日常

さくら

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2月

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2月。しんしんと降り積もる雪は、足首ほどの高さになっていた。私は冬が好きだ。雪も好き。家を出て20分ほどが経ち、寒さにも慣れてきた。日曜日の今日は学校も休みだが、深夜から降り続ける雪の中、外出している人の姿はまばらであった。
家の前の坂を上り、さらに丘を上がっていくと公園が見えてきた。ベンチと砂場しかない小さな公園であるが、街を一望できる。小さな頃からの私のお気に入りの場所。雪の降り続ける中景色を眺めていると、横から声が聞こえた。

「深雪。やっぱりここにいた。」

「…行人。」

振り向くと、そこにはよく知ったクラスメートの姿があった。彼、相田行人は、唯一私のお気に入りの場所を知る人。
去年、彼が下校中にこの公園に気付き立ち寄った際に、たまたま私と出くわした。去年も同じクラスであったが、彼とはほぼ話したことがなかった。行人と初めて会話を交わしたのは、この時だった。それから、彼とは少し話す機会が多くなっていった。

「お前、毎週毎週飽きないな。日曜日には必ずここ来てるけど、こんな雪の日まで来なくても。」

「…別に行人は来なくてもいいんだよ。」

「せっかく来たのに、それかよ。」

そう、私たちは毎週日曜日にはここで会うようになっていた。…といっても、私がもともと来ていたところに彼が来るようになっただけなのだが。
しばらく黙っていると、彼は私の横に並び、景色を眺め始めた。私も視線を景色に戻した。辺り一面は銀世界になっている。見えるのは白。雲に覆われた空と、自分の吐く息と、降り積もる雪の、白だけ。この景色がとても好き。眺めているだけで、寒さを忘れるほど吸い込まれるような白だ。この美しい景色を見ているときだけ、学校とか人間関係とか、めんどくさい日常を忘れられる。
そのまま無言の時間が5分ほど続いた。その間、私は一度も視線を反らさなかったが、ふいに隣からぼそっと声が聞こえた気がした。

「何か言った?」

横を向くと彼と目があった。彼は少し俯き気味に景色に視線を戻した。

「…何でもない。」

そう言うと、また黙ってしまった。

…あれ、前にも同じようなことがあったっけ。そう、彼と初めてここで出会った日。初めて会話を交わした日。今日と同じようにぼそっと彼が呟いたんだ。そして、その言葉を聞いて、私は少しこの景色を自慢したくなった。彼の素直な言葉を聞いて、私だけの特別を分けてあげても良いと思えた。
あの時と同じだ。彼はあの時と同じ目をして、一言呟いたんだ。

「…綺麗だ。」と。
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