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10:暴かれる真実と真の罪人(下)
しおりを挟む「世迷いごとだ!作り話だ!!」
男の言葉を、拘束されながらも必死になって否定する侯爵。
が、悲しいかな、否定すれば否定するほど彼自身の正当性が薄れていく。
汚い唾を飛ばしながら喚く侯爵を丸っと無視して、宰相が問う。
「男。その頼まれた詠唱とやらが書かれた紙を今持っているか」
「は、はい!
何かあったときのためにと侯爵様自らのサインも頂いたものです!
あとは何やら見慣れぬ印が押印されています」
「こちらに」
男が懐から取り出した紙を受け取った宰相が、内容を確認した後に国王へとそれを恭しく手渡す。
国王はそれを確認し……
凄まじい怒気が会場内を覆い尽くした!
「…成程確かに。
確かに、間違いようもなく、侯爵本人が書いたサイン。
そしてこの詠唱と押印。
ようも我を、国中の貴族を、この魔法の餌食にしたものよ。
なぁー…エヴリンよ」
「ひぃぃッッ!!」
「皆の者!確たる証拠を国王たる我はこの目で確認した!!
無実の令嬢を断罪して死に追いやった罪、極刑に値する!
侯爵は直ちに投獄、騎士団長!」
「はっ」
「すぐに騎士らを率いて侯爵家へと向かい、一家を悉く拘束せよ!
勿論騎士団に所属している侯爵家の次男もだ!」
「直ちに!」
「へ、陛下!これは何かの間違い、間違いなのですっ!陛下ァァァァァ…!!」
騎士らに拘束され、ずるずると引き摺られて退場していく侯爵。
命を受けて同じく退場していく騎士団長。
残されたのは、未だ怒気を漲らせた国王と宰相、各貴族家当主と…青褪めた王妃。
「侯爵は事もあろうに協力者を通して王城より厳重に封されたはずの禁呪の詠唱を盗み出し、そこな男に何も知らせず詠唱させた。
我を含めた会場内の人間を禁呪の力により、そして己の言葉を呪の起点として洗脳した。
そのために無実なる1人の令嬢が命を落とし、彼女の家も潰えた。
洗脳されていたとはいえ我も含めてこの場全ての人間が罪人である。
が、消えた命が戻ることはなく、
国を支え導く我ら全てが罪に処されれば国は終わる。
故に洗脳されていた者の罪は問わぬ。
しかしーー。
ここに書かれた押印が示す協力者とそれに追従して行動を起こした者は…断じて許さぬ。
我を、皆を、国すらも謀り、
我が後継の妃となるはずだった聡明なる者の命を散らせたこと万死に値する!
ゆめゆめ逃れられると思うな」
いうや、青を通り越して真っ白い顔色の王妃を一瞬睨め付け、退場していった。
王太子、宰相が王に続いて退場。
貴族らも、ひと月前疑いもしなかった己らの行動を改めて思い返し、不自然さに青褪め、肩を落として退場していった。
壇上の豪華な席で唯一残った王妃は……恐怖に白目を剥き、失神していた。
椅子の下に、黄色い水溜りを作りながら。
===
1週間後ーー
当然取りやめとなった成婚式の代わりのように、国王のみならず国全てを禁忌の魔法で欺き、罪なき令嬢を死に追いやった大罪人として。
エブリン侯爵並びに侯爵一家は悉く国民の前で処刑された。
処刑台に立った彼らは、以前とはかなり形が変わっていたが、
それを憐んだものは、国に1人たりともいなかった。
侯爵家が断罪された翌日、王妃が病に倒れ、離塔へと身を移しての静養の甲斐なく数日後に眠りについたと国民に知らされた。
しかし王妃の遺言により葬儀が行われることはなく、遺体は国王直筆の手紙とともに母国へと送られて密やかに埋葬された。
元より人望のなかった王妃の死を心より悼む国民もまた、どこにもいなかった。
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