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出会い〜ツガイ編
閑話 若手冒険者視点
しおりを挟む(Side:蜥蜴族・エルドの後悔と安堵)
(くそ……!こんなことになるんならあの時引き返していれば!!)
冒険者として活動するようになって約半年。
俺と同じく田舎から出てきた気の合う連中とパーティーを組み、
ランクも最下級のFランクからDランクへとあっという間に上がった。
仕事の仕方もそれなりにこなれてきたし順調な滑り出しだった。
だから俺も、パーティーメンバーの奴らも正直、
ちょっと調子に乗っていたのかもしれない。
でなければ。
半年前の俺達であれば、中堅~ベテラン(高ランク)冒険者の探索が推奨されている森の奥へ、軽々に足を踏み入れようなどとは思わなかっただろう。
この日、俺たちはどうしようもなく苛立っていた。
前日にパーティーメンバーで盾役のヨンギと唯一の女性である弓術使いのリマシーが密かに付き合っていたことが発覚したことも当然あったが、それ以上に受けた依頼の討伐対象であるクリスタルホーンラビットが1匹も見つけられずに無為に時間を過ごしたことが1番みんなの苛立ちを増長させていた。
しかも更に悪いことに、みんなを宥め先に立つべきリーダーの自分が1番苛立ちを露わにしていた。
「……もう少し奥に行ってみねぇか」
危険度のさほど高くも無い、
小遣い稼ぎが目的で受けた仕事をしくじりたくない。
そんな下らない、チンケなプライドの為だけにそんな提案をし、
皆もそれに一も二もなく頷いた。
その結果ーー
木々が密集する身動きが取り辛い場所で、
Cランク魔物・ポイズンウルフ3体と遭遇してしまった。
Cランク魔物は単体でも厄介な相手。
しかもその名の通りに毒を持っており、
爪や鋭い歯で負傷したならそれなりに高価なポーションを過分に必要とするのだ。
それが3体も同時に出現したことで慌てながら
なんとか戦いやすい開けた土地へと必死で移動したものの……
その場所に俺達を追い込むことこそが奴らの狙いであったことが、
そこで待ち構えていた一際大きなキング種の存在で明らかになった。
リマシーの弓術による遠距離攻撃も全く歯が立たず、
素早さと予想以上に強かった奴らの膂力に力負けし…。
盾役のヨンギは、素早く接近したウルフから強襲されたリマシーを庇ってその凶爪に倒れた。
恋人が倒れて取り乱すばかりのリマシーも、
体当たりや受けた細かな傷から毒が回り始め、最早誰が1番先に奴らの腹の足しになるのか、そんな考えばかりが身を焦がす。
「くそ……!」
なんとかして仲間たちだけでもこの場から逃さねば。
必死に思考を巡らせる俺の視界の端で、
森族のトウリが1体の体当たりを受け流しきれずによろめいた!
その隙を逃さず彼へと殺到する奴ら。
俺の場所からは、到底間に合わない!!
(っ誰か……!!)
助けてくれるなら悪魔でもなんでもいい!
そう心で叫びながら彼に駆け寄ろうとしーーすぐ隣を、突風が駆け抜けた。
「「ギャウッッ」」
「…え」
一瞬後視界には真っ二つに裂かれて宙を舞うウルフ3体の死体と、
倒れかけた仲間の前で大柄な男が、大剣を振り抜いた姿勢で立っていた。
「おい坊主共、生きてるか」
突然割って入ってきた獅子族特有の耳を持つその男の、
ニヤリと口角を上げた表情と堂々とした佇まいを目にした俺は。
“俺たちは 助かったんだ”
そんな確信が込み上げ、
全身の力が抜け落ちるような安堵感に包まれたのだったーー
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