出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
9 / 161
第一章  出会い編

第6話  森の迷子は一人じゃなかった②

しおりを挟む
「先程は大変、失礼した。俺はルード。
こっちの筋肉達磨なおっさんがガド。
カリス帝国の、まぁ皇帝がトリアドス王国各領地の学園や治療院など所用施設に友好アピールの為に視察巡りしているんだがな?ここの隣の領地から先乗りで領内を見る役目を仰せつかってな。」


「今紹介に預かったガドだ。
言っとくがまだ29歳独身の男前で断っじておっさんではないからな?
丁度境界付近より広がるこの森がこちらの領内へと伸びているのにこのくそガ…ルードが目をつけてなぁ。んで、“森を通り抜けて近道し、領内に入る”なんてことを言い出しやがった挙句がこのザマってわけだ。つまりは森で迷子な?…たく、よく知りもしない森に何の下見も無しに入るのはやめた方がいいてあれ程忠告してやったのに聞きゃあしねぇんだよこいつ」


始まった自己紹介と思いがけなくも詳しい説明に、そして何よりも先ほどまでのルキア語ではなく、この領地の所属する国ートリアドス王国の主国語であるアルギス語を流暢に話す二人にシェイラは(はなせるじゃないですか…)と湧き上がった呆れに脱力してしまった。
最も一番呆れたのは二人が今し方話した内容にあるのだが(主にガドというらしいおっさ…いや、男性のもの)。


「我が母国語を使ってのご挨拶と丁寧な状況説明を有り難う御座います。
申し遅れましたがこの領地の領主の娘、レイランドルフ伯爵家のシェイラと申します。」

え、と二人が僅かに驚いたのがすぐに分かったが、恐らく
(え、その容姿と身なりで??)
との驚きだろう。想定の範囲内ですとも。

「…領主の、娘?」

「…てぇことは、伯爵令嬢?はぁぁ??うっそだぁそんな成りで!?」

「!おいっバカ!!……重ねて失礼した、レイランドルフ伯爵令嬢」

「いえお気になさらず、どうかシェイラ、とお呼びください。おそらく誰の目にもこの身なりでは令嬢には見えないと思いますので。決して我が伯爵家が貧乏だとか領地で内乱の末に命辛々追われているとかそんな心配はございませんので。言うなれば家庭における諸事情ですわ」



貴方方にもあるでしょう?人様に簡単に言えない、“諸事情”というものが。



僅かに目を眇めながらも笑顔を崩さず暗に詮索するな、と告げるシェイラの態度に軽く息を飲んだのはガドだけだった。ルードはそんなシェイラの様子に何事かを考える素振りを見せたが、それもほんの僅かな時間。

すぐに控えめの笑みを浮かべ
「まぁ気になるには気になるが。気にするなと言われれば気にすることもないことだな」

「…そんなモンか?」

「そんなモンだガド。そんなことより俺たちが気にするべきはどうやってこの森から脱出するか、だろうが」

「ま、たしかにな」

「………。」



正直、シェイラは驚いていた。
シェイラのこの身なりを見たものは貴族、商人問わず皆見下したり蔑んだりとまともな態度を取った試しがなかった上、たまに他国から流れてきた商人に話しかけられても、口調やその目にありありと同情が透けて見えた。
なのに。
ルードと名乗るこの男には、それがなかったのだ。

何故かそれがとても心地良く、知らず僅かに表情を和らげる。


「要するに、お二人はこの森を抜け出したいのですよね?それも我が領内に」

「…ああ」

「そういうことだな」



「一つ。仮に私の案内で領内に抜け出すことができたとして、街に至るまで私の指示に従って行動すること。
 二つ。街に出、貴方方のお仕えされる御方方とともにこの国の貴族と交流を持っても、私と接触したことをその交流の場で話さないこと。
 この二つの条件を守って下さるのなら、この『迷いの森』からの脱出に協力しますわ」

如何ですか?と促すシェイラの提案に

「「よろしく頼む(わ)、シェイラ((嬢)ちゃん)」」

間髪入れず即答を返してきた二人の潔さに、ふふ…、と思わず笑みが洩れた。

くるりと身を翻すと
「ではついてきてください。決して逸れることの無きよう…。
此処は『迷いの森』。逸れれば、もしかすると永遠に彷徨い続けることになるかもしれませんよ?」

(ちょっと芝居がかり過ぎたかしら?まぁでも)

こんな会話も、偶には良いものかも、しれませんわね。
そんな、シェイラにしては些か浮ついた、しかし確かな喜びの感情を心の中で滲ませながら。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

道中、勿論。

「ああそう言えばガド様。先程の話について恐れながらも一つ、忠告を。」

「あ?」

「他国でどのような取り決めがなされているのかは存じませんが。我が国では領地から領地へと移る際境界の決められた検問を身分を問わず通過せねばなりませんし、それ以外のルートでの移動•移領を試みる、又は実行した者には厳罰に処されます。今後、軽々に森から他領に、などという話も行動もなさいませんよう」

「「げ」」

「ふふふ…。
お二人共、此処で出会ったのが領主の娘の私で良かったですね?」


「「………ああ(違いねぇ)」」


先程の二人の会話内容の不味さを指摘することも忘れない、どこまでも領主の娘のシェイラであった。
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー 「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」 微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。 正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

処理中です...