159 / 161
第二章 帝国編
第61話 激突②
しおりを挟むシェイラ達人間がそれぞれ決死の避難活動に勤しんでいる同刻。
上空で睨み合っていた二人の人外ー…オーギュストとグラテアは再びジリジリと互いの距離を縮め始めた。
といって、実際に距離を縮めようと積極的に接近を試みているのはグラテアの方であり、対するオーギュストはといえば、距離をあけて自身をその禍々しく変形した手で捕らえて害そうとしてくる奴から逃れつつ、なんとか反撃するタイミングを見計らっていた。
同時にちらりと下の惨状を見やるとグッと奥歯を食いしばり、されども表面上は余裕を崩すことなく再び目前の敵と化したグラテアを睨み付ける。
【愚かな…人間憎しと謳うのもいい加減にせよ愚物が。
奴らを下等生物だと宣うのなら、そして本気で我を害したいのなら奴らなど放って素直に最初から場所を移せば良いものを。】
『くくっはて?下等生物が故にどれだけ巻き込もうと奴らが死のうと構わんのだと先にも伝えたはずじゃが。
存外理解力がないのう森の?
なんなら主がそんなどうでも良きことに一々気を散らせぬよう、先に下の連中を皆殺し、喰ろうてやってもよいのじゃが』
地上で騒ぎ逃げ惑う人間を愉快そうにニヤニヤと眺めながら舌舐めずりをし、距離を詰めようとしてくるグラテア。
オーギュストは再度奴の変形した両腕と凶爪をつぶさに観察する。
伸縮し、うねる腕は柔らかそうに見えて奴本体特有の黒光りする鱗に覆われてとても硬く、その先に伸びた爪は禍々しく紫がかっている様子からもおそらく毒を帯びている。
それも精霊ー…人外であるオーギュストにも有効なほどの、猛毒。
奴は元が大蛇にして毒蛇。加えて見放されたとはいえ神の一柱に生み出された存在。
余程、自身のポテンシャルに自信があるのだろう。
ましてや奴は、未だ本来の姿には戻ってはいない。
要はー…現在の中途半端な変形でも勝利を手にするに易いと言いたいのだろう。
空中にも関わらずジリジリと態とらしくにじり寄る様子は完全にこちらのことを舐め腐っているようで腹が立つことこの上ないが、オーギュストとて伊達に永き年月存在し続けているわけではない。
その程度の挑発で一々激昂する程安い理性は持ち合わせてはいないのだ。
様子見程度に無造作に振られた腕から伸び迫る凶爪を建物内部にいたときとは違い、余裕たっぷりにひらりと躱すとこれでもかと言うほどの嘲りと見下しを含んだ視線で見遣り、一笑してやる。
【ふん、何を偉そうにいうかと思えば。
第一喰ろうてやってもじゃと?単にまたぞろ主の自制の利かぬ腹の虫に耐えられなくなって短気を起こしただけなのじゃないかぇ?
これで我に負けることあらば見事に言い訳が立つのぅ、煩わしい人間共やその建物が邪魔であった故に主は初めから本気を出せなかったんじゃとなぁ】
『ほんに…一々…感に障る物言いをするようになったの貴様ぁ…』
【んん?果てどうしたのじゃ、一人称が崩れておるぞ?我のことを余裕たっぷりに森の~とか呼んでおったくせに貴様呼びとは…やはり図星、言い訳する気満々じゃったのか】
『…もういい。消し炭にしてやる』
そうまで我に勝てる自信がなかったとは!それなら失礼したなと態とらしく笑いまじりに言葉を投げつけると先を倍する殺気を放ち始めるグラテア。
人間語で言えば確か…“ちょろい”、だったか。罵倒や嘲りの言葉に隠された何処までも安すぎる挑発に簡単に乗せられ激する駄蛇の化身に本気で呆れてしまう。その証拠に、本来の足ー…黒い鱗に覆われた尾が生え伸びてきているのを奴自身はおそらく自覚していない。
自覚はしていない、が。奴の攻撃手段が一つ加わったのは確かなわけで。
おそらく短期戦は望み薄であろうな、と内心で苦笑をこぼす。
(ほんに昔から変わらず、短気極まるのうグラテアよ。まぁそこが付け込む隙でもあるのじゃが…。さて)
遠見でシェイラらの無事と建物内から脱出を果たしつつあることを確認し、無事を安堵しつつもそろそろもこちらから攻勢に転じるかと、派手に光と暴風を放ち纏いながら空中に広範囲の結界を展開しつつ、それに紛れて今回の事態を収拾するための取っておきの切り札を切った。
(今まで惰眠を貪るか人間を甚振り殺すことしかしてこんかった愚物が…軽々に我を害せるなどと。
舐めたことをとくと後悔させてやろうぞ!!)
そもそもがオーギュスト自身、いくらシェイラの母の魂修復に力を割いているとはいえ、あんな人間の建てた建物内部でなくば早々後手に回ることはない。
【ふむ、これで邪魔も入らんじゃろうて…さて。
下で好き勝手にしてくれた礼じゃ。
今度は、我からいかせてもらうー…簡単に滅せられてくれるなよグラテア?】
『ほざくなぁぁぁあああああああッッッ!!!』
(あれが向こうに届くまでは…
もう暫しの間、時間稼ぎに付き合ってもらうぞグラテア!!)
鞭のようにしなり伸び迫るグラテアの凶爪と、オーギュストが瞬く間に現出させた無数の風槍が、結界の張られた白磁宮上空で激突した。
……………………………………………………………………………………
※次回、『違和感の正体』
お楽しみに~!!
12
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー
「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」
微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。
正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる