愛人かと思いきや、僕にだけポンコツな溺愛夫ができました

だし巻たま子

文字の大きさ
6 / 24

しおりを挟む
「ふーっ」

紅茶専門店に行っただけなのに、運悪くヒートを起こしたオメガに会ってしまって。
檸凰れおがアレルギーを起こして、真っ青な顔で救急車に横たわるなんて思いもよらなかった。
こんなことになるなんて知ってたら、紅茶専門店には一人で買いに行ったのに。

着いた先の病院で、救急診療へ回された檸凰と離され、待合室へ向かうこととなった。
時間にしてどれぐらい経ったか定かではないが、気持ち的には長時間待たされ、やっと看護師さんが呼びに来てくれたのが17時46分。
救急車に乗った時にはもう街頭が灯りはじめていたから、そんなに長いこと待たされはしなかったと思う。 
キャスター付きの大きなベッドでスヤスヤと寝息をたてる檸凰を見て、ホッとしたのもつかの間。
ベッドごと最上階の個室へ移動してきたのが30分ほど前の話だ。
途中、好好爺然とした先生があらわれて、「輸血が必要かもしれないので、君から採血させてほしい」なんて言われた時は、どうなることかと血の気が引いたが、なんとか落ち着いたようだ。

「ぅ」
「檸凰?大丈夫?」

まぶたがゆっくりと開く。
病室の照明に目がくらんだのか、まばたき十数回。
それから、目だけクルクルと器用に動かして、困惑しているのが可愛らしい。

「檸凰、解る?ここ病院だよ。ヒートになったオメガにぶつかって、アレルギー起こしたの覚えてる?救急車乗ってここの病院にお世話になってるの。すごく優しそうな先生と看護師たちが、助けてくれたんだ、わっ」

アールグレイがふわりと香る。
ベルガモットではなく、シチリアレモンを使ったような、苦みの無い爽やかな甘さが特徴的な香りだ。
あれ?
僕、今抱きしめられてる?

「ちょっと檸凰!病み上がりだから、いきなり起き上がっちゃダメだよ。あ!点滴!腕大丈夫!?」
「うで、のびてる」

腕に固定用の発砲スチロールを巻いていてくださった看護師さんのファインプレーにより、血管は傷つかずにすんだ。
ホント肝が冷える。

「危ないから起きちゃダメだよ」
「ふぶきが、ささえてくれるから」
「起きたばっかなのに、また倒れちゃったら大変だよ。点滴そろそろ終わるし、看護師さん呼んで診てもらおう」
「いい」
「いい、じゃなくて。またアレルギーぶり返したら怖いし、ほら、布団戻って」
「いい。ふぶきがいい」
「僕がいいって、どういう意味さ?ほら、ここ病院だから、きちんと診てもらお、ね?」
「やだ」
「ヤダ、じゃないの」

だだっ子の大きな背中を、ポンポンとあやしつつ、もう片方の手で支える。
ヒート中のオメガは初めてだったけど、オメガに近付かれた後は必ずこうなる。
医学的に正しいのか解りかねるが、アレルギーがキツいせいで赤ちゃん返りしてるのかも?

「ふぶき、つがおう」
「え?」
「おれのつがい、どこにもいかないで」
「大丈夫、ここに居るよ」
「ずっと、となりにいて」

胸がズキリと痛む。
檸凰の隣にずっと居られたら番になれたらいいのに。
それはきっと難しい。
檸凰の近くには幻羽まほろば美郷みさとくんという、お似合いのオメガが居るから。
彼も檸凰に拒絶されない、もう一人のオメガ。
強力な抑制剤で押さえてる僕とは違って、きっと檸凰の運命の番。
今日も正門で、僕との待ち合わせ時間になっても、楽しそうに談笑してた相手。
僕のニガテな未知長みちながさんも、大声で檸凰の番だって言ってたし、たぶん正解。
ホントは身を引くべきだけど、ズルい僕は、檸凰が求めてくれる限りそばに居たい。

「ずっとはムリだけど、院までなら、一緒に居れるといいな」
「だめ、ずっと」
「ふふっ、今日の檸凰はワガママだ」
「わがまま、じゃない」
「ちょっと檸凰、「失礼します」

僕の肩にもたれかかる檸凰の唇が、僕の項をかすめた瞬間だった。

「失礼しましたあっ!」
「待って!お見苦しいところを!ごめんなさい!戻らないで!ください!」
「チッ」
「いえ、時間を改めて参ります!」
「ホントに待って!ください!」

とんでもないところを見られてしまったが、なんとか看護師さんを引き止めることに成功した。
点滴が終わる時間になってもナースコールが鳴らないため、見に来てくださったのだ。
そうこうしているうちに点滴の液体が切れたせいで、血液が逆流してしまい、二人して看護師さんに怒られてしまった。
やんわりと注意されたのが、怒鳴られるよりもだんぜん身に染みた。
まことに申し訳ないです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q矢(Q.➽)
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...