出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

閑話  淑女への道は1日にしてならず?

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ールード政務中・皇帝の居室ー



『シェイラ様!こちらのドレスは如何ですか?
マダムジョレスの最新作ですわ!!
シェイラ様の赤い髪にとても合う色合いで!!』

『あらマリー、それは駄目よ!!
いくらマダムの作品といえどもここはやはりドレスも真紅!!
シェイラ様の美しき御髪を引き立てるのならば
これ一択でしょJK常識的に考えて!』

『甘い……甘すぎるわメリー、マリー。
マリーのドレスは先だっての大夜会時と色合いが被っていますし、
メリーのは露出が多くて刺激的にすぎます!!

…ここは清楚にして品を感じさせるこちらのパステルホワイトの物が一番。
格の違いを他の令嬢方に見せつけろと陛下も仰ったのです、
限りなく白に近い色合い…ブライドカラーで攻めるべきです!!』

『……もう、どれでも』


『『『よくはありませんわシェイラ様!!!』』』


現在ルードは執務中でいないが、
1週間後に開催される交流会で着る衣装などを決める為に女性陣が部屋を占拠していた。
女性陣といって、いるのは侍女三人と普段モリーの部屋に匿われているルミエス様、
そして私である。
いい、とシェイラが言い切る前にすかさず三人が詰め寄ってくる。
相も変わらずこの優秀な侍女達ときたら、
こと美容、ドレスアップ、肌の手入れや化粧に至るまで拘りが強過ぎる。

(マダム・ジョレスって誰。
それにこんなに豪華な物、一杯用意されても着るのは1着なのに……。
そして着るの私なのに……)


これも、今まで見窄らしい身なりに身を窶してきた『出涸らし』の弊害なのか。
いずれの品も高価そうで、
馴染みのない自分には気後れしそうなものばかり。
そして当人そっちのけな猛烈なテンションで自分のドレスを主張する三人に、
私の意見は?と少々拗ね気味のシェイラであった。


ジトッとしたシェイラの視線にめげることも無く、
次々と候補を持ち寄ってはボルテージを上げ続けていく侍女達。
やれ白だ、蒼だ、変化球で深緑だと囃し立てる三人の勢いを削げる気がまるでしない。
逆にこれでは一生決まらないのでは?
そう感じ始めた頃、室内に凛とした声が響いた。


『貴女達……少し落ち着いては如何かしら』


やんわりと、それでいてはっきり騒ぎすぎだと侍女らの暴走に待ったをかけたのは、
ルミエス様だった。
室内の椅子に優雅に腰をかけてことの成り行きを見つめていた彼女が口を開いたことで、
シェイラを含めて全員がバッと彼女の方を見る。

(モリーはともかく)メリーとマリーが恐縮した様子で頭を下げるのを、
鷹揚に頷いて許すと、今度はシェイラをひたと見つめた。


『シェイラ様』

『は、はい』

『シェイラ様も、色々と気が休まらないのは理解出来ますが。
こういったことはいわば淑女の嗜み……義務ですわ』

『義務、ですか……』

『ええ。
特に貴女は陛下のお相手、つまりゆくゆくは帝国の女性の頂点に立たねばならない身。
その女性が、自身の身なりについてなにも頓着しないというのは、
あってはならないのですよ?
彼女達(侍女達)も貴女が何も意見を言わないからこそ、
自身の意見を述べているに過ぎません。
ですから、もしも自分なりに拘ることや要望があるのなら、
迷わず口にするといいですよ。
彼女達は今、貴女の侍女なのですから』


(本当だわ……そういえば私、何も言っていない)

確かにこれでは、彼女達も必死に勧めてくる訳だ。
ルミエス様の言葉でようやく自分が、
ある種の劣等感を自身に抱いていたことに気付いた。

『出涸らし』、『ホウキ頭』、『見窄らしい』
そう言われ続けてきたような人間が、
果たして用意された素晴らしい衣装が似合うのか、そんなはずはない。
そんな風に思っていたからー…。


『これからいくらでも時間はあるのです。
陛下の為にも少しずつ、興味を持ってみては?
淑女レディへの道は1日にしてならず!ですわ』

『そうですわね……。
申し訳ありません、もう少し自分に自信を持ってみようと思いますわ』


元来自分はこんな後ろ向きな人間ではなかったはずなのに。
随分と気が弱くなってしまっていたようだと苦笑いを浮かべたシェイラに、
ルミエス様が小さく頷き、ふわりと微笑んでくれた。


自分のために態々指摘をしてくれた彼女に礼を言おうと口を開きかけたところで、
唐突に両の手をパン!と合わせたルミエス様がにっこりと笑みを深め、言った。


『という訳で。

ドレスはデコルテが広く見えるクリームイエロー。
装飾品は全て銀で統一、使われている宝石は深蒼の物に限定。
髪は編み込みしたハーフアップで靴は低めのヒール。
お化粧は薄め、だけど目尻は黒のラインではなく艶のある赤で縁取ること。
同色の口紅も必須で。

これで決まりですわね!!』


『ー…は?』


うふふっと笑う視線の先にいる彼女は先ほど、
自分の身なりについては自分で意見を述べるようにと言ってなかっただろうか。
つらつらと決定事項であるかのようにシェイラの装いについて語る彼女に、
唖然とした面持ちで口を半開きにしたまま硬直する。


『うふ……うふふふふふ……。
美少女……それは生ける芸術……(部屋に飾りたい)
輝ける至宝……(コレクションしたい)
いや、寧ろ愛でられる為に存在する至高(隅から隅までしたい)!!
そんな垂涎…稀有な人間を目の前にして
着飾らずにいられましょうか!!
私の選んだ装いで交流会に臨むシェイラ様……良い!!』


『ひっ!!』


何やら熱い眼差しでこちらを見つめながら身体をくねらせるルミエス様の常ならぬ様子に、
一歩二歩と後退あとずさる。
と、
一時鳴りを潜めていた侍女達が再び囀り出した。


『なっ!?私達に静かにするよう言っておいてずるいですわルミエス様!!』

『そうですわ!!“決まりね!!”…じゃありませんっ
赤いドレス…これ以外にありません!!』


ルミエス様に詰め寄りキャンキャンと吠える二人の侍女達に、
やれやれ、と如何にも呆れ返った素振りで首を横に振ったモリー。
しかしその眼差しの湛える熱は、
先ほどと変わらず、いやそれ以上に高い。


『全くルミエスときたら、はしゃいでおいでなのかしら?(変態黙ってろ)
メリー、マリー、貴女達も……。
シェイラ様がお困りになっているではありませんか。

ここはそう……
シェイラ様ご本人に決めていただきましょう!!』


ギラリ………!!!×3

『ファッ!??』


肉食獣を彷彿とさせる、獲物を前にして目を光らせた四人が、
一斉にシェイラを見る。
思わず奇声が漏れる。
ちらと視線を横に流せば、自分の側には山と積まれたドレスが。

この膨大な数のドレスを全部、だと………?

…ごくり。


部屋の出入り口……扉の位置を確認してしまったシェイラに、
四人が逃すか!!と襲い掛かった!!


『『『『シェイラ様お覚悟!!!!』』』』


『にゃあああああああああぁぁぁぁ!!』


その日白磁宮の一室、皇帝の居室から、
哀れな女性のか細い悲鳴が上がったが。
助けに入る者は当然、いなかった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※本日1本目!
次回から交流会回に突入しますが、
昼に用事が入った為、夜にある程度まとめて更新をしたいと思います!!
気長にお待ちくださいませ(*'▽'*)

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