出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第25話  交流会⑦〜異常事態と翠髪の男〜

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暫しの間三人で他愛のない会話をしていると、
ニーナが小声で私とルードに囁いた。


『ところでシェイラ様?』

『はい、なんでしょう?』

『くれぐれも残りのご令嬢方にはお気をつけて』

『残り?……ああ』


ちらとニーナが注意を促した人物達を流し見、ニーナに問う。


『よろしければ何故か、お聞かせいただけます?』

『……私も確証とか無いので話半分に聞いて頂けると嬉しいのですが。
あちらの薄桃色の髪の…。
彼女はウリミナ・ジョルダンといって私と同じく商人の娘なんですが、
いつもなら同年齢の私に必ずといっていいほど突っかかってくるのです。
それなのに今日はなんだか不気味なほど静かで……』


(確かに後宮でも廊下ですれ違っただけで噛み付いてましたわね…)
どうやらシェイラが入場する前から様子がおかしかったらしい。


『もう一人の…確かヴィーダ伯爵家の令嬢となんて全く話していないどころか、
私でさえ後宮で姿を見ていなかったのに…。
今日は何故か二人べったりと一緒で、とにかくおかしいのです!』

『…そんなにおかしいのか?』

『はい…。
特段何かを話している風でもなく。
なのにぴったりと隣に寄り添ったまま揃って会場入りしたりと、
入ってからもずぅっっと一緒なんです。
目つきも何かおかしいですし……。
おかしいでしょう??』

『それは確かに不気味だな……』

『……ええ…』


くっつきすぎて尚且つ無口。
おかしいという他なさそうだ。
それにそれはヴィーダ嬢も同じで何やら二人の様子にとてつもない違和感を覚える。


『あっ』

『『!!』』


三人で注視していることに気づいたのか、
二人がこちらに向かって歩き出した。
そしてやはり同時。
益々もっておかしい。


『…シェイラ』

『ええ…』

『やはり……なにか…』

犬猿の仲といえども心配なのだろう。
微かに眉を寄せて二人を見つめているニーナに、
違和感が増していく。

(場合によっては…)

ルードとの約束。
交流会前、部屋を出る際に会場で万が一にも危険が迫りルードが対処出来ない時は、
迷うことなく魔法を使うことを念押しされていた。
その場合、ルードは私が気づかずの魔法で姿を消して難を逃れると思っているようだが。
実際には違う。

“守り”の魔法、と自身では呼んでいるもの。

元々冷遇され死の危険を感じて編み出したを自身の前に作り出す、
そんな魔法。
ルードにも対処不可能な危険が訪れたときに、
元より自分一人だけ逃げるつもりは毛頭無いのだ。


三人が三人とも最大級の警戒をしながら件の二人が来るのを待っていると。
近づくにつれてが鼻腔をついた。

瞬間ー、脳がぐらりと揺れ、視界がぶれた。

必死で足に力を入れて隣を見れば、ルードとニーナは目が虚になって微動だにしていない。
正気を失っているようにしか見えない二人の様子に焦燥感が募り、
自身も酩酊にも似た視界の歪みにこみ上げてくる吐き気を堪えるので精一杯。

(っこれでは魔法で防ぎようがない!)

それはヴィーダ嬢とジョルダン嬢が近づくにつれてどんどん酷くなっていき……。
もう後数歩の距離までやってきた二人が
同時にニタァ……と不気味な笑みを浮かべたのを視認した瞬間。


りぃぃぃ……ん


【なにをしておる、小娘。しっかりせんか】

鈴の音が耳の中で反響し、
次いでどこか懐かしい声を聞い直後、長い翠髪の男性が揺れる視界に映る。


(……っえ?)


【全く…臭くて敵わん!
兎角人というのはを使いよる……
挙句我が加護を授けし者を害そうなど……許す筈がなかろうて。


ー…ほれ】

パァンッ!!


翠髪の男性が両手を打ち鳴らすと
大きな音となって会場内の空気を振動させた。

【ーーーーー……】

唐突に酩酊感と視界の歪みが消え、すぐ耳許で聞こえた声に慌てて辺りを見渡すと
その声の主である男性の姿はどこにも見当たらずー…


シェイラ以外の全ての人間がフロアの床面に倒れていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※続きます。
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