出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第24話  交流会⑥〜ヨークデンの娘〜

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パチパチパチパチパチ……




ルードの独り言が響いた後、どこからか拍手の音が。

音の聞こえてきた方角を見やれば、
赤茶の髪をした令嬢がおかしくて仕方がないといった表情で
笑いながらこちらに向かってきていた。


『あっはははは!!
いやぁ、本当愉快な余興を見せてもらいましたわ陛下!
そしてそちらのご令嬢!!』

『『貴女(君)は……』』

『ああ、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません陛下と美しき方。
ヨークデン家の娘、ニーナ・ヨークデンと申しますわ』

『入場早々見苦しいものを見せて悪いな。
ベルナード・イグニス・カロル・カリスティリアだ』

『陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。
…そちらの美しいご令嬢も差し支えなくばお名前をお聞きしても?』


『丁寧なご挨拶ありがとうございます。
トリアドス王国・レイランドルフ伯爵家の娘、
シェイラ・レイランドルフと申しますわ』

『なんと!
かの王国で有名な宰相様の御息女であらせられましたか!
こちらこそご丁寧なご挨拶、痛み入ります。
私は貴族ではないのでどうぞお気軽にニーナ、とお呼びくださいな』

『わかりましたわニーナ。
では私のこともシェイラと呼んでください』

『恐れ多いことではございますが…。
ではお言葉に甘えて、シェイラ様と呼ばせていただきます』


どこか芝居がかった口調で挨拶を済ませた彼女ー…ニーナの
礼を知りながら知性と明るさに富んだ物言いに、
シェイラも知らず自然な笑みを浮かべた。
レイランドルフの名を聞いただけでトリアドスの宰相とすぐに思い至るあたり、
流石は頭が切れると評判の大商人の娘、である。
公私の区別が確りとしてるし、
何よりその愛嬌のあるそばかすの散った顔でにっこり笑まれると
長年友好を築いてきた友人のように錯覚してしまう。
先程退場した二人が酷かっただけに余計……。

変わっているといえばもう一つ。
実は彼女、スカートでなくスラックスを履いているのだ。
上は多少レースや刺繍のきいたドレスシャツを着てはいるものの、
下は黒のスラックス。
髪も後ろで一つに束ねている。
まるで令嬢というより青年のようだ。

そんな感想を抱いたシェイラの考えはどうやら当たっていたようで。

『ふふっ!本当気楽に接してもらえるとありがたいですわ。
…こう言っては陛下に失礼になることを承知で言わせていただければ、
私は今回の選定に全く興味が無いのです』

『あら!』

『ほう?』


シェイラは驚きの声をあげ、ルードが口角を上げた。
わざわざ帰らず選定に留まっておきながら皇帝本人に面と向かって
“貴方に興味がない”と直截に告げるとは、
なんとも思い切りがいいというか、豪胆な娘である。
ニヤリと些か人が悪い笑みでルードが声を掛ける。


『では何故帰らず留まったのだ?
振られた身に是非とも教えて欲しいものだな』

『ははっ!!振られたなどと陛下もお人が悪いこと。
このような美姫を連れてきておいて私のような商人の娘程度が相手になるとでも?
(冗談はその美麗すぎるお顔だけにしてくださいな)
貴方様には既にこちらの美姫がいらっしゃることなど、
そのポケットチーフを見れば誰にでも分かります。
あ、いや失礼(分からない方々もいらっしゃいましたね……)。』

『では何故?』

『んー…あけすけに申してしまいますと所謂顔繋ぎですね。
陛下に拝謁できる機会など滅多に無いことですし、
何せこれでも商人の娘ですから!』

『くく…そうか。
では存分に役目を果たすといい』

『ええ、ええ、しますとも。
尤ももう既に果たしたと言っていい気もしますが。
今日の一番の収穫は
シェイラ様という稀有な美姫とお知り合いになれた事でしょうね!
出来れば友人に加えて頂きたいものです』

『うふふ、私などでよろしければ喜んで』

『なんとなんと!!
いやはや、今日は私の人生において最良の日となりそうですわ!!』



シェイラの色良い返事にパァッと顔を輝かせる彼女の純粋な喜びの表情を目にし、
こんな妹が欲しかったわ……と笑みを深めたのだった。
ルードもそんなシェイラの笑みを目を細めて見つめて笑っている。
側でモリーが“ご馳走様です”と小声で呟いたのは聞こえなかったことにしましょう。
でなければまた、顔に血の気が上がってしまうのだから。


こうしてシェイラは、
交流会が始まって初めての友人を得ることが出来たのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

話の展開的にキリがいいのでここまで。
次回更新は二話とも夜になる予定です!


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