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7:番という半身
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早いもので、ジルクバル・ロウガル様ー…ジル様に命を救われて凡そひと月の時が過ぎた。
あれから筆談で様々なことを話した。
ここが獣人主体の国家、ビルスト国であること。
自身が彼の休憩していた孤島へと流れ着き、救われたこと。
海中で溺れていた際、私の手足には魔封じ呪い付きの枷が付いていて、それをロウガル家家令・ルフ様の解呪魔法とジル様の治癒魔法で一命を取り留めたこと。
ロウガル家が所謂公爵家にあたる名家であり、
ジル様がこの国の将軍であられること。
聞けば聞くほどに、今やただの平民(しかも罪人)である私とは縁遠い身分の方々である。
声は未だ戻らず、しかし自分のような得体の知れない者をそばに置くべきではと忠告しても、あっさりと受け流され当初は少々困惑した。
どうして身元不明な小娘(といっても19歳だが)にこんなに良くしてくれるのだろうか?
静養と称して居座り続けるお荷物を、仮にも高位貴族たる公爵家が何故??
日数が経つほどに罪悪感が増していった。
だがそこで、ルフ様の細君にしてロウガル家メイド長、ララ様から思いもよらない言葉が飛び出したのだった。
===
(※『』内は筆談で会話しております)
『“番”ですか?』
「はいな。お嬢様は人間であられるからあまり理解が及ばないかも知れないわねぇ。
獣人というのはそれぞれに番という、自身の半身にも等しい運命の相手がいますのさ!」
『えっと、番については何となく存じておりますが…
私と何か関係が……?』
「ん?んん!?
な、もしかして若様からまだ何もお聞きでないのかい?!」
『え、ええ』
「……全く先代様といい若様といい!
どーしてこの家の男性はものぐ…奥手なんだい!!
私の旦那様を見習って欲しいものさね!」
ええと、つまり?
「ああ、すまないね?
お嬢様はね、若様ーー…ジルクバル様の“番”なのさね!」
『ええ!?』
番ーー
獣人にとって魂の半身の総称。
その存在を前にしては他の異性は目に移らず、出会うことさえできれば生涯互いを愛し抜くと言われている運命の伴侶。
人間の間では呪いのようだと言われたりしていたけれど、
少なくとも私はとても素敵だと思っていた。
決して自分を裏切ることのない、運命の相手。
そんな人に出会い、愛しあえたならどんなに幸せなことだろうかと。
(ジ、ジル様の番が……私!?)
信じられない、と驚きつつも、心のどこかでああそうなのかと納得してしまっている自分がいる。
目を丸くする私をうふふと微笑ましげに見つめつつ、ララ様の言葉は続く。
「ジルクバル様はねぇ、ずっとずぅっと待っていたんだよ番が現れるのを。
そうそう見つかるものじゃないからね、番というのは。
最近では多くの獣人が番を最初から諦めて身近な獣人や人間と同じように家同士のつながり政略結婚するのもざら。
ジルクバル様もねぇ、もう29歳だし、将軍様なんて大層な役職と公爵家ってことで周りからそれはもう早く結婚しろとせっつかれ続けてたのさ。
それでも……10歳の頃に占術師に言われた番との出会い場所を頑なに信じて通い続けていたのさ!
そうしたらほら!!本当にお嬢様と出会い、見事連れ帰ってきたじゃないさね!!」
(ジル様、29歳なんですね…知らなかった)
元婚約者が2歳年上だったことを考えれば結構な年の差だが、
不思議と何の抵抗もない。
それどころか……
がっしりとした大きくも逞しい身体は自分をすっぽりと包み込んでくれそうで。
獣人の特徴であるあの耳や尻尾も綺麗な毛並みで触り心地が良さそうだし。
凛々しい眉や厚い唇、
蒼く澄んだ瞳や低くハキハキとした声すら甘く、男の色気を感じさせ……
(て、一体私は何を考えているのかしら!?)
知り合ってほんのひと月だというのに、番だと聞いた途端にこんなはしたないことを考えるなんてとワタワタ慌てる私の隣でほっと安堵したようにララ様がため息を吐いた。
「どうやらお嬢様も満更でなさそうで良かったよ。
人間には番であるとかあまり関係ないと聞いていたからね、もしかしてジルクバル様が振られ…いやいや余計なことは言うもんじゃあないねぇ!
まぁそんなわけで周りからも番狂いだとか堅物だとかと揶揄われ続けても耐えてきたジルクバル様にようやくきた春なんだ、そりゃあいつまででも居てくれ。
寧ろ一生一緒にこのお屋敷に!!って私らも歓迎一択さね!!
だから……安心おしよお嬢様。
役に立つとか立たないとかそんなことは考えなくていい、
ただジルクバル様と真摯に向き合ってくれさえすれば、それ以外は皆望むべくもないんだよ?」
『はい』
「ん。いい返事さね!そんじゃあまぁ……
帰ってきたのにそんなところでうじうじと聞き耳立ててる情けない若様のお相手でもしててもらおうかねぇ?」
ーー…え?
徐にベッド側から立ち上がったララ様が素早く入り口に移動してドアを引くと……
(あ)
「あ」
呆然と立ちすくむジル様とぴったり目が合った。
あれから筆談で様々なことを話した。
ここが獣人主体の国家、ビルスト国であること。
自身が彼の休憩していた孤島へと流れ着き、救われたこと。
海中で溺れていた際、私の手足には魔封じ呪い付きの枷が付いていて、それをロウガル家家令・ルフ様の解呪魔法とジル様の治癒魔法で一命を取り留めたこと。
ロウガル家が所謂公爵家にあたる名家であり、
ジル様がこの国の将軍であられること。
聞けば聞くほどに、今やただの平民(しかも罪人)である私とは縁遠い身分の方々である。
声は未だ戻らず、しかし自分のような得体の知れない者をそばに置くべきではと忠告しても、あっさりと受け流され当初は少々困惑した。
どうして身元不明な小娘(といっても19歳だが)にこんなに良くしてくれるのだろうか?
静養と称して居座り続けるお荷物を、仮にも高位貴族たる公爵家が何故??
日数が経つほどに罪悪感が増していった。
だがそこで、ルフ様の細君にしてロウガル家メイド長、ララ様から思いもよらない言葉が飛び出したのだった。
===
(※『』内は筆談で会話しております)
『“番”ですか?』
「はいな。お嬢様は人間であられるからあまり理解が及ばないかも知れないわねぇ。
獣人というのはそれぞれに番という、自身の半身にも等しい運命の相手がいますのさ!」
『えっと、番については何となく存じておりますが…
私と何か関係が……?』
「ん?んん!?
な、もしかして若様からまだ何もお聞きでないのかい?!」
『え、ええ』
「……全く先代様といい若様といい!
どーしてこの家の男性はものぐ…奥手なんだい!!
私の旦那様を見習って欲しいものさね!」
ええと、つまり?
「ああ、すまないね?
お嬢様はね、若様ーー…ジルクバル様の“番”なのさね!」
『ええ!?』
番ーー
獣人にとって魂の半身の総称。
その存在を前にしては他の異性は目に移らず、出会うことさえできれば生涯互いを愛し抜くと言われている運命の伴侶。
人間の間では呪いのようだと言われたりしていたけれど、
少なくとも私はとても素敵だと思っていた。
決して自分を裏切ることのない、運命の相手。
そんな人に出会い、愛しあえたならどんなに幸せなことだろうかと。
(ジ、ジル様の番が……私!?)
信じられない、と驚きつつも、心のどこかでああそうなのかと納得してしまっている自分がいる。
目を丸くする私をうふふと微笑ましげに見つめつつ、ララ様の言葉は続く。
「ジルクバル様はねぇ、ずっとずぅっと待っていたんだよ番が現れるのを。
そうそう見つかるものじゃないからね、番というのは。
最近では多くの獣人が番を最初から諦めて身近な獣人や人間と同じように家同士のつながり政略結婚するのもざら。
ジルクバル様もねぇ、もう29歳だし、将軍様なんて大層な役職と公爵家ってことで周りからそれはもう早く結婚しろとせっつかれ続けてたのさ。
それでも……10歳の頃に占術師に言われた番との出会い場所を頑なに信じて通い続けていたのさ!
そうしたらほら!!本当にお嬢様と出会い、見事連れ帰ってきたじゃないさね!!」
(ジル様、29歳なんですね…知らなかった)
元婚約者が2歳年上だったことを考えれば結構な年の差だが、
不思議と何の抵抗もない。
それどころか……
がっしりとした大きくも逞しい身体は自分をすっぽりと包み込んでくれそうで。
獣人の特徴であるあの耳や尻尾も綺麗な毛並みで触り心地が良さそうだし。
凛々しい眉や厚い唇、
蒼く澄んだ瞳や低くハキハキとした声すら甘く、男の色気を感じさせ……
(て、一体私は何を考えているのかしら!?)
知り合ってほんのひと月だというのに、番だと聞いた途端にこんなはしたないことを考えるなんてとワタワタ慌てる私の隣でほっと安堵したようにララ様がため息を吐いた。
「どうやらお嬢様も満更でなさそうで良かったよ。
人間には番であるとかあまり関係ないと聞いていたからね、もしかしてジルクバル様が振られ…いやいや余計なことは言うもんじゃあないねぇ!
まぁそんなわけで周りからも番狂いだとか堅物だとかと揶揄われ続けても耐えてきたジルクバル様にようやくきた春なんだ、そりゃあいつまででも居てくれ。
寧ろ一生一緒にこのお屋敷に!!って私らも歓迎一択さね!!
だから……安心おしよお嬢様。
役に立つとか立たないとかそんなことは考えなくていい、
ただジルクバル様と真摯に向き合ってくれさえすれば、それ以外は皆望むべくもないんだよ?」
『はい』
「ん。いい返事さね!そんじゃあまぁ……
帰ってきたのにそんなところでうじうじと聞き耳立ててる情けない若様のお相手でもしててもらおうかねぇ?」
ーー…え?
徐にベッド側から立ち上がったララ様が素早く入り口に移動してドアを引くと……
(あ)
「あ」
呆然と立ちすくむジル様とぴったり目が合った。
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