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第一章 出会い編
第21話 希望を抱いて
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(詮無い事ばかり考えていてはいけませんわね。気持ちが落ち込んでしまいます)
過去より自身を苛む存在に暫く思考を囚われていたシェイラは、これではいけないと軽く頭を振るい、掃除を継続しつつ頭の中を整理していく。
昨日暴走していたあの二人によれば、皇帝陛下一行はあと2、3日はこの領地に滞在するとのこと。
滞在の折、領主の屋敷に滞在するのではなく、街の有りのままの営みを感じたいとの皇帝の思召しで、旅人が利用するような宿を貸し切っているらしい。どうやら少々変わり者の皇帝らしい。
(ミラベルが皇帝陛下と接触できると思っていた根拠は領主屋敷滞在があったからなのですね。
またもや失念してましたわ)
ミラベルの目論見は皇帝の気紛れによって儚くも散ったという訳だ。
どの道この屋敷に滞在を希望されたところで真っ当なおもてなしなどあの二人に出来るのかは疑問甚だしいが。
どの道無理でしょう、そう思いつつも今日は親子揃って皇帝陛下に御目通りするのだと息巻いていた二人はこの朝早くから出掛けて行ったため、シェイラの言葉など届きようもないのだが。
(大国、カリス帝国の皇帝……一国を統べるその方であれば或いは)
自分を救ってくれるのではないか…
そこまで考えかけて、何を馬鹿なことを、と自嘲気味に笑んだ。
一国を統べる皇帝。
そのような高貴な人間である人物が、たかが他国の、一領主の娘の言葉に耳を傾けることはないのだ。
ましてや今の自分はどう取り繕っても伯爵令嬢に見えようはずもなく、不用意に近づけば、よくて摘み出される、悪くすれば不敬罪で捕らえられるのがオチだ。
不意に、シェイラの脳裏に、昨日出逢った銀髪の彼の姿が浮かんだ。
『約束をしよう、シェイラ
俺たちがまた会う。その約束だ』
そうして、彼の
形の良い唇が私の唇、にー
(~~~ッッ!!何を、思い出しているんですの私は!??)
かあぁぁぁぁ…顔一面が熱を帯びた。
皇帝陛下一行について考えていたせいで思い出してしまっただけで!そもそも行動とセリフの順序が逆ですわ!!と、誰にともなく言い訳を始めるが、残念ながらシェイラにツッコミを入れてくれる相手はいない。
全く、なんなんですの…と自身のお花畑になりかけた思考を慌てて散らしたシェイラだったが。
反芻したその言葉がどうしてか頭を離れない。
先程弱気が頭を擡げたからだろうか?
果たされない約束だとわかっていて。
縋っているのだろうか。優しく自分に微笑んでくれた彼の、その言葉に。
……
………もう一度でいい。会いたいー…
いつもならば働く理性がこの時どうしてか、全く仕事をしなかった。
気がつけば掃除道具を放り投げ、『気づかず』の魔法をシェイラは自身にかけていた。
外に出て門の前で魔法で風を起こし。門を飛び越えてー
シェイラは街へと駆けていく。
この日、シェイラは初めて家事を放って、自分の欲求を優先し、行動を起こした。
あと先を考えず、ただ彼にもう一度会いたい、そんな些細で、わがままな欲求を。
どうやら先程散らした筈の花は、
まだシェイラの中で綺麗に咲き続けていたらしいー。
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