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出会い〜ツガイ編
19話 ジレウス視点
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夕食からの帰り道ーー
お腹が満たされて少しうとうとと船を漕ぎだしたコーキを抱えて家路に着く。
今日は色々と疲れたのだろうと、出来るだけゆったりとしたペースで歩いていると、
コーキがポツリとありがとう、と俺に告げた。
「楽しめたなら良かった。
ボリュームもそうだが結構なモンだったろ?」
「ん。でも、料理より…お店、雰囲気が優しい……好き」
「……そうか」
どこかふわふわとした様子でそう呟く少年にどきりとして、
少しばかりそっけない返事を返してしまった。
料理より何より、店の優しい雰囲気が好きだと言うコーキ。
冒険者時代から元々知り合いな夫妻が切り盛りするあの店を気に入ってくれたことは素直に嬉しいが、それでも彼の言の裏に見え隠れする僅かな影が、ひどく胸を騒がせる。
あんな些細な優しさや温もりを、彼は全く知らないのか、と。
(ーー明日こそ、少しコーキのことを聞いてみるか)
本当は種族検査の折に彼自身のことを聞いてみるつもりだった。
何故泉に裸でいたのか
何故これほど人の情に不慣れなのか
何故ー…あれほど夢の中で怯え、凍えていたのか
しかし検査の小さな針に怯えるという予想外の出来事に、
そして明らかに精神的に疲労を滲ませていたのを見るに、結局聞けなかった。
(いや、違うな。
俺は……怖いんだ)
もしも突っ込んだことを聞いて、今更ながら彼に拒絶されるのが。
万一素直に語ってもらえても、語られる事情に、彼が深く傷付くのが。
しかし、自分は知らなければならない。
何せこれで彼の種族が単なる華族ではなく、
その中でも更に希少な神華族であることが判明したから。
彼は気付いてはいなかったようだが、検査用紙には種族名の他、
個人の状態・特殊スキル・称号も記載されていた。
そこにはーー
名前:コーキ・ヴォーグ
年齢:15
種族:神華族
状態:健康(精神疲労:中)
ユニークスキル:癒しの手 甘露 自己犠牲
称号:無念なる転生人 慈母神の加護
と、問題だらけの内容のオンパレードであった。
簡易な検査用紙だったためにスキル・称号の詳細は記載されていなかったが、
それでも神の加護がつくことは非常に珍しく、それによって派生したユニークスキルの及ぼす効果は絶大とされている。
“癒しの手”とやらは回復系と予想できるがそれ以外はやばい。
特に自己犠牲と称号“無念なる転生人”
受付で追加登録を済ませた際、種族名のみ受付に見せ、
それ以外は本人の了承なしに公開せずと記載情報を紙ごとその場で焼却処分したのは正解だった。
内容を見せることなくの処分に驚きの表情を浮かべていた受付員を、
しかし知ったことかと無視をした。
いくら情報報告義務があるといっても、これは駄目だ。
(これほどギルドマスター代理の立場を有り難く思ったのは初めて、だな)
ただでさえ種族を報告しなければならないのだ、
当然国の上層部があれを目にすれば希少種族の彼に興味を示す。
ギルド職員といえど人間。
中には金に転ぶ口が羽より軽い愚かな者もいる。
そしてスキルや称号が上層部の貴族・王族らに知られたらーー
十中八九拉致・監禁、囲い込まれていいように使われる未来しかみえない。
昨日の冒険者登録時に自分の籍に彼を入れておいて本当によかった。
冒険者は旅人としての扱い故に、そういった手続きを全てギルド内で手続きすることができる。
わざわざ教会や国へも報告する必要性はないのだ。
彼の名前の記載に自分の家名がついているのが、無事手続きが完了していたその証。
勝手に籍入れを済ませたことに彼がもし怒ってもそれはそれ、
ひたすら頭を下げる心積りだ。
そうでもしなければ、彼の身に何かが起きた時、彼を守る大義名分が俺にはないのだ。
他人のままでは、
ただの保護者では彼を守れない。
それ故の要保護、をすっ飛ばしての籍入れだ。
(15歳は成人……彼が成人していたことには驚いたが、好都合だった)
15歳未満を籍入れした場合は親と子の扱い
15歳以上を籍入れした場合はー、配偶者…所謂夫婦として扱われる。
あとはコーキ自身にどう説明して納得を得るかが問題だが…
(絶対に守ってやる……コーキ)
「…ジレウス?」
「気にするな、我慢せず寝ていろ」
自分を全開で慕ってくれる腕の中の存在をギュッと抱え直し、
俺は新たなる決意の火を胸中で燃やした。
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