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回想、はじめまして
のんちゃんの弱点
しおりを挟む嫌なことは嫌とはっきり言うのんちゃん。
小児科病棟を走り回って怒られるのんちゃん。
プリンを食べてご満悦ののんちゃん。
絵本を読んでほしいとせがむのんちゃん。
感情のままに動く、子どもらしいのんちゃんだったが、ひとつだけ我慢することがあった。
……自分の体調不良である。
痛いことは嫌いなのに、自分の内側から出る痛みに関しては、誰にも教えてくれない。
……これに気づくのが難しい。
なんかテンションが高いと思えば発熱。
良く喋ると思えば発熱。
いつも通りにご飯で遊んでいて、俺に怒られたと思えば発熱。あー、食欲なかったから遊んでたのか、と後から気付かされる。
発熱すると、のんちゃんの叫び声は一旦休止符。小児科病棟には静けさが訪れるが、誰もがそれを不安に思うのだから不思議である。
「嫌な時は嫌って言うくせに、具合が悪いと我慢するんだな」
ベッドサイドへ行き、輸液を確認する。
頬を赤くし、苦しそうな呼吸を静かに繰り返すのんちゃん。
元気な時は振り切って騒がしいからこそ、静かだと心配になる。
……早く元気になれるといいが……。
バイタルサインは安定していて、熱だけが高い。
ぬるくなってしまった氷枕をかえた。
のんちゃんの険しかった表情が、少し緩まる。
「ちょっともしもしさせてな」
パジャマのボタンを外して、胸の音を聞いた。
……いまのところは大丈夫。喘息も出ていない。
「……ゆうせんせ…… あつい……」
振り絞るような声だった。
「そっか……熱があるからな。あとは?」
ボタンをはめ直しながら、のんちゃんの声に耳を傾ける。
「のど……いたい……いっぱいいたい」
「うん。のんちゃん、体がつらいと思ったら、ちゃんと教えてほしい」
「ずっといたかったの……きのうくらいから……」
「そっか、我慢してた?」
「ちっくんされちゃうから……」
白状するように、のんちゃんは言った。
「ちっくんするより辛くなっただろ? 早めに言うんだよ」
頭を撫でると、少し笑った。
「うん……ゆうせんせ…えほんよんで……」
「ダメだ。今日は。元気になってから。のんちゃんがつらいと、絵本も読んであげられない。だから、具合悪かったら、早く言うんだよ」
笑ったと思ったら、ボロボロ泣き出すのんちゃん。いつもみたいにわんわん声が出ないのは、きっと喉が痛いからだろう。
そう思ったら、いたたまれなくなった。
「いいか? 痛いところや、つらいときは優先生に言うこと。これは優先生との約束だ。わかったか?」
小指を差し出すと、自分の小指を絡める代わりに、小さな手で俺の小指をギュッと握った。
「指切りげんまん。もう大丈夫。明日には少し良くなるから。ほら、もう寝ろ」
布団をかけ直してやって、やがて寝息が聞こえる頃に、病室を去った。
……
そんな感じで、のんちゃんは半年の間、入退院を繰り返した。
主治医はずっと俺が担当していた。
のんちゃんの入院が決まるたびに、小児科病棟はざわつく。
大変だけど、みんながのんちゃんからそれなりに元気をもらっていたのは言うまでもない。
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