閣下は罪人と結ばれる

帆田 久

文字の大きさ
10 / 27

9:暴かれる真実と真の罪人(上)

しおりを挟む


ミルドルア王国




王太子と侯爵家令嬢の成婚式が1週間後に差し迫ったこの日ーー


王城では各貴族家の当主らが謁見の間へと集結していた。


『本日はいったい何の招集なのですかな?』

『御成婚間近だというのに、当の殿下と国王陛下直々に重大発表とは…』


各家がいったい何事かと騒つく中、王太子と守護に当たっている騎士団長、陛下と王妃が順に入場して壇上の席へと着く。

騒つく周囲が鎮まったのを見計らい、
王太子・アドゥルフが声を張り上げる。


「皆の者、慶事を前に多忙の中、よくぞ集まってくれた。
陛下共々感謝する」

彼の言にすかさず宰相が前に出る。


「此度、皆が集められたのは。
間も無く訪れる予定であった慶事に重大なる問題が発覚したため!」

ザワッ!

慶事に問題?
重大なる?
王太子殿下の成婚が!?


「どういうことなのですか陛下!アドゥルフ!?
私は何も聞いておりませんよ!、」

「王妃様の仰る通りだ!
慶事に重大なる問題?まるで我が侯爵家に何か問題があると言っているようではないか!!」


宰相の言葉に、国王の隣に着席していた王妃、そして高位貴族の列にて並んでいたエヴリン侯爵が不快げに声を張り上げた。
が、宰相が動揺することも、己の言を謝罪することはなかった。


「そう言っているのだが?エヴリン侯爵」

「なっ!!」

「控えなさい宰相!
間も無くアドゥルフと成婚予定の侯爵家をよりにもよって国に仕える貴方が誹謗するとはいったいどういうつも」

「王妃よ、少し黙っていなさい」

「っ陛下!?」

「黙れ、と。三度は言わせるな」

「………」

いつになく強い口調で騒ぐ王妃を黙らせた国王の尋常ならざる怒気に、
謁見の間が静まり返る。

「宰相、続けよ」

「はっ」


「問題というのはいうに及ばず、エヴリン侯爵並びにその
凡そひと月前、間も無く王太子妃となることを約束されていた令嬢にとある方法を使いありもしない罪を着せ!
罪人として投獄したのち断罪、更には自身の娘を易々とその令嬢の後釜に据えんと画策した張本人であることが発覚した!!」

『『『『!!!!!』』』』

「ふっ、ふざけ」

「勿論ふざけてなどいないし、純然たる真実である!
証人をここへ!!」

「!?」

声と同時、入場してきた痩せこけた小汚い男に。
他ならぬ侯爵は顔を青褪めさせた。

「男。我らに語ったこと、一言一句違えずこの場で語れ」

「はい、宰相様。
…私は元は商人をしておりましたが、商売が上手くいかずに借金に苦しんでいたところ、エヴリン侯爵様に仕事を頼まれました。
唯一の取り柄であった豊富な魔力を使い、先だって行われた王妃様の生誕祝賀会にて魔法を使って欲しい、と。
侯爵様は私に
“何、ほんの余興だ。王妃様もきっと御喜びになられる”とそう言い、
私めに見知らぬ詠唱の書かれた紙を渡しました」

「だ、黙れ貴様ぁ!!」

「ひっ!」

「騎士達は侯爵を黙らせろ。
ーー…続きを」

「は、はい。
私は侯爵の言葉でそれが何かの余興となる魔法なのだろうと理解し、
また、それを終えれば借金を肩代わりしてくださるとの言葉を信じて、侯爵様の計らいの元に会場へと入り、言われた時間に詠唱を致しました。
するとごっそりと魔力を失いよろめいた次の瞬間、

“王太子殿下のワイングラスに、婚約者であるアデライド伯爵令嬢が毒を入れた!”と突然叫んだのです!!」

「黙れぇぇぇぇ………!!」

「私は、侯爵様はいったい何を言っているのだろう?と思いました。
だってその婚約者のご令嬢はその時、ワイングラスからも殿下からも離れたところにいたからです。
そもそもグラスに触ってすらおりませんでした。
だというのに、侯爵の言葉が会場に反響した途端!私の身体から更に魔力が抜け!
国王陛下はおろか会場中の人間が侯爵様が叫んだ通りにご令嬢が毒を盛って王太子殿下を、さ、殺害しようとしたと怒りだし…彼女はその場で罪人として連れて行かれてしまいました。

その様子を侯爵様とも、もうお一人が酷く満足げに笑って眺めているのを目にし。
もしや私が詠唱したのは危険な魔法だったのかとっ、そうであれば殺されてしまうかも知れないと恐ろしくなり!
殿下方に保護して頂くまで逃げ回っておりました!!」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました

ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。 ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。 それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の 始まりでしかなかった。

代理で子を産む彼女の願いごと

しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。 この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。 初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。 翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。 クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。 フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。 願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。 だけど今回は無理だった。 突然の婚約。 え?なんで?嫌だよ。 幼馴染のリヴィ・アルゼン。 ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの? 好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。 なのに気がつけば結婚させられて…… 意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。 戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。 なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて…… 「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。 リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど…… ◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。 申し訳ありません。

処理中です...