ウィークエンドバイブル

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ババ抜き

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 目の前のカードをじっと見つめる。
 笑う。死神と目があった。
 彼女が持っているカードは二枚。どちらかがババでどちらかがスペードの2だ。
 彼女ー早乙女さおとめあきは、余裕綽々といった表情で、はやくはやくと俺を急かす。昼間のクラスでの八方美人は何処へやら、目の前にいるのは遊びに夢中なただの子供だった。
 そんなやつに大人である俺が負けるはずはない。勝たねば、熱い決意を胸にカードをいくら睨めど、透けて見えるわけでもない。時間が無制限なのをいいことに、かれこれ数分間悩み続けていた。
「遅いよ、ばくくん。悩むだけ無駄だって、さっさと引いてー。」
 早乙女が俺を急かす。
「待て、もう少しだけ。」
 俺はそう言って集中する。
 早乙女は不満そうな顔で、隣りにいる仮面の男に問いかけた。
「これって、じゃないですか?ジョーカーさん。」
 ジョーカーと呼ばれた男は首を傾げ、唸ってから俺を見る。
「明確な理由が提示できないなら、そう思われても仕方がありませんねー。後一分以内にカードを引かない場合は失格ということで…」
「…分かった。」
 諦めて右側のカードを引く。カードの中の道化師が笑った。
「じゃあ私の番ね。どっちにしようかなー。」
 俺は後手でカードを適当に混ぜて確認せずに机に伏せた。
 早乙女はつまんないといったふうに頬を膨らませる。
「それじゃあ獏くんの表情見ても解んないじゃん。運に任せた臆病な手ね。」
「お前の表情の読みが的確すぎるのが悪い。このゲームじゃお前には勝てないよ。」
 早乙女が悩みながら引いたカードの笑う道化師の姿は彼女の表情を曇らした。
「おっし、俺の番だな。」
 結局その日は次の回で敗北した。

「よっしゃかったー。」
 早乙女が大手を振って喜ぶ。
「何賭けてたんだ?」
 自分の財布から五百円玉が失われていく光景ご頭をよぎった。
「えーっとね。来週の抜き打ちテストで得意な分野が出ますようにって。」
「代償は?」
「一問も解けなくなる。」
「…どっちにしろいいのか。」
「そう。これが賢い賭け方よ。」
「ふーん。」
 だけどもふと思ったことがあった。
「なあジョーカー。来週の抜き打ちテストに早乙女の不得意な教科を出して、お前になんの得があるんだ?代償としてなってなくないか?」
 ジョーカーは少し考えるような素振りをした。
 そして懐から一枚のコインを取り出した。
「それは…俺の五百円玉か。」
 ジョーカーは頷いた。
「作用でございます。これはつい先程、賭けの対価として獏様から頂いたものでございますが、正直言って、私にとってはなんの価値もないただのコインです。」
「つまり?」
「つまり、私達が頂く本当の対価とは、皆様が賭けの対価を払われるときに見せる苦痛の表情であります。」
「…なるほど、性格悪いなお前。」
「恐悦至極の極み。」

「ねえ、今度はこれをしましょう。」
 そんな話をしている間に、早乙女は次のおもちゃを見つけてきた。

 週末だけの不思議な世界。
 俺と早乙女がこの世界で出会ってから、一月後の出来事だった。
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