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19:受け入れるか否か
しおりを挟むしん…と静まった、応接室。
その中心に佇む私とジル様は、互いに見合って無言。
長く続くかと思った沈黙は、ジル様により破られた。
「……遅くなってすまない。
まさかまたあの女が、
よりにもよってこのタイミングでこのような暴挙に出るとは」
「ジル様」
「!!ディー…声が、出るようになった、のか?」
「…実を言えば少し前から声は戻っていたのです。
未だ少し痛むため、大きな声は出さないよう気を付けておりますし、その。
ジル様が帰ってきた際に驚かそうと…。
先程はあの方があまりに興奮されていて筆談が困難となってしまったので、途中からは話しておりました」
「そうか…、そうか!
兎に角声が戻ったことは喜ばしいことではないか!
やっと…君の声が聞けたな。ー…綺麗な声だ」
「あっ、ありがとうございます……」
話せるのに話せないと偽っていて申し訳ないと謝れば、
少し上擦った声で殊の外喜んで下さって、なんだか照れてしまった。
それより先程のソリューさんと彼の会話の内容がとても気になる。
覚悟を決めて事の詳細と彼の答えをと口を開きかけると、
彼は徐にーー、私の前で片膝をついて頭を下げた!
「!?ジル様っ何を!?」
「ディステル・アデライド元伯爵令嬢。
改めて俺ー、ジルクバル・ロウガルは、
君…いや、貴女に“唯一の番”として結婚を申し込む」
「あ…」
「貴女は貴女について調べてから結論を俺に出すよう言った。
しかし、貴女は罪を犯しておらず、謀略の果てに命の危機に瀕したのだという真実を俺は知ることが出来た」
「な、何故…だって私は」
国からも婚約者からも罪人と謗られたのに何故…
困惑する私の頬を、立ち上がった彼が大きな手のひらで包んだ。
「貴女はなんらかの方法で陥れられ、罪人に仕立て上げられたのだと。
真の罪人は既に一家郎党処刑されたようだ。
ちなみに……そのすぐ後に何故かその国の王妃も病気で急死したそうな。
だから既に貴女のー…君の罪は冤罪であったと公言されている。
俺はそれを、我が国の陛下から直接聞き、その通達も読ませてもらった。
君はもう、自由だ」
「本当に…?
私の罪が晴れた、と……」
「ああ……だから」
そう言って一度苦しげに顔を顰めた彼。
「君の潔白は認められ、君の家も名を取り戻したと聞いている。
つまり君はその足ですぐにでも母国へと帰ることもできるという訳だ。
帰れば……もうここへは戻って来ない、だろう。
君には彼の国で婚約者がいたのだから。
だからこそ最後の機会として俺は真実君にこの場で求婚する。
する、が。それでも……俺は、君の選択を優先す」
「ジル様」
本当にジル様は、全てをご存知のようだった。
私がかけられた罪も、誰の婚約者であったのかも……。
求婚をしながらここに至っても私に逃げ道…元の生活へ戻る選択肢を残して下さるなんて。
(…本当に、不器用で。真っ直ぐな方……)
自身の耳目で直に事の真偽を知ったわけではない。
しかし彼の語った言葉には嘘は一つとしてないのだと、
何故かすんなりと信じることができた。
自身がこの後、どこで誰と共に在りたいのかも。
私の返事を不安と苦悩の面持ちで待つ彼の声が室内に響いた時に再認識させられた。
そもそも既にこの静養している間に、心は決まっていたのだと。
「私はーー…」
私の 答えはーー
彼の瞳を真っ直ぐ捉えて、口を開いた。
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次回、ジル視点
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