出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第26話  side:ルード〜抱く殺意に果てはあるか〜

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シェイラが泣いた。
それこそ昨日のようにはらはらと静かなそれでなく。
悲しみを、苦しみを、痛みを
懸命に自分の中から押し出すように声を上げて、泣いたのだ。


そうして泣いたあと語られた数々の、不快極まる出来事の数々。


シェイラの母の死を受け入れられなかったことが、父親が王都へと生活拠点を移した理由であること。
その母の死因は原因不明の突然死とされているが、実は異なること。
その事実を知っているのが、家族の中ではシェイラだけであること。
真相を知っているシェイラを屋敷から出さないようにした、男の存在。

そしてー
その母が死んだ原因も、父親が9年間原因も、突然家に上がることになった後妻達を連れてきたのも、乳母を筆頭に、シェイラの味方となってくれていた使用人や侍女達が解雇の後全て。

全て全て全て全て、全て。

伯爵の補佐役兼領主代理として今もなお、王都と領地を行き来している『ケイン』という男が、十中八九原因であるとシェイラが考えていること。

証拠もなく、どれもが推測である為に。そしてシェイラ自身が下手に動くことで、今なお接触があるだろう父親にも害が及ぶことを恐れた彼女が、家を出るという考えを捨てたこと。
逃げ出したことをこれ幸いと、その男に捕らえられ、殺される可能性が非常に高いこと、などなど。






散々心の内を曝け出して語ったことで精神的にも相当疲労したのだろう。
縋り付くように俺の胸で泣き、語った彼女は今、この部屋のベッドで静かに寝息を立て眠りについている。
気を失ったように眠る彼女のボサボサの髪をかき分けると昨日垣間見た、整った、存外愛らしい顔が露わになる。
湧き上がった衝動に抗うことなくその額にちゅ、と軽く口づけを落とすと

「暫くゆっくりと、本当にゆっくりと休むが良いぞ。シェイラ」


静かに、音を立てることなく部屋から出る。


素早く反応し、今度は察して無言で俺に従う騎士達に満足気に頷いてやると二つ隣の部屋へと移動する。
騎士達諸共部屋へと入り、その一人が扉を閉めようとしたところで止めるよう手振りで止める。

『良い、すぐ済む。
次に俺がこの部屋から出るまで、何があっても
いいな?』

『『はっ!!』』

『わかったら行け』


しっしっと手振りで示し、二人が出て行く。

扉が閉まると同時。
背後に現れた存在に、しかし俺が驚くことはない。
無言で頭を下げるその男へちらと視線を向けただけで、すぐに視線を前の扉に向ける。
そうしていないと、苛立ちと湧き上がる殺意を関係のない自分の部下にぶつけてしまうからだ。
俺自身、すでに表情が抜け落ちている自覚がある。

顔を顰めたり、険しくなったり。
そんな表情を取り、怒りや苛立ちを表す事もある。寧ろルードとしても、としても、ほとんど表すのはそう言った表情か、繕った笑顔のどちらかだ。
しかし本当に感情が激した時、俺は表情が人形のようにんだそうだ。
それを唯一俺に指摘したガドはここにいないが、後ろにいる部下も分かっているのだろう。
ガドが側にいない時、影より俺を守るのが仕事のこの部下が、自身から声を出さないのがその証拠だ。

本当に情報を待っているだけというのはもどかしい。

『……なぁ、影』

『………は。』

『人間が抱ける殺意に果て(限界)はあると思うか?』

『………。』


『さっきの全部、聞いていたろう?
その結果俺の顔がどうなっているのかも。
その上で、だ』

『……貴方の感じる価値次第ではないかと』

『価値?』

『ええ。その者が自分にとっても身近なものにとって取るに足らなければ、
何かされたとしても然程殺意を抱かないし持続しない。
逆に、その者が……自分の大切な者に対して大変な害と場合は…』

『抱く殺意が尽きることはなし、か』

くくくッ喉奥で笑っている筈なのに表情がぴくりと動くことがない。

ガド。
早く俺に情報を持ち帰ってくれ、暇なんだ。
彼女は疲れて眠っているし、部下もをしてくれない。
暇で、暇で、余りにも暇すぎて。

抱く殺意に任せて、彼女の言っていたあの男と勝手に殺し合ってあそんでしまうかもしれないぞ。






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