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お仕事&お仕事
食堂の仲間たち
しおりを挟むside:のぞみ
「もー! どーなってんですか、大河さん!」
威勢よくため息をつきつつ、それでも目元が笑っているのは、坂井さん。
調理師唯一の男性スタッフで、歳は多分20代。
「仕方ないでしょ! 上が採用取り仕切ってんだから。2人入っただけいいと思うよ!」
これまた威勢よく切り返すのは、厨房の責任者の大河さん。40代の肝っ玉母ちゃん、みたいな方で。
わたしともう1人ーー新入社員の倉野小夜さんは、顔を見合せた。
今日が、食堂で働く初日。
わたしと倉野さんは、支給された制服を身につけて、とりあえず厨房に顔を出す。朝礼はこれからで、今日はオリエンテーション(という名のもはや即戦力として厨房に駆り出されるんだけれど)だった。
大河さんの前に並んだ職員は、坂井さんとバイトさんが2人。それから倉野さんとわたし。
「いやー、ごめんねぇ。うちの職場は人手不足で」
大河さんが言いながら、ゆるっと朝礼が始まる。
「今日から新人で入ってきた子が2人ね。名前はーー」
「倉野小夜です、よろしくお願いします」
迷いなくあいさつをした倉野さんに、戸惑いながら続く。
「ほ、星川のぞみです…」
ぺこり、とぎこちなく頭を下げる。
「そういうことだからねぇ、みんな頑張ろう」
食堂では、職員や一般の方向けにランチの提供をする。昼の提供時間が終わった後は、病棟の方の厨房に移って、今度は入院患者さんに提供する夕食つくりのお手伝いをする。
1日はそんな感じで終わるらしい。
「入ったばっかりで覚えることたくさんだろうけれど、ゆっくりでいいからね!」
大河さんは、わたしと倉野さんににっこりと微笑んだ。
そうして始まった初日は、怒涛の勢いで過ぎていく。
ランチの時間はやはり、食堂の利用者数も多く、目が回るようだった。
「A定食、売り切れるよ~!」
「星川さん、付け合せの野菜刻んどいてくれる?」
「倉野さん、洗い物お願い!」
「あ! 2人ともやり方わかる? 教えるよ!」
大河さんは司令塔になりながら手を動かし、わたし達に逐一やることを指示する。坂井さんは右往左往するわたし達をフォローしながら、何人分かわからない仕事をテキパキこなしていた。
言われるままに手を動かし、体を動かしていたら、あっという間にピークの時間帯が過ぎた。
「疲れたでしょ、ちょっと休みな。ね、いいよね、大河さん!」
坂井さんが言いながら、飲み物をわたし達に渡す。面倒見の良い教育係のようなポジションなのか、よく気にかけてくれる。
「「ありがとうございます」」
短い休憩を言い渡されたわたしと倉野さんは、厨房の隅の椅子に座って、一息つく。
「……あっという間だったね」
飲み物を口にしながら、倉野さんがわたしに声をかけてくれた。
「ほんとだね……大変だったなぁ」
つぶやくように応えると、静かな時が流れた。
昼時を過ぎると、食器を洗う音がよく響く。
「倉野さんは、バイトとかで調理してた?」
控えめに訊ねると、倉野さんが笑った。
「ーー小夜でいいよ。うん、卒業前に少しだけね。飲食店でやってたんだけど、勝手が全然違う」
「じゃあ、小夜ちゃんで……。そうだよね、慣れるまで大変かも……」
名前で呼ぶのが少し恥ずかしくなって、座っていた足元、つま先を見つめた時だった。
「ねえねえ、知り合いの先生?」
倉野さんーー小夜ちゃんが、肘でわたしをつつく。なんの事か分からなくて顔を上げると、視線の先、カウンターの向こう側に、笑顔で手を振る人がいた。
「……あわ、よ、陽太先生……!」
授業参観で親に手を振られる感覚が蘇って、頬が火照る。
どうしていいかわからず……これまた小さく手を振り返した。
陽太先生は、遅めの昼ごはんの常連らしい。
大河さんとも話しながら、カウンターで食券を渡す。
「あれ! 陽太先生、星川さんと知り合い?」
「ふふ、そんなとこです。昔、のんちゃんの主治医をしてました」
「あら~! 感無量でしょ!」
「それはもちろん」
屈託なく笑いながら話す2人の会話が耳に飛び込んで、また俯いて、もじもじしてしまう。
恥ずかしいような、嬉しいような。
隣にいた小夜ちゃんが、にこにこしながら、わたしに囁くように言った。
「星川さん、わたしものんちゃんって呼んでいい?」
なんだか、その状況を楽しむように。
でも悪い気はしなかったから、わたしはこくりと頷いた。
数日間、同じシフトで動いていた小夜ちゃんとは、色んなことを話した。
気がつけば厨房ので働く人達からも、『のんちゃん』と呼ばれるようになっていた。
「のんちゃん、プリン好きでしょ? 注文入って取り出す時だけ、目の色違うよ」
小夜ちゃんが作業をしながらわたしに言った。
「うん。ここのプリンが忘れられなくて、就職したから」
「ほんと? ほんとに言ってるの?」
驚いた小夜ちゃんの手が止まる。
「うん」
「すごい。ずっと好きだったなんて」
おちょくられてしまうかと思ったら、そんなふうに真剣に言ってくるから、照れてしまう。
「わたしは食べ物好きでこの仕事してるけど、1番大好きで忘れられないものってないなぁ」
少し、寂しそうに小夜ちゃんが笑う。
陽太先生は、相変わらず14時過ぎに昼食を摂るらしい。それはいつも、人気のランチは売り切れた頃だったりする。
「あれ! ハンバーグ定食終わっちゃいました?」
「ごめんねぇーー。売り切れ。もっと早く食べに来られたらいいのに」
「いつも気づいたらこの時間なんですよ~……」
大河さんと陽太先生の会話を小耳にはさみながら、食洗機の前で黙々と作業する。
陽太先生は、わたしに気づくと必ず笑顔で手を振ってくれる。それが少し嬉しくて、誰にも気づかれないように、洗い物をする手に力を込めた。
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