どこまでも自分の都合で、平民の主婦たちのための異世界革命スタート!

下菊みこと

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平民の主婦たちにとっての英雄とは

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「ああ、私ついに気づいてしまいましたわ」

私は婚約者にベタベタとくっついて、疎ましがられて突き飛ばされた。その時運悪く机の角に頭をぶつけて、そして前世の記憶を思い出した。

こことは別の世界、日本という国で生まれ育った少女の記憶を取り戻した私は。

「この、有り余る魔力という素晴らしい力に!」

規格外の自分の魔力の素晴らしさに、やっと気付いたのだ。

















この世界では、貴族やそれに連なる家系のもののみが魔力を有する。そして魔力は貴族のステータスだ。

また、魔力は神から貴族に与えられたものなので普通は平民達のためには使わずに自分たちのために使う。

そして私は、貴族の中でも規格外の魔力を持つ。しかし、多過ぎる魔力のために身体が醜く膨らんで顔にもイボができている始末。せっかくの素晴らしいステータスも台無しである。醜いイボガエル扱いを受ける始末ですもの。

「そこで!前世の記憶を思い出した私は平民達のために魔力を使おうと思い至りましたわ!」

「そ、そうか。時に娘よ、前世とはなんだ?やっぱりもう一度お医者さんを呼ぼうか?」

「前の人生のことですわ!まあ、細かいことはいいんですの。お医者さんはいいですから、平民達のために魔力を使う許可をくださいませ。お父様なら頷いてくださるでしょう?」

お父様はちょっと渋い顔。でも、同じく渋い顔をして対抗したら笑って許してくれた。

「はは、お父様の真似はやめなさい。わかったわかった。病み上がりの可愛らしい娘のためだ。特別だぞ」

「わーい!」

そして私の、圧倒的魔力による異世界革命が始まった。

え?厨二病?当たり前ですわ、さっきまで中学二年生の青春真っ只中な記憶を見ていたんですもの!なお中二で死んだのは覚えていますけれど、死因はそこだけ思い出せませんわ!死因なんて思い出したくもないので却って良かったですわ!















「…ということで、私の作った魔道具を披露しますわ!」

私は我が領の全世帯の平民の主婦達を強制的に集めて、作った魔道具達を紹介する。

「まず洗濯機!これは全自動で洗濯をしてくれますの!乾燥までこれ一台でできますわ!そして、私の魔力をたんまり入れておいたので今後百年は魔力を入れなくてもスイッチ一つで動きますわ!見ていなさい!」

「え、これはすごく便利!家事が一気に楽になる!」

「魔法で短時間で全自動で洗濯、乾燥ができるなんて!」

「さらに、アイロンも必要ないこの乾燥の仕上がり!完璧でしょう。これを、一家に一台差し上げますわ!私の転移魔法でお家の前まで届けておいてあげますわ!」

「お、お嬢様ー!さすがですー!」

言った通り、全員のお家の前に全自動洗濯機を転移させる。

「さてお次は全自動掃除機!これは全自動で掃除をしてくれますの!そして、私の魔力をたんまり入れておいたので今後百年は魔力を入れなくてもスイッチ一つで動きますわ!こうしてゴミを撒いて…さあ、見ていなさい!」

「わー!自動でゴミを吸って、雑巾掛けまで!」

「短時間で全自動で掃除、雑巾掛けができるなんて!」

「さらに…ほら、塵一つ残さないこの仕上がり!完璧でしょう。これも、一家に一台差し上げますわ!私の転移魔法でお家の前まで届けておいてあげますわ!」

「お、お嬢様ー!お嬢様バンザーイ!」

言った通り自動掃除機もみんなの家の前に転移させる。

「そして極め付けはこの食器洗い機ですわ!魔法により短時間で食器洗浄、抗菌処理、そして乾燥までできますわ!そして、私の魔力をたんまり入れておいたので今後百年は魔力を入れなくてもスイッチ一つで動きますわ!こうして食器をいれて…さあ、見ていなさい!」

「わー!お嬢様天才ー!」

「家事がこれで楽になって余暇時間が増えるわ!子供達を構ってあげられる!」

「ほら、見て!この仕上がり!ちゃんと汚れを落として、洗えているでしょう!しかも完璧に乾燥してる!これも一家に一台あげますわ!私の転移魔法でね!」

「お嬢様は女神様か何かですか!?」

食器洗い機も転移魔法でみんなの家に届けるが、まだまだこれで終わりではない。

「さらに!じゃじゃーん、万能薬セットー!私が自らの魔力を練り上げて作った特級ポーションですわ!これを一家族様三つまで与えますわ!」

「ええー!?」

「商人に売ってお金にするもよし、病気や怪我やその後遺症に苦しむ家族に与えるのもよし。好きに使いなさい!」

「お、お嬢様ー!愛してるー!!!」

主婦全員から感動され、褒め称えられる。そう、真の力に目覚めた私はさながら月の女神!もっと褒め称えるといいですわ!

ついでに、領内の全ての孤児院と養老院にも同じものをセットで送りつけた。










ということで、身体に有り余った魔力を過剰な分は全部使った私。過剰な魔力が無くなった身体に、ボディーメンテナンスの魔法を使えばあら不思議。

あれだけあった無駄な肉は痩せぼんきゅっぼんのナイスバディーとなり、いぼの出来ていた肌はツヤツヤしっとりのめちゃくちゃ綺麗な肌に変わり、無駄なお肉と汚い肌で台無しになっていたお父様とお母様譲りの美しい顔が出てきてめちゃくちゃ可愛くなった。

「お父様、お母様、見てくださいまし!お父様が魔力を平民達のために使う許可をくださったから、ボディーメンテナンスの魔法でこんなに生まれ変わりましたのよ!」

「まあ!まあ!」

「よく頑張った!でかした!」

お父様とお母様も喜んでくださって何よりですわ!

とはいえ、魔力を使い続けなければ元の木阿弥。何に魔力を使おうかしら。












我が領内の平民の主婦達をまた集める。

「今度はマッサージ機を作りましたわ!マッサージをしてくれる機械ですの!私の魔力を注いでありますから、今後百年はスイッチ一つで動きますわ!ほら、使ってみなさい!」

「わあ、すごい揉み心地!」

「気持ちいいー!」

「これも一家に一台あげますわ。転移魔法で送っておきますわね!」

「お嬢様ー!バンザーイ!」

マッサージチェアーを転移魔法で送っておく。

「さらに!百年が過ぎても使えるように、私の魔力を込めた石を大量に差し上げますわ。これを魔道具に近づければ、魔力が充電できますわ!また、もし魔道具がなんらかの理由で壊れてもこれを近づければ自動修復しますわ!子々孫々にまで残せますわよ!」

「お嬢様バンザーイ!お嬢様サイコー!」

魔力を込めた石のセットも転移魔法でみんなの家に送っておく。

「それと、乗っているだけで痩せるダイエットマシンと美顔器、私の魔力を練り上げて作った化粧水もあげますわ。ダイエットマシンと美顔器はもちろん百年持ちますし、先程上げた魔力を込めた石で修復、充電可能ですわ。化粧水の方は使用期限はないですけれどケチらず使う方が効果はありますわ」

「お嬢様ナイスー!」

「先程から思っていましたけれど、段々と褒め言葉が雑になっていますわ!?」

こちらのセットも当然みんなの家に送る。

さらに、上記のもの全て領内の孤児院と養老院にも送っておく。…まあ、孤児院と養老院にダイエットマシンと美顔器、化粧水は要らないと思うが男女問わず職員達にぜひ使ってもらえればと思う。

というわけで、しばらく分の魔力を使えた。これでしばらくは魔力を気にする必要もない。

…あとはそう。婚約者との関係の整理だ。














「ず、随分と美しくなったな」

「おかげさまで」

いつもはひっついてくる私がツンと澄ましているからか、彼はとても困った顔をする。

「この間はすまなかった」

「私に危害を加えておいて、すまなかったでは済みませんわ」

「…」

彼の両親も私に頭を下げる。

「本当に申し訳ありませんでした」

「…本当は治療費と慰謝料をいただこうと思っていましたけれど。私が彼を困らせていたのは自覚しましたわ。ですからおあいこということで、本来の請求額の十分の一の請求額に留めますわ。婚約自体は当然白紙にしてくださる?」

「え」

彼は婚約の白紙に驚いていた。理由は私にあるとはいえ、暴力を振るったのは彼だ。当然のことだと思うのだけど。

「…わかりました。本当に申し訳ありませんでした」

「いえ、私も彼を振り回して申し訳ありませんでしたわ。これからは他人ですけれど、どうかお元気で」

呆然として何も言えない彼を、ご両親が引きずって帰っていった。後日、正式に婚約を白紙に戻す手続きをして完全に他人になった。治療費と慰謝料は本来の十分の一の請求額だったため、即座に払われて全て私のポケットマネーになった。

「さて、後は私と結婚して我が家の爵位を継いでくれる人探しですけれど」

私は、もう既に相手を決めていた。














「…で、僕と婚約しろって?」

「そうよ!これだけ規格外の魔力があって、見た目も美しくなった私からのお願いなのよ?聞きなさいよ!」

「ああやだやだ。平民達に尽くしていると聞いてちょっとは性格良くなったと思ったらこれだよ」

再従兄弟である彼は私を呆れた目で見てくる。

「それで?なんで僕な訳」

「だって、貴方せっかく優秀なのに三男だから家を継がないのでしょう?」

「継がないんじゃなくて継げないの」

「なら、私のお婿さんになって実力を発揮する方が有意義だわ」

「まあ、それはそうだけど」

彼の興味を引けた!

「それに私、貴族にしては珍しく平民達のために魔力を使うだけの気概はあるわよ。そういう人の方が貴方のパートナーには向くでしょ。貴方珍しくちゃんと平民達のことを考えられるまともな貴族だもの」

「…まあ、たしかに」

よしよし、いい流れ。

「それともう一つ」

「なに?」

「私、貴方の顔が好きなの」

彼は盛大にずっこけた。

「ここまで興味を持たせておいて、最後はそれかよ。君らしいな」

しかし呆れたようにそう言う彼の口元は緩んでいた。そして。

「仕方ないから嫁いで婿になってあげるよ。喜びなよ」

「わーい!」

「いや、適当すぎ」

そんなこんなで理想の旦那さんが手に入った。この顔を毎日見られると思うと幸せだ。

そしてその後結婚した私達は、領内の平民達にはもちろんのこと国内の他の貴族やそこの平民達にも便利な魔道具を生産してはタダで分け与えた。

さらにそれを聞きつけた他国の人間にもこちらは有料で売りつけ、そのお金を国に上納したり領内の孤児院と養老院の運営資金に回したりした。結果平民の主婦達の英雄として夫婦ともに讃えられることになった。
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