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第二章 帝国編
第41話 目覚めた場所は………①
しおりを挟む【ーーーー!】
なんだろう……
どこからか声が聞こえる……
遠くからのようで、すぐ側で響いているようにも聞こえる、そんな声がー…
自分を呼んでいるのか、はたまた誰か違う人との話し声なのか。
いまいちはっきりとしないのが無性にもどかしい。
目蓋を開こうとするも中々上手くいかない。
自分は眠っているのだろうか?だとすれば、この声も夢の中のー?
【ーー……ろ、ーーー!ーーーーー!!】
ああ、また聞こえる。
必死さが窺えるその響きにますます目を開けなければ、と重たい目蓋に力を込める。
もしも自分を呼んでいるとしたら、誰だろう?
眠る前は誰といた?
ルード?モリー?ガド様?それともー……
【……ぃい加減起きんかぁぁーッこの寝坊助娘めっ!!】
ズビシ!!!
『!!?』
突如額を襲った鋭い衝撃に、声なき悲鳴を上げながら飛び起きる。
(!!?い、一体何事……っ)
衝撃によりジンジンと痛む額を摩ろうとして、
両手両足が縄で拘束されていることに遅まきながら気付いたシェイラ。
これは一体どういう状況なのかと眠りに落ちる前のことを必死に思い返すと、
そういえば自分はルードの居室で不自然な眠気に襲われて意識を失ったことを思い出す。
先程の額への衝撃なくば上半身すら起こすことも困難だったことに思い至り、
その衝撃を与えた人物を探して辺りを見回せば。
真っ暗な闇の中、何故かくっきりはっきりと見える精霊王・オーギュストの姿が。
呆れ返った表情で腕を組み、完全なる仁王立ちで私を見下ろしている。
【はぁぁぁ~……。やっと起きよったか。
寝坊助にも程があるぞ、シェイラよ】
頭の中に直に響くこえに驚き、パクパクと口を開閉していると、
オーギュストがパチン!と指を鳴らした。
プツッと小さな音を立てて両手両足の縄が切れる。
いとも容易く切れた荒縄を繁々と見つめていると、再び深ーいため息を吐いたオーギュスト。
【斯様に容易く拐かされよってからに……。
あれ程身辺の注意を怠るでないと皆から言われておったのを忘れたか!?】
『……面目次第もございません……』
【しっ!!声に出すでない!
折角我が気を使うて主の頭に直接声を届けておるのに、無頼の輩に気付かれたら大変な目に会うは主ぞ?】
『………』
【話すことを思い浮かべるだけで良い。さすれば会話は成り立つ】
『(これで大丈夫ですか?)』
【うむ。なんだ、やれば出来るではないか。
まぁ我も眠気程度で拐かされようとは思っておらなんだ故に
わざわざ姿を見せんかったのは謝ろう。
とはいえ、これはどうしたものやら……】
『(そういえば……ここはどこなのですか?
何分眠っていた為、居場所に皆目見当もつかないのですが……)』
【ん?ここは主がいたあの宮から少しばかり離れた
この国の貴族屋敷なる場所の地下らしいのう。
例の薄桃髪の娘御が先程この屋敷の主なる男に食ってかかっておったわ】
『(薄桃髪の娘……ジョルダン嬢のことですわね!)』
【小煩く騒ぐ人間の名など一々覚えておらんが、
あの時あの宴会にいた娘御で相違ないぞ?
なんでもあの娘御はこの屋敷の主に言いつけられて人攫いの男と共に主を拐ってきたらしい。
その娘御曰く、
“これで約束は果たした故、主も約束を違うな”だったか…】
『(約束……それに貴族屋敷?商会ではなく?)』
どうやら約束とやらのために私は誘拐され、牢に入れられたらしい。
ここが彼女の実家の商会でないことといい、
例の危険極まる粉薬を所持して会場入りしたことといい、
誰ぞ貴族と手を結び、
バレれば即首が飛ぶ犯罪にまで手を染めても叶えたい何かが彼女にはあるようだ。
『(ここにいるのはその屋敷の主と彼女以外に誰かいましたか?)』
【少し待て…………む、主を拐うのに加担した小汚い輩が2、いや3人程とその主なる男、
娘御とあとは……うん?】
『(?どうし……)』
【面妖な気配の老人がいるのぅ……いやあれは、ほぅ?】
ぼんやりと暗闇を見つめながらブツブツと呟き、
かと思えば興味を惹かれたような声を頭に響かせるオーギュスト。
一体誰が人外である彼の興味を引いているのやら、と少々薄ら寒い心持ちとなりながらも、どうにかしてここを脱出しなければと気合を入れ直す。
『(本当なら彼らの真意を探りたいところですが、
一先ず脱出に専念した方が良さそうですわね)』
【うむ、その方がいいぞ。
今確認してみたのじゃが、少しばかり妙な手合いが紛れているようじゃよ。
奴に目を覚ましていることを知られる前にさっさと……む!?】
急に険しさを帯びたオーギュストの表情に、
あまり歓迎できない何かが起きているのがわかる。
頭の中で、“姿を消せ!!”と言葉短く告げられ、
素早く自身に“気付かず”の魔法をかける。
シェイラが魔法をかけたとほぼ同じくして、
離れた場所で、ぎぃぃぃ……と金属扉が軋みを上げて開いたのが分かった。
おそらくは彼が言っていた人間の誰かが様子を見に、
或いはシェイラの身を害そうとやってきたのだ。
決して声を出すまいと誓って、
シェイラは暗闇をじっと見据えた。
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※明日の更新に続きます
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