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13:公爵家の総意
しおりを挟む(Side:ララ)
ー屋敷、同じく二階の応接室ー
「いつまでこの私を待たせるつもりかしらあの骨娘!
何様のつもりかしら!?」
タンタンタンタンと足踏みをしながら苛立たしげに顔を歪める訪問者に、
部下のメイドも彼女から見えないことをいいことにあからさまに顔を顰めている。
(貴女こそ何様のつもりなのかしらねぇ…)
かく云う私ーー、ロウガル家メイド長を務めるララ・フィンネルも
完全に白い目でその女…ソリュー・ジノリを斜め後ろに控えながら見据えていた。
若様の副官であられるアガジ様の姉君にしてビルスト国侯爵家の長子でもあるこの女を、若様に仕える我々一同は皆、元々好いていない。
番を求めて止まないのだと公言して押し寄せる見合い話の悉くを退けてこられた若様に、自分こそが若様に相応しいだとか寧ろ自分以外は釣り合いのとれる女など存在しないと公言して回った挙げ句。
以前より若様の不在に限ってこうして屋敷へと無断で上がり込む、
仮にも侯爵家の長子ともあろうものが礼儀を知らないにも程がある。
自分がこの屋敷の女主人だと誇示したいのであろうが……
(逆効果だ豚が)
メイドや他の使用人がこの度し難い無法者を力尽くで追い出さないのは単に、
若様の副官についているアガジ様がこの女の弟君であり、家が侯爵家と高位貴族であるに過ぎない。
いくら素早さと腕力に秀でている豹獣人だとて、
先代様や将軍でもある若様に手ずから鍛えられてきた我が家の者が実力の面で怯えるはずもない。
まだこの応接室へと腰を落ち着けたばかりだと云うのに、
番であるディステルお嬢様がお支度を整えるほんの僅かな時間すら耐えることもできぬとは。
確かに見目は整っている。
体つきも世の男性が好む蠱惑的なそれ。
だが、それだけ。
露出が多すぎて下品。
使用人をあからさまに見下す、度量のなさ。
思い通りに物事が運ばないとすぐに態度に出す、気の短さ。
知恵と品の欠落した肉付きのいいだけの生物など、豚以外になんと評すればいいのか。
(はしたない身なりといい、精神までも幼児レベルで不合格。
若様の嫁になど、誰が認めるものか!)
対して……と脳裏にお嬢様を思い浮かべる。
眠りから覚め、未だ身体が回復せず床の住人となったお嬢様に対して。
初めから、不敬を承知でわざと砕け過ぎた下町の婆のような口調と態度で接した私。
この屋敷の女主人となるかも知れぬ人物だ、番といえども人間性を確かめなければと敢えて無礼な振る舞いでもって接する私にお嬢様は…柔らかく微笑んでくれたのだ。
『よろしくお願いします、ララ様。
なんだか亡くなったお婆様とまた会えたようで、嬉しゅうございます!
これからもずっと気安く話して下さると嬉しいわ』
そんな言葉まで冊子に書いて見せて。
作ったところのまるで無い、本当の、親愛なる家族へ向けるような笑みのまま!
私も、そして回復するにつれて庭を歩くようになった際にもその笑みを向けられて丁寧にお辞儀をされた庭師や使用人、メイド達も。
皆が皆、彼女が正しく若様に相応しい女性であると認めた。
長い黒髪の、華奢な人間の娘。
されど礼儀を知り、自身に尽くす者に感謝の念を送り、心からの笑みを浮かべられる。
仕草も姿勢も書く文字ですら流麗で品があって高い教養を滲ませ、
しかしそれをなんらひけらかすことのない、慎ましやかな精神性。
例え番でなくとも、男が求めて止まない理想の淑女。
これを認めないわけがない。
寧ろ何がなんでも若様の嫁として居ついて貰わねばならないと当の若様だけでなく屋敷中が決意を固めている女性を、“骨女”、だと!?
恥を知れ、格の違いを理解しろ!!
(……私にメイド長以外の権力や地位があれば正面から罵ってやれるものを…)
そんな風に心中でひたすらジノリ侯爵令嬢を罵り続けていると。
「お嬢様のお仕度が整いました」
メイドの1人、サマンサが扉向こうからノックをしてお嬢様の到着を知らせた。
兎獣人の彼女は、私の代わりに彼女の世話まわりをすることが多かったため、
殊更に彼女を信奉している。
おそらく支度に時間が掛かったのも、彼女が気合を入れて手伝ったからだろう。
「入りなさい!!」
大声で入室を許可する、この無礼極まる客に殺意を覚えるものの、
必死にそれを押し殺して扉に近付き、内側から扉を開く。
そうして目にしたお嬢様の支度後の姿に、ニンマリと頬が緩む。
(よくやったよサマンサ!!)
(はい、メイド長!!)
視線だけで互いにサムズアップをしてみせて小さく頷いた。
「さぁお嬢様、お入り下さい」
常の10割増しで恭しく入室を促す私を、少し戸惑ったように見上げるお嬢様。
安心させるようににこりと微笑むと、ややあってふんわりと彼女の口元が弧を描いた。
凛とした、淑女然とした笑み。
ゆったりと、しかし姿勢良く確かな足取りで入室していく彼女の後に続きながら、
(本当の“淑女”がどういうものか、目に刻みなさい豚女)
夫のルフにすらみせたことのない、凶悪な嗤いをを浮かべるのだった。
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