全ルートで死ぬはずの公爵令嬢に転生したら、いないはずの双子の弟がいるんだけど!?

のち

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   零と霞、もといオズワルドとアビゲイルは前世からの再会を喜びながら今後の事を話し合っていた。

「異能研究所って何歳から入寮だったか覚えてる?」
「えっと確か13からじゃなかったか?」
「じゃあ、今は8歳だから5年後か…」
「待って。確かに入寮はその年齢たが、その前に山場があるだろ。エンリケルートだと」
「…アビゲイルが8歳の時に国王主催で開かれるガーデンパーティー…!」
「ああ、エンリケルート、所謂王太子ルートだとエンリケはガーデンパーティでアビゲイルに一目惚れをしてストーカー化するんだ」

 零はゲームをしている時も、その執拗さが恐ろしく感じ、製作陣、狂ってやがる!!と他人事のように思っていた。
 だが、いざ自分がその危険に晒されていると実感すると、背筋が凍る思いだった。

 エンリケルート、所謂王太子ルートであり、彼はこの国の第一王子。歳はアビゲイルと同じ。美しい容姿と光が注がれ溶け込んだかのような綺麗な金髪にルビーのような瞳を持ち、能力発動時も煌々と明るく輝く。
 能力は「重力」──相手の動きを封じたり、潰したりする事さえ可能な、極めて攻撃的な異能。
 人柄的には穏やかで、民の言葉にも耳を傾ける良き王子だった。──ただし、アビゲイルに対しては、別だった。

「一目惚れして、求婚するけど、アビゲイルは家督を継ぐ関係で即座に断るんだよな」
「でも、エンリケは諦めない。何度も何度も食い下がって……で、最終的に」

 零は口をつぐんだ。思い出すだけでゾッとする。

「まあ……結果は、知っての通り」
「うん」

 霞、いや、オズワルドは難しい顔をする。
 零はあえて、それ以上は語らなかった。

 ──エンリケが最終的に何をしたのか。
 ──その後、何が起こったのか。

 それは彼女たちがどう未来を変えるか次第で、運命を書き換えられるかもしれないから。

 パンッとオズワルドが手を叩く。暗い雰囲気を消し飛ばすように。

「とりあえず、だ。アビゲイルはこのガーデンパーティーに参加しない方がいい」

「エンリケに会わないためにはそうだとは思うんだけど……いいのかなぁ、公爵家の令嬢としては王命に従わないといけないんじゃない?」

「いや、絶対に出ない方がいい。あの時はアビゲイルは一人娘。家督を継がなきゃいけなかったから必ず出席しなきゃいけなかったけど──今は俺がいる」

 オズワルドは真剣な目で続ける。

「恐らくだが、家督は俺が継ぐ事になると思う。だから、今回、アビゲイルがパーティーに出席し、エンリケに見初められたら……間違いなく婚約者に据えられるだろうね」
「ひぃっ」

 零──アビゲイルは変な声を出した。
 これはただのゲーム知識による恐怖ではない。
 知っている。知ってしまっている。

(……違う、思い出せない。でも、確かに”経験している”気がする。)

 体が震え、心臓が早鐘のように鳴る。
 鳥肌が立ち、冷や汗が背中を伝う。
 零の中の”アビゲイル”が、何かを必死に訴えているような感覚。

「怖いよな、わかってる。今度は絶対俺がお前を守るから」

 オズワルドがそっと手を添えると、ようやく呼吸が落ち着いた。

「……だ、大丈夫……守られるだけなんて嫌だし、私、オズワルド──霞が傷付くなんて嫌だもん」
「それでこそ、零だな!」

まだ震えは残っているが、オズワルドの存在が確かだとわかると、不思議と力が湧いてくる。

「さて、話は逸れたけどアビゲイルはパーティーに参加しない方針でいくとして……問題は父上をどう説得するか、だな」
「それに関しては考えがある」
「え?」
「考えてみてよ。お父様はアビゲイルには、すっごい甘いんだから」

 ニッと不敵に笑ってアビゲイルはベッドから立ち上がり、オズワルドへ手を差し伸べた。

「さあ行くよ、お父様のもとへ」
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