出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
31 / 161
第一章  出会い編

第22話  果たされた約束

しおりを挟む





(やはり皇帝陛下一行の滞在の影響でしょうか……人が多いわ)

昨日ルード達を街へ送った際は、彼らを無事屋敷から街へと連れ出すことしか頭になかったために街の様子に気を向けることがあまりなかったが。
やはり通常より人通りが多いように感じる。

こう人が多くては、と気持ち焦りを抱いたシェイラだったが、大国であるカリス帝国のトップが直々に訪問・滞在しているとあってか、彼ら一行の宿の前には朝も早いこの時間から人集りが出来ていた。
その人集りの外側に酷く見覚えのある馬車と御者を見つけ、シェイラは咄嗟に脇の路地へと身を滑り込ませた。

(ロザベラ達、だわ。そうよ、その為にあの人達は柄にもなく早朝から家を出て行ったというのに。私ったらまた失念して…。お花畑にも程がある)

これではあの人たちをとやかく言ってはいられませんわね、と自嘲しつつ、見つからないよう路地からそっと顔を覗かせる。
『気づかず』の魔法をかけてはいても用心するに越したことはない。
この魔法、他者の認識をずらす類のものである為に、実は術者が解かなくとも声を上げれば勝手に解けてしまうという致命的な欠点があるのだ。


それに何せ、この街にはの息がかかっている人間が多く存在するのだから。

警戒しながら暫く様子を伺っていると、わぁ!!と人集りが声を上げた。同時に馬車からロザベラとミラベル、侍女たち二人が降りてきた。どうやら御一行が街へと繰り出すべく宿を出てくるらしい。

『邪魔よ!!退きなさい!!』
『私達を誰だと思っているの!私達は皇帝陛下に拝謁する権利があるのよ!!』

そんな声が微かに聞こえてきたが、人集りが上げる歓声に殆どかき消されている。

数人の護衛騎士達が出てきて道を開けろと人集りに促すと、クルリと踵を返し、恭しく頭を下げる。そこにー

(ー…え)

皇族の紋章の入ったマントに黒い軍服。細かい意匠の施されたその服をさらりと着こなして。
上品に長い髪を頭の後ろで結えた銀髪の美丈夫、感情の読めない微笑を浮かべたルードが、宿屋より姿を現した。

(…ルード…。貴方は…)


「何、で…。」


貴方がそんな服を来て歩いているの?護衛の騎士からも頭を下げられているの?そんなに冷たく笑っているの?

分かり切った答えを知りたくなくて、シェイラは必死に自問を繰り返す。
たくさんの人に囲まれながら遠ざかっていく彼らを、呆然と見送る事しか出来なかった。

途端静けさを取り戻した辺りの様子に帰ろう、と屋敷へ向けて歩き出そうと通りに踏み出したシェイラの腕が、
グイッと路地奥に向けて引っ張られた!

先程小さくとはいえ声を発してしまったことに思い至ったシェイラは(しまった!!)とバランスを崩した身体を
必死に捩って抵抗するが、すぐに後ろから羽交い締めにされた挙句、口元まで手で塞がれてしまった。

(ああ…あれだけ警戒していたのに私は。今度こそあの男に)

殺されてしまうのだろうか

次第に絶望へと染まるシェイラの表情はしかし、すぐに驚きのそれに変わる。




「昨日ぶりだな、シェイラ」




耳元で囁かれた言葉とその声。昨日聞いたばかりのー…

抵抗が止んだのを感じたのだろう、口元から手が外され、身動きが取れるほどに腕の力が緩められる。

信じられない面持ちでゆっくりと首を捻ればそこには。


「ん?驚かせたか?だが、約束したろう『俺たちはまた会う』と」



そこには、何故か茶色く髪を染めて平民服に身を包んだルードがシェイラを見つめ、悪戯が成功した子供のように、笑った姿があった。
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...