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アビゲイル
しおりを挟むガーデンパーティの最中、オズワルドがルネと接触を図ろうとしている頃──
アビゲイルはひとり自室で、ぼんやりと座っていた。彼女の目は無意識に窓の外を見つめているが、実際にはその視線の先には、ゲーム内で知っていたはずの数々の出来事が浮かんでいた。
零の視点が頭を過る。
ゲームの中では、ルネといえば──その名前を思い浮かべるたびに、嫌でも現れるのは、彼の無垢な瞳の奥に潜む暗い闇だった。
ルネ・フォン・オルコット──
ゲーム内での彼の運命は知っていたはずだ。
彼は、幼少期はクローチェと共に平民として過ごし、穏やかな日常を送っていた。だが、彼が10歳のときに母親が謎の死を遂げ、その後の運命は一転する。身寄りを失い、オルコット公爵家に引き取られる事になった。
最初はただの庶子で、身寄りがないためオルコット家で過ごすことを余儀なくされたが、そこには公爵夫人の冷徹な目と、全てを支配しようとする恐ろしい策略が存在していた。
夫人はルネの顔が公爵にそっくりだという理由だけで、彼を自分のものにしようとし、その結果、ルネは毎夜寝室に呼ばれ、初めてを奪われていく。
その後の彼の心情は、どこか歪んでいった。
ゲーム内では、ルネが異能研究所でクローチェと再開し、幼い頃の気持ちが再熱し、恋をした。だが、その頃のクローチェは家族と離れ離れにさせられ荒んでおり、アビゲイルはそんなクローチェの心を救ったわけだが、ルネにとってはそれが余計な事でしかなかった。
──ルネは自分こそがクローチェの心を救いたかったのだ。
その歪んだ心が、アビゲイルに向けられる。
彼はクローチェの前でアビゲイルを火炙りにし、命を奪った。アビゲイルが死んだその瞬間、ルネは自暴自棄になり、最終的に夫人を殺して、自らも異能で命を絶つという、悲劇的な結末を迎える。
ちなみにこれはバッドエンドだ。
クローチェとのメリバエンドでも似たような理由でアビゲイルは火炙りにされ、殺されている。
──ルネの心をどの段階で救えたらこんな悲劇を生まずにすんだんだろうか。
アビゲイルは思わず、自分の手をじっと見つめた。彼が目の前に現れた時、何か違う形で向き合うことになるのだろうか。その恐怖と、彼の過去に触れることの重さを、オズワルドとともに対策を講じている中、何度も感じていた。
もし、ゲームの通りに進むのであれば、ルネと出会うこと自体が、命を落とすことを意味している。彼が抱える痛みや狂気、そして憎しみは、今の自分には計り知れない。ゲーム内で何度も繰り返し読んだその結末が、今目の前に現れる可能性がある。
ルネが、もし自分の目の前に現れたとき。どんな言葉で彼と接するべきなのか、想像ができない。彼を救うことができるのだろうか。それとも、ゲーム通りに、彼に殺される運命を受け入れることになるのだろうか。
「だけど、ルネ、例え殺されるかもしれないとは言っても君の心を救いたいと思ったのは本当だよ」
アビゲイルは小さくため息をつき、再び視線を外へ向けた。オズワルドがルネに接触するための機会を得たとしても、自分に何ができるのか、それとも見守るだけで終わるのかもしれない。
その答えはまだ見えない。
だが一つだけは確かだった。
ルネは、この世界でアビゲイルが関わるべき人物であり、同時に恐れるべき存在である。
「次に会ったときが、どうなるか──それは、私にはわからない」
その言葉をつぶやきながら、アビゲイルは心の奥底で、もしかしたら命を懸けた戦いが待っているのかもしれないと思った。
でも──仮にそうだとしても、
(自分の気持ちには嘘をつかないで。君は君の思いのまま自分のやりたいことをやって、幸せに生きてほしい)
そう願ってしまうのだ。
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