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第一章 出会い編
閑話 悪人達の楽しい仕事
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ー裏通り 売春宿兼闇商店『ヒドラ』
side:ケイン
「……へぇ……。ルキア語を話す不審な男二人、ねぇ」
「へい。身なりはどこにでもいる旅人風なんですが、どうにも様子が違うんで。その内一人は裏の仕事を探している体で旦那の事をどうやら探ってる様子だってんで、今何人か張り付かせてまさぁ」
「わかった。……ああ、まだ捕まえてくる必要はないですよ?そのまま尾けてご主人様を知ることができれば御の字です」
「へ?いや旦那、そのままとっ捕まえて拷問しちまった方がペラペラ話して手っ取り早くねぇですかい?」
「(はぁ、これだから馬鹿は)こっちが感づいている事をわざわざ知らせてどうするんです。それより誰が、何の目的で俺を探っているのか知った方が何倍も動きやすいというもの。見張りについている人間に絶対先走るなと念を押しておいてください、いいですね?」
「へ、へい!わかりやした!!」
慌ててドタドタと去っていく破落戸を眺めながらため息をついていると、宿…店の奥から老人が姿を見せる。
「ほっほ。今時の若い連中は旦那の手に余ると見えますなぁ」
「翁ですか。……ええ、どいつもこいつも察しの悪い……。
あの無駄にでかい頭部に果たして脳が存在しているのか甚だ疑わしいですね」
「おやこれは手厳しい事で……。
わしのような年寄りなんぞ彼らに比べて更に使い勝手も悪そうですな。
愚鈍すぎて旦那に呆れられていなければ良いんじゃが」
「あの連中と翁の価値を比べるだなんて路傍の石と磨き抜かれた宝石を比べるようなものですよ」
「ほっほ!!これは嬉しや。
旦那にそんな大層に評価していただけるのは気分がいいもんじゃのぉ。
……して、今日はいつもの花を御所望で?」
「正確には6日後に欲しいんですがね」
「こんな時期に、ですかな?」
「こんな時期だからこそ、というべきですかね。
今日も派手な連中が入場した様子ですし、念を入れて。
なぁに、あくまでも保険ですよ、私自身にとっての、ね」
「中々の念の入れようですな。ようございます、明日の朝お手に渡るよう手配しましょう。
して……今日も誰とも遊んで行かれないんで?」
「……翁はそれさえなければ完璧な商売相手なんですがね。
前にも言ったはずですよ?私は妻一筋だと」
「ほ、これまた余計なお世話でしたかな?旦那のように男振りがいいとついつい余計なお節介を焼きたくなるんで。
これも年寄りの戯言と水に流して下さるとありがたい」
「…花の件、頼みましたよ。いつもの宿にいますので」
「毎度有り難く。必ずやお届けに上がりますぞ」
金を受け取り店の奥によろよろと消えていく老人を見送ると、甘い香りの漂う店を出て王都に来るたびに泊まる寂れた宿へと足を向ける。
(ああ面倒な。
俺のエリーとの時間を台無しにする全てが気に入らない。しかも俺を探るルキア語の男に、今日王都入りした一行…。憂いを無くすためにも『大夜会』の前日には必ず入場を果たさねば。
エリー、俺の最愛。
待っていてくれ、こんな面倒ごとはさっさと片付けて君の元へと帰るから
だからお利口にしていてくれよ?)
………………………………………………………………………………
side:老人
店の奥から、去りゆく青年の姿をじぃ……と凝視していた老人が、うっそりと笑う。
「中々の上客だったんだが、彼はもう駄目かも知れんな。いやはや、若いのはいい事だが知恵も思慮も浅くて困る。最後の取引を終え次第場所を移すかのぅ……。
何、まだまだ客には困ることもなし、次はあの国にでも舞い戻ってみるかの……ほっほ」
愉快そうに笑う老人の嗄れた声が、甘い香りとともに店の中に溶けて消えた。
side:ケイン
「……へぇ……。ルキア語を話す不審な男二人、ねぇ」
「へい。身なりはどこにでもいる旅人風なんですが、どうにも様子が違うんで。その内一人は裏の仕事を探している体で旦那の事をどうやら探ってる様子だってんで、今何人か張り付かせてまさぁ」
「わかった。……ああ、まだ捕まえてくる必要はないですよ?そのまま尾けてご主人様を知ることができれば御の字です」
「へ?いや旦那、そのままとっ捕まえて拷問しちまった方がペラペラ話して手っ取り早くねぇですかい?」
「(はぁ、これだから馬鹿は)こっちが感づいている事をわざわざ知らせてどうするんです。それより誰が、何の目的で俺を探っているのか知った方が何倍も動きやすいというもの。見張りについている人間に絶対先走るなと念を押しておいてください、いいですね?」
「へ、へい!わかりやした!!」
慌ててドタドタと去っていく破落戸を眺めながらため息をついていると、宿…店の奥から老人が姿を見せる。
「ほっほ。今時の若い連中は旦那の手に余ると見えますなぁ」
「翁ですか。……ええ、どいつもこいつも察しの悪い……。
あの無駄にでかい頭部に果たして脳が存在しているのか甚だ疑わしいですね」
「おやこれは手厳しい事で……。
わしのような年寄りなんぞ彼らに比べて更に使い勝手も悪そうですな。
愚鈍すぎて旦那に呆れられていなければ良いんじゃが」
「あの連中と翁の価値を比べるだなんて路傍の石と磨き抜かれた宝石を比べるようなものですよ」
「ほっほ!!これは嬉しや。
旦那にそんな大層に評価していただけるのは気分がいいもんじゃのぉ。
……して、今日はいつもの花を御所望で?」
「正確には6日後に欲しいんですがね」
「こんな時期に、ですかな?」
「こんな時期だからこそ、というべきですかね。
今日も派手な連中が入場した様子ですし、念を入れて。
なぁに、あくまでも保険ですよ、私自身にとっての、ね」
「中々の念の入れようですな。ようございます、明日の朝お手に渡るよう手配しましょう。
して……今日も誰とも遊んで行かれないんで?」
「……翁はそれさえなければ完璧な商売相手なんですがね。
前にも言ったはずですよ?私は妻一筋だと」
「ほ、これまた余計なお世話でしたかな?旦那のように男振りがいいとついつい余計なお節介を焼きたくなるんで。
これも年寄りの戯言と水に流して下さるとありがたい」
「…花の件、頼みましたよ。いつもの宿にいますので」
「毎度有り難く。必ずやお届けに上がりますぞ」
金を受け取り店の奥によろよろと消えていく老人を見送ると、甘い香りの漂う店を出て王都に来るたびに泊まる寂れた宿へと足を向ける。
(ああ面倒な。
俺のエリーとの時間を台無しにする全てが気に入らない。しかも俺を探るルキア語の男に、今日王都入りした一行…。憂いを無くすためにも『大夜会』の前日には必ず入場を果たさねば。
エリー、俺の最愛。
待っていてくれ、こんな面倒ごとはさっさと片付けて君の元へと帰るから
だからお利口にしていてくれよ?)
………………………………………………………………………………
side:老人
店の奥から、去りゆく青年の姿をじぃ……と凝視していた老人が、うっそりと笑う。
「中々の上客だったんだが、彼はもう駄目かも知れんな。いやはや、若いのはいい事だが知恵も思慮も浅くて困る。最後の取引を終え次第場所を移すかのぅ……。
何、まだまだ客には困ることもなし、次はあの国にでも舞い戻ってみるかの……ほっほ」
愉快そうに笑う老人の嗄れた声が、甘い香りとともに店の中に溶けて消えた。
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