととらちゃんと一緒にバンドできなくなるし。先生やクラスのみんなと勉強できなくなるし、これから先、色んな人や場所に出会えなくなる。
…何より、先輩といられないのは俺が耐えられない。
「…もっと男らしくなりたいと思っても、難しいですね」
「…そーだな。お前は」
ひんやりとしてて、がっしりしてて、優しくて、大きな手。
「弱虫なくせに舞台立つわ俺と一緒にいたいわっつー度胸はあるからなァ」
優しく微笑む先輩が、一番優しい。
「先輩は、優しいよ」
「俺は、そこまで優しくねぇよ。隙あらばお前を攫いたくなるし、囲ってマーキングしたくなるし、お前の格好良くて可愛い姿を全世界に広めたくもあるしな」
そこまで言い切る先輩、ホント好き。
「じゃぁ、俺、先輩に何をおかえしできるかなぁ」
「俺にとってみればいつものお前もステージの上のお前も、俺と今こうしている時のお前も好きだからな」
「…くぅん」
俺、幸せで爆発しそう。…いや、常に爆発してる。
先輩無しじゃ生きられない。そんな体と心になってる気がする。
―――――
疾風が保健室に運ばれた、と聞いた時、全身の毛が逆立った。
サイリウムを振って応援してくれた疾風が唐突にサイリウムを手放し、蹲った姿を見た時、平常心を保っていられるかどうかだったが…。
『先輩、なるべく一緒にいてやって下さい』
『疾風は自覚あるかどうか分かんないですけど、こいつとことん無理して笑顔でいようとするし、再起不能になるまで動こうとする節あるし、目が離せないんですよね。なんつーか、天然?』
『でも先輩好きすぎて倒れるってのは初』
『それな。マジで過呼吸起こすとか愛溢れすぎ』
…こいつが本気だってことを改めて認識する。
そして、触れる度に一瞬で消えそうな温かさに、胸が疼く。
できればもっと触れていたい。
「疾風…」
でも、今はその時じゃない。それに…
「(…今発情して耳と尻尾を出したら、あちこち毛がひっついちまう)」
いや、発情したら出る訳でもないのだが、なるべく出さないように、人間社会に溶け込むために必要なことだからこうしてるのであって。
「(それに…)」
尻尾を触るということは、交尾OKのサイン、ということになり間違いなく俺が勘違いをする。これはよくない。
…まぁ、耳程度ならいいか。
そっと疾風の手に、元に戻した耳を触れさせる。
すると、そこをたどたどしく撫でる感覚に、少しもどかしさを感じる。
…今はこれでいい。
まだ、その時じゃない。
「(もし、その時が来たら―――――、)」
俺は、獣になるのか、人になるのか。
出来れば、この心臓の音を、覚えておきたい。
小さくても確かな、この音を。
―――――
「…ふぇ?」
気付けば朝の四時だった。
そう言えば昨日は過呼吸で殆ど意識が無かった。こーちゃんととらちゃんが保健室に運んでくれてー…そこからー…
「…せんぱい?」
横で先輩がぐっすり寝ていた。俺に頭を預けるように。
「…疾風、生きてるか?」
「…はい、生きてますよー」
最初は不安そうな表情から、一気に優しい表情になって。
「…そうか」
その吐息をつく瞬間までも好き。
「大丈夫ですよ、俺の狼さん」
一つ撫でると、なんだろう、ちょっと耳元がもふもふするような…?
「あ、先輩、耳…」
「ん?嗚呼、これか。…もう少し触るか?」
「…はいっ」
朝ごはんも大事だけど、先輩のもふもふを堪能してから。
…いつか、先輩ともっと凄いいちゃいちゃ、するんだろうなぁ。
でも、もう少し、ゆったり先輩と一緒にいたいなぁ。
…ほんとは、真っ先にぎゅーっ…てしてたいけどね。
「…あれ?」
いつの間にか、布団に柔らかい抜け毛が。
「…あっ…すまん」
「…狼さん、抜け毛です?」
「換毛期」
「…夏毛の狼さんが楽しみです」
爽やかな先輩ももっふもふな先輩も気になる。気になる…。
今日の朝ごはんは鮭の塩焼きとわかめとなめこの味噌汁とほうれん草のお浸しと人参の浅漬けかな?
今から先輩と朝ごはん、凄く楽しみで仕方ない。
「…無理するなお前」
「…一緒に作ってくれるんですか?」
「許す」
なお、この後一緒にご飯作りしました。しあわせ。
応援ありがとうございます!
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