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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第37話 盗賊は心も盗みたい

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倉庫街であんなことを言われてから目に見えてご機嫌の盗賊ちゃん。
見ていてキュンキュン来るほどに尊い。
ぐうかわすぎる。

「な、なぁ、ご主人様…。その…俺たちってたしかに年の差は結構あるし、ご主人様の世界じゃ16~18歳ぐらいにならないと結婚できないのは知ってる…。でもな、この世界じゃ10歳で成人で12歳になれば親の承諾なしでも結婚できるんだ。
ご主人様は…その…オレと結婚はしたいか…?
もしくは他の女達とはどう思ってるんだ?」

うーん…。今までも何度か言葉を濁してきてしまっていたが、改めて俺は考えてみる。

たしかにこの子達からすれば、むしろ周りの方は結婚していて自分たちは所謂行き遅れでもおかしくはないのかもしれない。
いやまぁ妹ちゃんと盗賊ちゃんは年齢的にはまだ早いほうかもだが…。

「そうだな…。今はまだ結婚までは正直考えきれてない…。ただ、そのだな…。最近はその…付き合うとかそう言うのは考えてきてる…。
と言うか、なんかいつの間にか周りには俺たち二人は公認のカップルのように扱われて来てる気がしてるし、これで付き合ってない方がむしろ違和感だろうって気もしてる。」
「まぁ…たしかに助かるは助かるけど、初めからオレとご主人様は相部屋になって来てるよな…。
魔女さんに至ってはオレと二人きりになるとそれはもう理想の母親みたいな顔で、賢者くんに優しくしてもらって、君もまた賢者くんを癒してあげるんだよ?なんて言ってくる始末だ…。」

俺の知らない間にそんなことが…。

「たしかに、見た目はすごく若いけどあの人の母性溢れるオーラはすごいよね…。」
「あぁ、あのおっぱいに抱きしめられるとオレも思わずあの胸の中で眠りたくなる…。
オレの母さんもデカかったがそれよりもデカイからな…。」

今ここで明かされるある意味衝撃の事実。

「だからオレもきっと、15歳になる頃には戦士より大きくて揉みがいのあるおっぱいになってるかもだぞ!」
「お、おう…。ただ、今時点はこの可愛さを堪能しておきたい。」
「そ、そっか…。
ご主人様はオレとか魔法使いみたいな幼い女の子の方が好みなのか?」
「……………。
そ、そんなことないよー?」
「おい、今の間はなんだおい。
まぁ、今のオレを女の子として好いてくれてるのはすっごく嬉しいんだけどな♪」

にぱぁっと微笑む盗賊ちゃん。
ほんと、よく笑うようになったな。

「さてと、大商店に到着だ。
そう言えば露店でつまみ食いするの忘れてたな…。
まぁいいや、ちょうどいい塩梅でお昼になって来たし何か食べようか。何食べたい?」
「カリカリにローストしたパンに肉と野菜挟んだやつ!後それに付け合わせの芋を高温の油で揚げたやつ!」

要するにハンバーガーのセットね。俺の世界的には。
あるのかな…。あったわ…。
ほんと親近感あるわこの異世界…。

「ご主人様!俺このチーズとベーコンと卵入ってるやつがいい!」
「おーいいね!俺もそれにしよう!
これ二つお願いしま…ってあれ?聞いてる?なんか固まってるんだけど…。」

て言うか、周りの人たちもこっち見てすごく固まってる。

「?」

俺は盗賊ちゃんと顔を見合わせて首をかしげる。

「あ、あの…もしや…大賢者様とドラゴスケイルのボスだったと言われる盗賊さんですか…?」
「え?あぁはい。そうです。私が大賢者でこの子が盗賊さんです。」

と言うと、周りの時間が急に動き出したようにワッと歓声が上がる。

「私もちょうど休みだったのであのお披露目会兼ねた戦いを見ていたんです!わぁー!わぁー!本物の大賢者様と盗賊さんだぁ…。」
「あ、はい。あと、そのお腹空いてるんでオーダーを通して…。」

あわてて、店員さんがオーダーを通す。

俺は邪魔にならないようにと外のテラス席に移動する。

「お待たせいたしました。こちら先ほどオーダーいただいたメニューです。」
「ありがとー。」

店員さんがにこりと微笑んで次の仕事へ向かっていく。

「いやぁ、驚いたね。俺ら有名なんだ。」
「そりゃ、ここの国のトップになったようなもんなんだ。当然だよご主人様。
そして俺もご主人様に捕まったことで色々と面が割れて有名になっちまった。
大賢者様の従者の一人としても、ドラゴスケイルのボスとしてもな。
悪くはないけど、たしかに落ち着かないよな。
まぁ、そのうち町の人たちも俺たちがいるのが当たり前になるよ。
むしろ石屋のオヤジみたいに接してくれる人の方が稀なんだ。
普通なら、あんな口や態度を示せば不敬罪で殺されても文句は言えねーよ。」
「不敬罪って…。あんなフランクに話しかけてくるオヤジをそれで殺そうものならそれこそ俺が殺されるよ…。」

だが、そんな話が出るってことはかつてはそんな奴も居たのかもだな…。
今俺がいるこの時代がたまたまこの世界にとっての平和な時代になったのかもしれないな…。

「しかしうまいなこれ、肉はジューシーだし卵はトロトロっ!ベーコンもパンもカリッカリだし、バターの味も染みててうまい!いい仕事してるぜぇ~っ♪」

満面の笑みでハンバーガー的なものを頬張る盗賊ちゃん。
あああああ可愛い微笑ましい。尊い。

「ふふっ♪なんだよ。俺が飯食ってるだけでそんなに嬉しいのか?
何度も言ってんだろ?ご主人様の感情って俺にがっつり伝わってんだぜ?
俺が笑ったり嬉しそうな時は、ご主人様もつられて幸せな気持ちになってくれる。
俺がご主人様に微笑むと、その瞬間キュンってしてくれて俺に対して凄くドキドキしてくれる。
最近はそれがたまらなく嬉しいんだ。
だからかな?最近はよく笑えるようになったんだぜ♪」
「そうだね。たしかに最初の頃はわりとツンツンしてたよね。そもそも俺の命狙ってたんだし…。
いやまぁ本気で殺すつもりはなかったらしいけど…。今は本当に、すごく魅力的で可愛らしくなったよ。」

また嬉しそうに照れながら微笑みかけてくれる盗賊ちゃん。
その顔にまたキュンキュンさせられる俺。
ほんと、甘々な空間である。

「次は、服見に行くんだっけ?」
「そう、まずは盗賊ちゃんの服をメインで。
可愛い服を見つけられると良いな。
こうやって街を歩く時の服も何かしら買っておきたくて。」

俺達は食事を終えると早速、服屋めがけて歩き出した。
盗賊ちゃんにはどんな服が似合うだろう?
パンキッシュ?ゴスパン?それとも清楚なワンピ?

いやもうどれ着せても可愛いだろう。

て言うか可愛かった。

俺達はいろんな店をぐるぐる回りながら、服を試着させてもらっていく。

まずは清楚な感じの白ワンピに麦わら帽子。
これな、一度幼女に着せて見てみたかったんだよな…。

「な、なぁご主人様…、これはちょっと俺には合わなくないかな…?そのこの言葉遣いとかのイメージ的にさ…?て言うか俺が恥ずい…。」
「大丈夫…。すっごい可愛い。」
「可愛くてもこれはヤダァっ!恥ずいっつぅのっ!」

このように白ワンピは却下された。

次は普段着てるようなボーイッシュな服だ。

これは言うまでもなく似合う。

「うん、やっぱこのスタイルはしっくりくるな。」
「だね~。何着か買っておこうか?」

と言うわけでこちらではショートパンツとスキニージーンズ、シャツなどをお買い上げした。

次に少しヒラヒラがついたゴスパンスタイル。

下はヒラヒラの黒いスカートに、上はレザーやレースで装飾されたチューブトップの胸当て的な感じのやつにレザーのジャケット。
黒いレザーのロングブーツ。
まぁ定番だな。首からはナイフを下げさせてもまた似合う。


「こ、こう言うのが趣味なのか!?
うー…スカートは履き慣れてねぇからなんか落ち着かないな…。」
「さっき買ったショートパンツとセットならどうだ?」
「あ、なるほど。しっくりくる。」

これもお買い上げ決定した。

「ふふふ~っ♪ありがとなご主人様♪
これでオレももっとご主人様好みの女の子になれるかな?」
「もちろんだよ。今でも可愛いのにこれ以上可愛くなったら俺は爆裂四散するかもしれないなぁ…。」
「え…、オレが可愛くなると…ご主人様爆発しちまうのか…。ど、どうすればいいんだ…?」

この子は変なところで時々冗談が通じなくて困る。

「ごめん、冗談。冗談だから。ほんとごめん。
ごめんて。」

軽く拳をふりかぶられた。

服を選び終わったので、俺はまた癒されたいなーとドールショップを覗いてみる。
昨日と同じ店員さんがにっこりと迎えてくれた。

「ふふ…。今日は昨日と違う方をお連れなんですね。」
「事情を知らない人が聞いたら曲解しかねない事言うのやめて下さい…。
昨日の子は、昼間に散々やられた後、なぜかたまたまここであってそのままの流れで買い物に付き合わせて来た人です…。て言うか見てたんですね。」
「えぇ…。その…。面白かったのでつい…。」

他人から見たら俺と勇者ちゃんのやり取りはコントのようだったらしい。

「そちらの方は…?」
「この子は…なんて言えばいいのかな。
俺の従者だよ。元盗賊団のボス。」
「と言うことはあなたが噂の…。ふふっ…♪
とても可愛らしいですね。あら…。素敵なお洋服を買っていただいたんですね♪良く似合いそうです。」
「だろ♪ご主人様が俺にって選んでくれたんだ♪
明日から街に出かけるときは着ることにするんだ♪」
「ふふ♪それは素敵ですね。
あ、そうだ。大賢者様に見ていただきたいものがるんです。」

そう言うと、ドールショップの店員さんは店の奥から手のひらサイズのちょこんっとした可愛いドールを連れて来た。

「この子もあなたの作品のように心が宿ったらと言う願いを込めて、両目と心臓に鉱石を使って見たんです。どうでしょう?」

俺はその子を手に取らせてもらい、じっくりと見せてもらう。

「うわぁ…すげぇなぁ。この子、お姉さんが作ってるのか?めちゃくちゃ可愛らしいな。
服もこんなに綺麗で可愛いの着せてもらって…。
きっとすごい幸せもんだなこの子は♪」
「えぇ、ですので売り物としては出せない子なのですが…。ふふ…♪私もあのような素敵なものを見てしまっては創作意欲が掻き立てられてしまいまして…♪」
「凄いね…。この子の目もすごく綺麗だし…。
俺のおいなりちゃんと同じで心臓は埋め込まれてるのか…。確かに動き出したりしたらまた可愛らしいのかな。」

ぴょこんっとカバンからおいなりちゃんがまた勝手に飛び出して来た。

「ほうほう♪凄いのう!こやつにも作り手が込めた力と念を感じるの。のう、主さまよ。
この子にほんの少しだけ手を加えて見てはどうじゃ?
妾たちもそうじゃが、主さまが手を加えたものには不思議と力が宿るようじゃ。
この人形ももしかするかもしれぬぞ?」
「ほ、ほんとうですかおいなりさん!そうしたら是非…!お願いします大賢者様!
私、お人形さんとお友達のように話せる日が来ることをずっと夢見ていたんです!」

と急に言われても一体どうすれば…。

「そうじゃのう…。タトゥーみたいに身体に何かしら模様とか描いてみてはどうかの?」
「この可愛らしい子にタトゥーを…?
うぐぐ…なんか心が痛むな…。」
「私は構いませんよ?むしろ是非に…。」

と言われて俺はこの子の予備の部品として作られていた右肩に、リューターを使い模様を彫り込み、その模様にゴールドのマーカーを使って色をつけた。
その上から軽くレジンでコーティングしUVライトをあてる。

「こんなので良いのかな…?」
「はい♪とっても素敵です。
では、これを大賢者様の手でこの子の肩と交換してあげてもらって良いですか?」

俺は言われるままに、店員さんに教えてもらいながらドールの肩を交換する。
すると…。

「肩の模様が…光り出してる…。瞳も…胸も…。」
「えぇっ…。おいなりちゃんでもびっくりしてるのにもしかしてもしかしちゃうの?」

ドールの目の鉱石がハイライトが入るように光り出し、ドールの関節の継ぎ目がスーッと消えて、まるで小人のような姿に変わっていく。
羊毛フェルトだったおいなりちゃんがそうなっていったように…。

「お母さん…。貴女が私の…お母さん?」
「…!はいっ!そうです!私が貴女のお母さんですっ!」

そう言って大興奮でそっとそのドールを抱え上げる店員さん。

「長年の夢が叶いました…。大賢者様…。ありがとうございます…!」
「いやぁ…俺もびっくりだよ…。
そしたら今日はこの子の誕生日だね!」
「ふふっ♪そうですね。お祝いしてあげなきゃですね。食事は…できるのでしょうか…?」
「どうなのおいなりちゃん?」
「必要はないが…ものを食べることはできるの。
元々は人形なのに不思議と身体に取り込めるぞ。
食べたものはどこへいくのかの?石かのう?」

首を傾げているが俺にもそこはよくわからない。

「何はともあれ、ありがとうございました。
また、気が向いたときは是非立ち寄ってくださいね。」

そして俺たちはドールショップを後にして、家路に着く事にした。

ギルドの前を通りがかると、なんか妙にギルドが騒がしい。

うちの娘を出せとかどーとか聞こえてくる…。
ちょっと気になったので少し入口から覗いてみる。

「うちの娘を出せって言ってんだよ。責任者。
家出して行方知れずになってたと思ったら、なんでもここの大賢者様とやらの妾になってるって噂らしいじゃないか。
どこにいるんだい?うちの娘は。」
「知らないにゃ。少なくとも朝には城を出てどこかにはいるはずだがにゃ…。
そもそも、例え知っていたとしてもアンタに引き渡すつもりはないにゃ!」
「あぁん?うちの娘だよ?
引き渡せないって言うんなら、せめて見受け金くらいは払ってもらわないとねぇ。
あの男からもらった口止め料もとうに底をついてるしねぇ。」

まさか…と思って盗賊ちゃんの方を見ると案の定顔を真っ青にして震えている。
やっぱりそうなのか…。

「行こう。盗賊ちゃん。気づかれる前に帰るよ。」
「待ちなぁ!見つけたよ。うちの娘を連れてくって言うんなら、払うもん払って行きなよ大賢者様よ。」

好きな子の親に会うのってハードル高いとは思ってたけど…これは高すぎるだろう…!
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