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「ふーっ」
紅茶専門店に行っただけなのに、運悪くヒートを起こしたオメガに会ってしまって。
檸凰がアレルギーを起こして、真っ青な顔で救急車に横たわるなんて思いもよらなかった。
こんなことになるなんて知ってたら、紅茶専門店には一人で買いに行ったのに。
着いた先の病院で、救急診療へ回された檸凰と離され、待合室へ向かうこととなった。
時間にしてどれぐらい経ったか定かではないが、気持ち的には長時間待たされ、やっと看護師さんが呼びに来てくれたのが17時46分。
救急車に乗った時にはもう街頭が灯りはじめていたから、そんなに長いこと待たされはしなかったと思う。
キャスター付きの大きなベッドでスヤスヤと寝息をたてる檸凰を見て、ホッとしたのもつかの間。
ベッドごと最上階の個室へ移動してきたのが30分ほど前の話だ。
途中、好好爺然とした先生があらわれて、「輸血が必要かもしれないので、君から採血させてほしい」なんて言われた時は、どうなることかと血の気が引いたが、なんとか落ち着いたようだ。
「ぅ」
「檸凰?大丈夫?」
まぶたがゆっくりと開く。
病室の照明に目がくらんだのか、まばたき十数回。
それから、目だけクルクルと器用に動かして、困惑しているのが可愛らしい。
「檸凰、解る?ここ病院だよ。ヒートになったオメガにぶつかって、アレルギー起こしたの覚えてる?救急車乗ってここの病院にお世話になってるの。すごく優しそうな先生と看護師たちが、助けてくれたんだ、わっ」
アールグレイがふわりと香る。
ベルガモットではなく、シチリアレモンを使ったような、苦みの無い爽やかな甘さが特徴的な香りだ。
あれ?
僕、今抱きしめられてる?
「ちょっと檸凰!病み上がりだから、いきなり起き上がっちゃダメだよ。あ!点滴!腕大丈夫!?」
「うで、のびてる」
腕に固定用の発砲スチロールを巻いていてくださった看護師さんのファインプレーにより、血管は傷つかずにすんだ。
ホント肝が冷える。
「危ないから起きちゃダメだよ」
「ふぶきが、ささえてくれるから」
「起きたばっかなのに、また倒れちゃったら大変だよ。点滴そろそろ終わるし、看護師さん呼んで診てもらおう」
「いい」
「いい、じゃなくて。またアレルギーぶり返したら怖いし、ほら、布団戻って」
「いい。ふぶきがいい」
「僕がいいって、どういう意味さ?ほら、ここ病院だから、きちんと診てもらお、ね?」
「やだ」
「ヤダ、じゃないの」
だだっ子の大きな背中を、ポンポンとあやしつつ、もう片方の手で支える。
ヒート中のオメガは初めてだったけど、オメガに近付かれた後は必ずこうなる。
医学的に正しいのか解りかねるが、アレルギーがキツいせいで赤ちゃん返りしてるのかも?
「ふぶき、つがおう」
「え?」
「おれのつがい、どこにもいかないで」
「大丈夫、ここに居るよ」
「ずっと、となりにいて」
胸がズキリと痛む。
檸凰の隣にずっと居られたらいいのに。
それはきっと難しい。
檸凰の近くには幻羽美郷くんという、お似合いのオメガが居るから。
彼も檸凰に拒絶されない、もう一人のオメガ。
強力な抑制剤で押さえてる僕とは違って、きっと檸凰の運命の番。
今日も正門で、僕との待ち合わせ時間になっても、楽しそうに談笑してた相手。
僕のニガテな未知長さんも、大声で檸凰の番だって言ってたし、たぶん正解。
ホントは身を引くべきだけど、ズルい僕は、檸凰が求めてくれる限りそばに居たい。
「ずっとはムリだけど、院までなら、一緒に居れるといいな」
「だめ、ずっと」
「ふふっ、今日の檸凰はワガママだ」
「わがまま、じゃない」
「ちょっと檸凰、「失礼します」
僕の肩にもたれかかる檸凰の唇が、僕の項をかすめた瞬間だった。
「失礼しましたあっ!」
「待って!お見苦しいところを!ごめんなさい!戻らないで!ください!」
「チッ」
「いえ、時間を改めて参ります!」
「ホントに待って!ください!」
とんでもないところを見られてしまったが、なんとか看護師さんを引き止めることに成功した。
点滴が終わる時間になってもナースコールが鳴らないため、見に来てくださったのだ。
そうこうしているうちに点滴の液体が切れたせいで、血液が逆流してしまい、二人して看護師さんに怒られてしまった。
やんわりと注意されたのが、怒鳴られるよりもだんぜん身に染みた。
まことに申し訳ないです。
紅茶専門店に行っただけなのに、運悪くヒートを起こしたオメガに会ってしまって。
檸凰がアレルギーを起こして、真っ青な顔で救急車に横たわるなんて思いもよらなかった。
こんなことになるなんて知ってたら、紅茶専門店には一人で買いに行ったのに。
着いた先の病院で、救急診療へ回された檸凰と離され、待合室へ向かうこととなった。
時間にしてどれぐらい経ったか定かではないが、気持ち的には長時間待たされ、やっと看護師さんが呼びに来てくれたのが17時46分。
救急車に乗った時にはもう街頭が灯りはじめていたから、そんなに長いこと待たされはしなかったと思う。
キャスター付きの大きなベッドでスヤスヤと寝息をたてる檸凰を見て、ホッとしたのもつかの間。
ベッドごと最上階の個室へ移動してきたのが30分ほど前の話だ。
途中、好好爺然とした先生があらわれて、「輸血が必要かもしれないので、君から採血させてほしい」なんて言われた時は、どうなることかと血の気が引いたが、なんとか落ち着いたようだ。
「ぅ」
「檸凰?大丈夫?」
まぶたがゆっくりと開く。
病室の照明に目がくらんだのか、まばたき十数回。
それから、目だけクルクルと器用に動かして、困惑しているのが可愛らしい。
「檸凰、解る?ここ病院だよ。ヒートになったオメガにぶつかって、アレルギー起こしたの覚えてる?救急車乗ってここの病院にお世話になってるの。すごく優しそうな先生と看護師たちが、助けてくれたんだ、わっ」
アールグレイがふわりと香る。
ベルガモットではなく、シチリアレモンを使ったような、苦みの無い爽やかな甘さが特徴的な香りだ。
あれ?
僕、今抱きしめられてる?
「ちょっと檸凰!病み上がりだから、いきなり起き上がっちゃダメだよ。あ!点滴!腕大丈夫!?」
「うで、のびてる」
腕に固定用の発砲スチロールを巻いていてくださった看護師さんのファインプレーにより、血管は傷つかずにすんだ。
ホント肝が冷える。
「危ないから起きちゃダメだよ」
「ふぶきが、ささえてくれるから」
「起きたばっかなのに、また倒れちゃったら大変だよ。点滴そろそろ終わるし、看護師さん呼んで診てもらおう」
「いい」
「いい、じゃなくて。またアレルギーぶり返したら怖いし、ほら、布団戻って」
「いい。ふぶきがいい」
「僕がいいって、どういう意味さ?ほら、ここ病院だから、きちんと診てもらお、ね?」
「やだ」
「ヤダ、じゃないの」
だだっ子の大きな背中を、ポンポンとあやしつつ、もう片方の手で支える。
ヒート中のオメガは初めてだったけど、オメガに近付かれた後は必ずこうなる。
医学的に正しいのか解りかねるが、アレルギーがキツいせいで赤ちゃん返りしてるのかも?
「ふぶき、つがおう」
「え?」
「おれのつがい、どこにもいかないで」
「大丈夫、ここに居るよ」
「ずっと、となりにいて」
胸がズキリと痛む。
檸凰の隣にずっと居られたらいいのに。
それはきっと難しい。
檸凰の近くには幻羽美郷くんという、お似合いのオメガが居るから。
彼も檸凰に拒絶されない、もう一人のオメガ。
強力な抑制剤で押さえてる僕とは違って、きっと檸凰の運命の番。
今日も正門で、僕との待ち合わせ時間になっても、楽しそうに談笑してた相手。
僕のニガテな未知長さんも、大声で檸凰の番だって言ってたし、たぶん正解。
ホントは身を引くべきだけど、ズルい僕は、檸凰が求めてくれる限りそばに居たい。
「ずっとはムリだけど、院までなら、一緒に居れるといいな」
「だめ、ずっと」
「ふふっ、今日の檸凰はワガママだ」
「わがまま、じゃない」
「ちょっと檸凰、「失礼します」
僕の肩にもたれかかる檸凰の唇が、僕の項をかすめた瞬間だった。
「失礼しましたあっ!」
「待って!お見苦しいところを!ごめんなさい!戻らないで!ください!」
「チッ」
「いえ、時間を改めて参ります!」
「ホントに待って!ください!」
とんでもないところを見られてしまったが、なんとか看護師さんを引き止めることに成功した。
点滴が終わる時間になってもナースコールが鳴らないため、見に来てくださったのだ。
そうこうしているうちに点滴の液体が切れたせいで、血液が逆流してしまい、二人して看護師さんに怒られてしまった。
やんわりと注意されたのが、怒鳴られるよりもだんぜん身に染みた。
まことに申し訳ないです。
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