閣下は罪人と結ばれる

帆田 久

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11:登城 告げられる彼女の真実

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(本名…ディステル・アデライド。
元伯爵令嬢、か。
ディー…本名だったのだな)


ひたすら事務的に書かれた彼女の出自に母国、彼女が高位の治癒魔法に長けた人物であり、婚約者がいたこと。
そして成婚間近でなんらかの謀に巻き込まれて罪人として投獄された後、
罪人の密やかな処刑場である断崖から転落してあの孤島へと流れ着いたことが、
実に簡潔に、淡々と書かれていた。

まるで私情を1文字たりとも記すことのないようにーー。

彼女は聡明だ。
そして俺を優しい、懐が深いとも言っていた。
おそらく冤罪を着せられた自身について主観的に書いたなら、俺が同情すると思ったのだろう。
彼女の国も真実も何も知らぬ俺が、彼女の言葉を全て鵜呑みにして、と。

だからこそ『後日』改めて問うと言ったのだ。
俺が情報を得る時間を、彼女に対する真偽を正しく判断できるように。


===



冊子を読んだ翌日ーー

ビルスト国、国王陛下に呼び出された俺は、王城の王の執務室を訪れた。
幼少よりなにかと話す悪友が如き間柄である現国王が、極めて砕けた格好・口調でよぉ、と挨拶をしてきたのに、思わず思いっきり顔を顰めて見せる。

「…仮にも貴様は国王だろうが。
なんだその巫山戯た挨拶は。
もっと振る舞え馬鹿者」

「くくっ、仮にも国王に向かって随分と不敬な発言だなぁ、ジル?」

そんな口をきいても許されるのはお前くらいだと嘯く悪友…もとい国王にイラッとしながら何の用だと用件を問う。


「別に特には?」

「…おい」

「というのは冗談で、だ。
どうやら身を固める決心がついたようじゃないか堅物!」

「あ?」

「妖艶美女か?それとも可愛い系?
どこの家の令嬢だ~?はっ!?ついに副官君家のあの気の強い姉君を娶る気に!?」

「違う!!……俺に相手ができたこと、どこから聞いた」

「どこからってお前……。
堅物で有名なお前が!やたら早く家に帰りたがり!
しかもそれらの奇怪なる行動をしだす前に小舟で家令と一緒に女性を屋敷へと抱き抱えていったと驚愕情報のオンパレードだぞ我が国の軍は。
俺を仮にも王と戴くならお前は将軍であり公爵家当主だ。
相手が気になるのは当たり前だろう?」

「………」

「で、誰なんだ、ん?」

「…貴様は知らない」

「お?まさか平民か!?
ほぉ~、なぁに!堅物、番狂いと言われ続けてまで相手を作らなかったお前だ。相手がどこの誰であれ、誰も反対など」

「番が見つかった。占術師が示した通りのあの場所で」

「ー…は?」

「番だ、つ・が・い!しかも他国の人間だ」

「そ、え?番?本当に??
しかも人間???」

「ああ」


「はあぁぁぁぁぁーーッッ!!?」


「煩い」


獅子獣人の大声はかなりの騒音だ。
俺の鼓膜を破る気かと告げれば、一頻り声を吐き出した悪友がようやく落ち着きを取り戻した。

「はぁ…番、ねぇ。
まぁ執念深く待っていた甲斐があったなぁ友よ!!」

「…それはどうも」

「それで式はいつなんだ?
勿論俺も招待をしてくれるよな!何たってお前は公爵家当主であり我が国が誇る将軍様だ!!」

「未定だ」

「……番なんだろ?
人間って言ってたな、まさか獣人嫌いなのかその娘」

「違う。違うし彼女も俺を嫌っていないと本人に確認済みだ。
だが……まだ彼女と正式に番う約束ができていない」

「何やってんだお前」

「しょうがないだろ!
少々訳ありらしくてな、そもそも彼女はあの孤島の海まで
両手足に魔封じの呪い付き枷を嵌められてな、死にかけてたんだよ…」

「罪人、なのか?流石に逃亡罪人となれば、番だろうが何だろうが、悪いが国王として結婚を許すことは…」

「それが俺と番うのを躊躇っている問題であり、
俺が答えを出さねばならない問題でもあるんだが。
そもそも今日貴様にここに呼び出されなければ俺はその真偽を即刻調べに行っていたんだ」

「………。
事情の説明を求める」

「やなこった」

真剣マジな話だ、ジル。
もしも彼女が逃亡した重罪人であれば、他国の国王へと情報が伝達される。
凶悪な罪人を国へと入れるわけにもいかないからな。
逆に冤罪を着せられた無実人であるとするならこちらからそれとなくその国の国王に話をつけることができる。
何にしても情報は得られる。
だからこんな時くらい頼れよ、悪友」

「…悪い、それと感謝する」

常に巫山戯た態度をとる悪友の、こういうところが曲者なんだ。
締める所は締めるこの頼れる悪友に、彼女の事情を話すことにしたのだった。


===



「ミルドルア王国元伯爵令嬢、ディステル・アデライド。
ーーん?アデ、ライド?」


まずは名前を、と彼女の名を告げたところ……悪友は突如喉に魚の小骨でも引っ掛かったような表情で首を傾げた。

「聞き覚えが、あるのか」

では、彼女は真実罪人……と眉を寄せた俺に


「っま、待て待て!
えっと、確かつい先日……ミルドルア王国から通達…書類どこだ~!」

「書類、少しは整理しろよ」

ガサガサと山になった書類の中を漁る悪友に呆れた声をかける。

「しょうがねぇだろ次から次へと来るんだから!!
っと、これだ!
え~……、………」

「なんだ、早くしろ」

「急かすなっつの!あー、な。
おぉぅ……。何とまぁ……」

「だからなんだと」

「結論から言おう。
彼女ー…ディステル・アデライド伯爵令嬢はにより死んだことになってる」

「…冤罪?」

「ああ。それで、ほんの数日前、この通達が届く1週間前に本当の罪人が国民の前で一家丸々処刑されている。
で、王妃も、その後令嬢の罪により取り潰されてしまった伯爵家と令嬢自身の罪と汚名も全て濯がれ、として王族名簿に永久登記された、らしいぞ」

「は…?」

(婚約者がいたとは書かれていたが王太子妃?!
しかも永久登記!?なんだそれは!!)

「この通達自体、万が一同姓同名の人物が他国で発見された時の保険ってことみたいだ。
つまり……お前の番は真実無実であり、元とはいえ伯爵令嬢と家柄も良く、王太子の元婚約者であり、汚れなき乙女ということが今この瞬間証明された訳だ。
すげーなお前の番。
わざわざ冤罪を国王が認めたということは、相当な人数の人間が彼女の冤罪を晴らすために動いたということだ。
人望も地位もある、しかも死してなお彼女を簿
……ミルドルアの王太子は今なお彼女を愛していると見た!」

「絶対に渡さん!!」

呆気なく、あっさりと事情を話す前に判明した彼女の真実が耳に届くと同時、
俺は犬歯を剥き出しにして悪友の執務室で吠えた。



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