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出会い〜ツガイ編
20話
しおりを挟む楽しい夕食を外で楽しんでから数日。
ギルドマスターの代理をしているらしいジレウスはとても多忙だ。
幼く見える僕を一人で家に置いておけないと、
一緒にギルド長室に連れて行っては僕を足の間に座らせてぴったりと寄り添うように仕事に励んでいた。
いずれ時間が空いたら一緒に簡単な採取依頼を受けて付き添ってくれるという彼に、そこまでしてもらってはとらしくもなく遠慮をしてみたものの。
では早速付き添ってくれる冒険者を見繕いましょう!
と勢いこむうさ耳さ…ミルドさんを殺気たっぷりに一撃でぶっ飛ばし、
今まで一度として彼と離れて行動していない。
それでも彼と一緒にいる方が嬉しい僕としてはなんの問題もないのだけれど…
最近家に帰ると、ジレウスがなんだか物言いたげに僕を見つめていることがある。
何か?と僕が見つめると、すぐ“なんでもない”という彼だが、
明らかに何かを誤魔化しているのがとても気になる。
それと同時に段々と彼の顔に陰りが生まれてきていることに気付き、
心臓が嫌な音を立てる。
(僕は何かしてしまったのだろうか……)
優しく僕を受け入れて暮れた彼。
その彼の迷惑になること、また、彼に疎まれることだけは耐えられそうにない。
その後数日間が無為に経過する中全く心中を明かしてくれる気配はなく、
とうとう耐えられなくなった僕は、直接彼に聞いてみることにしたのだったーー
※ ※ ※
就寝前ーー
「あ、あの。ジレウス」
「ん、おう、どうしたコーキ」
「……」
隣の部屋は僕用にすっかり片付けられベッドも置かれた。
ここに来て3日目以降、僕は彼と別の部屋で寝ていたのだが、
意を決して今日は彼の寝室を訪ねた。
訪ねたのはいいのだが…中々言葉が出てこない。
(ここに来て2週間ほど…もう大分言葉もスムーズに出るようになったはずなのに)
もごもごと口籠っていると、
そんな僕をじ……と静かな眼差しでジレウスが見つめていた。
そして一言悪い、と呟く。
「え」
「俺の煮え切らん態度にお前が不安を感じていたのは気付いてたんだ。
ただ俺も、その、なんだ。
上手く聞けなくてな…。お前の種族名を登録したあの日から、
明日聞こう、いやその次の日にと無為に引き伸ばしてしまった俺が全部悪い。
ーーだからコーキ、改めてお前に聞きたいことがある。
といって、それを聞いて俺がどうこう態度を変えることはないと約束しよう」
お前のことを、聞かせてくれるか
(あ……)
彼はずっと、僕のことを聞きたかったのだ。
種族が知れ、それでも変わらず接し続けてくれた。
しかし、発見された時既に幼いながらも育った姿、
にも関わらず家族も周囲になく一人全裸でいた子供など種族がわかったとて得体が知れないのは当然。
そして何より、僕は僕自身のことを全く彼に教えていない。
名前以外、年齢さえーー
一方僕の方はといえば、彼の名前、役職、そして家まで知っている。
これではジレウスが不安になるのも当然だ。
(そう、不安。彼もまた僕と一緒で不安だったんだ)
あの泉のほとりで目を覚ましてから知り得ることも勿論なく、
語れるのは精々前世の、虹季として生きた頃の話だけ。
前世において僕はそう長く生きたわけでもなければ、
語れることもそう多くないどころかあまり気分がよろしくないことばかり。
それでもーー
コクリと唾を呑み込み、彼の静かな眼差しの前で、
ゆっくりと口を開いた。
※ ※ ※
泉のほとりで目を覚ます前、自分が異なる世界で生を終えただろうこと
華から全裸で出てきた時に確認した自分が、
以前の世界での最後の姿・年齢ともに色以外一致しているだろうこと
前世で自分が死んだ時、
ちゃんと両親がいて彼らに命名された名が虹季であること
ーー彼らが自分の生を常々疎ましく思っていたこと
ぽつぽつ、順序立てて話すこともできない自分を恥じる余裕もなく、
呟くように語る僕の言葉を、真剣に聞いてくれるジレウス。
優しい彼の前で、両親に虐待・放置された末に死んだとは口が裂けても言えないと思った。
言えばきっと彼は、
僕を哀れみ、悲しみ、僕の為に怒ってくれるだろうから。
でもなんとか言葉を吐き出し終える頃、
彼がふと僕の頬を大きな手で包み、目元を親指で擦った。
「え…はれ…?」
何度も彼の指が動く度に感じる水気ーー僕は、泣いていた。
「は、はは…な、何だろ、これ」
「……コーキ」
「違うよ?別に僕、悲しくなんて、な」
「コーキ。
……コーキ、無理しなくていい。
我慢もするな、悲しい時は思いっきり泣けばいい」
ここにはお前が泣いても文句を言う奴なんていない
だからーー泣け
「…っ、ぇ、ぁ…ふぇ…ぁあああぁあぁあああ……!!」
命令するような、力強い彼の言葉に、
僕は思った以上に自分が我慢していたことを初めて知った。
その我慢がとっくに限界を迎えていたことも。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃに顔を汚しながら泣き続ける僕を、
彼はただただぎゅっと抱きしめて背中を撫で続けてくれた。
一晩中泣きに泣いて、朝方僕はようやく意識を手放した。
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※コーキ少年、号泣す!
ちょっと切ない話でした。
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