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第一章 出会い編
第58話 狂人(後)
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※前回同様不快な気分になるのが嫌!!という方は回避してください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
side:ルード
一頻り笑って満足したのか、男は沈黙した。
「……外道が……一丁前に人間の形しやがって……」
(厳つい見た目に反して優しい男だな、ガド)
苦虫を噛み潰した様相のガドがぎりりと拳を握るのを流し見、それでも俺の表情が陰ることはない。
ケインという男が頭のおかしい狂人なのも想定内なら、対面することによってロイドが何かしらショックや憤りを覚えるであろうことは想定内。本人が望んだこととはいえ、寧ろその可能性に気づいていながらこの場に同席させたのだ。
そもそもこの件に関わっているのもシェイラと出会ったことが原因であり、逆に出会っていなければあの花の存在をこの国で見つけたとてそのまま放置したに違いない。
他国で起こるこんな些細な陰謀など、元より自分には関係のないことだから。
それに正直、ロイドには少々どころでなく思うところがあったのだ。
俺達が引き合わせたとはいえ、簡単に再会を果たし、優しい娘に簡単に許され。
被害者であるからと堂々とケインを責めるロイドがどうにも気に入らない。
彼は被害者でもありまた、娘を長年苦しめてきた加害者でもあるのだから。
だから、ガドの直截な言い方を嗜め、妻の遺体を回収せんと青褪める彼を気遣う体で送り出しはしても。
心の中では
(もっと自分の無力さに絶望して後悔に苛まれれば良い)
とさえ思うのだ。
しかしこれでも皇帝。
心の内を簡単に外へと露呈させることはすまいと、平然として罪人を見つめていると、当の罪人が顔をルードのほうに向けてこてんと首を傾げた。
まるでたった今存在に気づいたと言わんばかりに、
「お、前は、誰だ…?何故ここに、いる……?」
シェイラがロイド共々帝国に助力を求めたであろうことも予想はついているだろうに今更な質問をするものだ。そう思いつつも軽く笑みを浮かべて答えてやることにしたのは単なる暇つぶしだ。
「お前も察してる通り、帝国の人間だよ。
お前が異物と呼んだ、シェイラが窮地にあるというんでな。助力を申し出たのも俺なら、ロイドを正気に戻したのもここにいる俺の部下の男だ。個人としてはお前の如き頭がおかしいだけの小者、放置しても構わなかったのだが……可愛いシェイラの為だ。
彼女の憂いにも害にもなりそうなゴミは取り除いておくに越したことはないだろう?」
お前だって、邪魔だから排除しようとしたんだろう?
くつくつとおかしげに笑う俺を見て目を見開いたケインは、ニタリと笑う。
「け、結局お前も、あの異物に、毒され、たというわけか……ふ、くくっ。
帝国程のた、大国の人間が、気まぐれを起こすにも、程がある!
あのような忌々しい、異物の……何が、気に入った、のか。気が知れん、な」
「ほう、お前がそれを言うか。
聞けばシェイラは髪色と片目の色以外の外見はロイドの亡き妻に瓜二つとか。
お前の最愛が産んだ、最愛にそっくりの娘だぞ?」
普通気に入りそうなものだが、と返すと、歪な笑いを消して血走った目を見開き憎悪に顔を歪めたケインは突如激昂する。
「ふ、ふ、ふざけたことを、言うな!
女神のよう、に、愛らしい、俺の、エリーをッ!
あんな異物と、一緒にするな!!あんな、生き物ッ!この世に存在している、だけでも吐き気が、する!!」
「…お前のエリー、ねぇ?」
くくく……と思わず笑い声が漏れるが、おかしくて可笑しくて仕方ない。
「くくっ、……あははは!あ、あまり笑わせないでくれよケインとやら!
……女一人、殺して“お人形”にしなきゃ愛を囁く勇気も告白する勇気もなかった臆病者が。
あれだ。
お前、エリーシェが憎かったんだろう?
自分がこんなに好いているのに気づきもせずに他の男と結婚した。
それでも変わらず愛してやったのに他の男との子供を産んだ。
子供は最愛にそっくりなのに、髪と片目に男の色を持っていた。
全部が認め難く、物言わぬ死体になっても納得出来ず。
死体を嬲って自分を納得させていた、違うか?
……でなければここに至って愛している、自分のものだと主張していたそれの存在とありかを憎いはずの男に教えてやるわけがない」
「……違、う……」
「いいや違わんね。
尊厳を奪い、命を奪い、さらには女が本当に愛した男に晒してやっと、溜飲が下がる。
お前はそんな、矮小で、自分勝手で、臆病ななだけの中身のない男、いや屑だ」
「違うっ、黙れ……!俺は!彼女を愛して!!」
「じゃあなんでロイドを殺さなかった」
「あ?え…?」
「だってそうじゃないか。
結婚する前に、あるいは結婚後でも、お前が彼女を殺した後ですら、お前は憎くて仕方なかった奴本人を殺していない。態々ご丁寧にも面倒臭い洗脳という形を取ってまでロイドを殺さず女の死体を嬲っていたんだ。
愛した女はさっさと殺したくせになぁ。
シェイラも、異物と蔑みこの世に存在価値なしとまで宣っているくせに、9年も時間があったはずなのに尚殺していない。
結局のところ、お前はロイドが憎かったんでも、シェイラが忌々しいんじゃない。
自分に振り向きもせず他の男を愛した彼女を、子供まで産んだ彼女こそを憎んでいたんだろう?」
「違、う、…違う!!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッッ!!
俺は!エリーをッ」
「認めろよ、いい加減。
自分が卑怯で、臆病で、死体に粗末なモノを突っ込むことしか出来ない不能だと!
くくっ、きっとそうすれば少なくともこれからの人生楽になれるんじゃないか?」
「~~~煩いッッ煩い煩い煩い煩黙れーーーッッッッ!!!」
(まぁお前に自分の足で歩む人生があればの話だけどな)
「俺も残念だよ。
何せ9年もあの二人を苦しめてきた大悪党、さぞや骨のある奴かと折角手間をかけて追い詰め捕らえた筈の獲物がこんな小者で。
時間の無駄とは正にこのことだな」
「………ぁぁあああああああああああーーーっっ!!」
ー今までの無駄な人生、ご苦労様。
そこまで笑顔で言い切ると、ケインを殺さぬよう尋問官に言い含めてガドを連れて部屋を後にする。
あんな小者、殺す価値すらない。
精々残り少ない人生を獄中で満喫してもらおう、なんなら餞別をくれてやってもいい。
地上への道すがらそう嘯く俺に、それまで沈黙していたガドが口を開いた。
『……ルードよ、ドン引きだ。
よくもまぁ笑顔でペラペラと。正直言ってお前の方がヤバイ奴に見えたぞ』
『藪から棒になんだ。やっと口をきいたと思えばご挨拶な。
俺はただ、あの男に自分が本当はどういう人間かを自覚させてやろうとしただけだろ?
自覚がなければ己の罪に向き合うことも出来んしな…。
寧ろ親切心に溢れたこの上なく優しい男じゃないか』
『いやいやいやいや!!
本当に優しい男ってのは自分で自分のこと優しいなんて言わねぇよ!?
笑顔で語れば優しい!とか頼むからいうなよ!?
…あーホントこんな上司嫌だわぁー精神回復のために有給欲しいわー』
『……………歳、か』
『違ぇーよッッ!!』
嫌そうに顔を顰めて隣で騒ぐガドをそのままに階段を上りながら、やはり餞別は必須だなぁ…と考える。
折角だ、一人では寂しいだろうから二人程同じ部屋に入れてやろう。
きっと仲良く罪と向き合っていくことだろう。
少なくともシェイラのことを異物と連呼した年月分は生きていけるよう、クルゼイにお願いしておかなければ。
自身が歪んでいることに気付いていながら放置し生きる俺と、そんな俺を諦念を含んだ眼差しで見つめ、ため息をつくガルディアス。
暗くて汚くて長くて下らない夜はもうすぐ明ける。
部屋に帰り次第纏わり付く臭いを急ぎ洗い流して仮眠をとる。
そうして朝食の前には、心からの笑顔で彼女を誘いに行くのだ。
まるで心躍らせる子供のように足取り軽く地上へと進む様を見たガドが
“果たして地下の奴らと目の前にいる男のどちらがより狂っているのか”と
密かに鳥肌を立てていたことなど、俺は知らない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※遅くなってすんません!!
ようやっと更新できました:(;゙゚'ω゚'):
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side:ルード
一頻り笑って満足したのか、男は沈黙した。
「……外道が……一丁前に人間の形しやがって……」
(厳つい見た目に反して優しい男だな、ガド)
苦虫を噛み潰した様相のガドがぎりりと拳を握るのを流し見、それでも俺の表情が陰ることはない。
ケインという男が頭のおかしい狂人なのも想定内なら、対面することによってロイドが何かしらショックや憤りを覚えるであろうことは想定内。本人が望んだこととはいえ、寧ろその可能性に気づいていながらこの場に同席させたのだ。
そもそもこの件に関わっているのもシェイラと出会ったことが原因であり、逆に出会っていなければあの花の存在をこの国で見つけたとてそのまま放置したに違いない。
他国で起こるこんな些細な陰謀など、元より自分には関係のないことだから。
それに正直、ロイドには少々どころでなく思うところがあったのだ。
俺達が引き合わせたとはいえ、簡単に再会を果たし、優しい娘に簡単に許され。
被害者であるからと堂々とケインを責めるロイドがどうにも気に入らない。
彼は被害者でもありまた、娘を長年苦しめてきた加害者でもあるのだから。
だから、ガドの直截な言い方を嗜め、妻の遺体を回収せんと青褪める彼を気遣う体で送り出しはしても。
心の中では
(もっと自分の無力さに絶望して後悔に苛まれれば良い)
とさえ思うのだ。
しかしこれでも皇帝。
心の内を簡単に外へと露呈させることはすまいと、平然として罪人を見つめていると、当の罪人が顔をルードのほうに向けてこてんと首を傾げた。
まるでたった今存在に気づいたと言わんばかりに、
「お、前は、誰だ…?何故ここに、いる……?」
シェイラがロイド共々帝国に助力を求めたであろうことも予想はついているだろうに今更な質問をするものだ。そう思いつつも軽く笑みを浮かべて答えてやることにしたのは単なる暇つぶしだ。
「お前も察してる通り、帝国の人間だよ。
お前が異物と呼んだ、シェイラが窮地にあるというんでな。助力を申し出たのも俺なら、ロイドを正気に戻したのもここにいる俺の部下の男だ。個人としてはお前の如き頭がおかしいだけの小者、放置しても構わなかったのだが……可愛いシェイラの為だ。
彼女の憂いにも害にもなりそうなゴミは取り除いておくに越したことはないだろう?」
お前だって、邪魔だから排除しようとしたんだろう?
くつくつとおかしげに笑う俺を見て目を見開いたケインは、ニタリと笑う。
「け、結局お前も、あの異物に、毒され、たというわけか……ふ、くくっ。
帝国程のた、大国の人間が、気まぐれを起こすにも、程がある!
あのような忌々しい、異物の……何が、気に入った、のか。気が知れん、な」
「ほう、お前がそれを言うか。
聞けばシェイラは髪色と片目の色以外の外見はロイドの亡き妻に瓜二つとか。
お前の最愛が産んだ、最愛にそっくりの娘だぞ?」
普通気に入りそうなものだが、と返すと、歪な笑いを消して血走った目を見開き憎悪に顔を歪めたケインは突如激昂する。
「ふ、ふ、ふざけたことを、言うな!
女神のよう、に、愛らしい、俺の、エリーをッ!
あんな異物と、一緒にするな!!あんな、生き物ッ!この世に存在している、だけでも吐き気が、する!!」
「…お前のエリー、ねぇ?」
くくく……と思わず笑い声が漏れるが、おかしくて可笑しくて仕方ない。
「くくっ、……あははは!あ、あまり笑わせないでくれよケインとやら!
……女一人、殺して“お人形”にしなきゃ愛を囁く勇気も告白する勇気もなかった臆病者が。
あれだ。
お前、エリーシェが憎かったんだろう?
自分がこんなに好いているのに気づきもせずに他の男と結婚した。
それでも変わらず愛してやったのに他の男との子供を産んだ。
子供は最愛にそっくりなのに、髪と片目に男の色を持っていた。
全部が認め難く、物言わぬ死体になっても納得出来ず。
死体を嬲って自分を納得させていた、違うか?
……でなければここに至って愛している、自分のものだと主張していたそれの存在とありかを憎いはずの男に教えてやるわけがない」
「……違、う……」
「いいや違わんね。
尊厳を奪い、命を奪い、さらには女が本当に愛した男に晒してやっと、溜飲が下がる。
お前はそんな、矮小で、自分勝手で、臆病ななだけの中身のない男、いや屑だ」
「違うっ、黙れ……!俺は!彼女を愛して!!」
「じゃあなんでロイドを殺さなかった」
「あ?え…?」
「だってそうじゃないか。
結婚する前に、あるいは結婚後でも、お前が彼女を殺した後ですら、お前は憎くて仕方なかった奴本人を殺していない。態々ご丁寧にも面倒臭い洗脳という形を取ってまでロイドを殺さず女の死体を嬲っていたんだ。
愛した女はさっさと殺したくせになぁ。
シェイラも、異物と蔑みこの世に存在価値なしとまで宣っているくせに、9年も時間があったはずなのに尚殺していない。
結局のところ、お前はロイドが憎かったんでも、シェイラが忌々しいんじゃない。
自分に振り向きもせず他の男を愛した彼女を、子供まで産んだ彼女こそを憎んでいたんだろう?」
「違、う、…違う!!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッッ!!
俺は!エリーをッ」
「認めろよ、いい加減。
自分が卑怯で、臆病で、死体に粗末なモノを突っ込むことしか出来ない不能だと!
くくっ、きっとそうすれば少なくともこれからの人生楽になれるんじゃないか?」
「~~~煩いッッ煩い煩い煩い煩黙れーーーッッッッ!!!」
(まぁお前に自分の足で歩む人生があればの話だけどな)
「俺も残念だよ。
何せ9年もあの二人を苦しめてきた大悪党、さぞや骨のある奴かと折角手間をかけて追い詰め捕らえた筈の獲物がこんな小者で。
時間の無駄とは正にこのことだな」
「………ぁぁあああああああああああーーーっっ!!」
ー今までの無駄な人生、ご苦労様。
そこまで笑顔で言い切ると、ケインを殺さぬよう尋問官に言い含めてガドを連れて部屋を後にする。
あんな小者、殺す価値すらない。
精々残り少ない人生を獄中で満喫してもらおう、なんなら餞別をくれてやってもいい。
地上への道すがらそう嘯く俺に、それまで沈黙していたガドが口を開いた。
『……ルードよ、ドン引きだ。
よくもまぁ笑顔でペラペラと。正直言ってお前の方がヤバイ奴に見えたぞ』
『藪から棒になんだ。やっと口をきいたと思えばご挨拶な。
俺はただ、あの男に自分が本当はどういう人間かを自覚させてやろうとしただけだろ?
自覚がなければ己の罪に向き合うことも出来んしな…。
寧ろ親切心に溢れたこの上なく優しい男じゃないか』
『いやいやいやいや!!
本当に優しい男ってのは自分で自分のこと優しいなんて言わねぇよ!?
笑顔で語れば優しい!とか頼むからいうなよ!?
…あーホントこんな上司嫌だわぁー精神回復のために有給欲しいわー』
『……………歳、か』
『違ぇーよッッ!!』
嫌そうに顔を顰めて隣で騒ぐガドをそのままに階段を上りながら、やはり餞別は必須だなぁ…と考える。
折角だ、一人では寂しいだろうから二人程同じ部屋に入れてやろう。
きっと仲良く罪と向き合っていくことだろう。
少なくともシェイラのことを異物と連呼した年月分は生きていけるよう、クルゼイにお願いしておかなければ。
自身が歪んでいることに気付いていながら放置し生きる俺と、そんな俺を諦念を含んだ眼差しで見つめ、ため息をつくガルディアス。
暗くて汚くて長くて下らない夜はもうすぐ明ける。
部屋に帰り次第纏わり付く臭いを急ぎ洗い流して仮眠をとる。
そうして朝食の前には、心からの笑顔で彼女を誘いに行くのだ。
まるで心躍らせる子供のように足取り軽く地上へと進む様を見たガドが
“果たして地下の奴らと目の前にいる男のどちらがより狂っているのか”と
密かに鳥肌を立てていたことなど、俺は知らない。
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