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彼女は兄と戯れる
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「テレーズ!会いたかった!」
「お兄様!いらっしゃいませ!」
テレーズと熱く抱擁を交わすのは彼女の上の兄であるフェリクス。彼はテレーズを甘やかして彼女を悪の華に育て上げた元凶である。なお本人に自覚はない。
「テレーズは今日も可愛いなぁ。朝摘みの薔薇でブーケを作ってきたよ。お部屋に飾っておくれ」
「ありがとうございます、お兄様!」
テレーズはそんなフェリクスが大好きである。ブーケを受け取り満面の笑みを浮かべる妹に、フェリクスはとうとう我慢ならずまた強く抱きしめた。
「テレーズ、愛してる!」
「私もです、お兄様!」
シスコンとブラコンのとんでもない構図ではあるが、いかんせん二人とも美形なせいで絵になる。使用人たちが見惚れてしまうほどには。
「フェリクス殿、よく来てくださった。うちの妻が世話になる」
そんなフェリクスに無意識のうちに嫉妬をして、無自覚に牽制するのは夫ボーモン。しかしフェリクスは余裕で返す。
「これはご丁寧に。こちらこそ、うちの妹が世話になっているね。感謝する」
フェリクスとボーモンはバチバチと火花を散らしているが、そんなことにも気づかないテレーズは大好きな二人と一緒にいられてニコニコである。
一方で不穏な空気を感じとった使用人たちは蜘蛛の子を散らして逃げた。
「テレーズ、侯爵家ではよくしてもらっているかい?」
「はい!ボーモン様はとっても優しくて、職員さんもいい人ばかりです!」
「……職員さん?使用人のことかい?」
「あ、はい!えへへ。なんか最近つい間違えちゃうんです」
前世の記憶に引っ張られて、どうも〝使用人〟という言い方に慣れないテレーズである。
「……テレーズ、雰囲気が変わったね。そんな君も素敵だけれど、嫁いだからと言って無理はよくないよ」
そんなテレーズが心配なフェリクス。
「ご心配には及ばない。テレーズは上手くやってくれている」
今のテレーズしか知らないボーモンは当たり前のようにそう言った。
「妹に無理はさせられない。なんなら公爵家に連れて帰ってもいいくらいだ」
「テレーズは幸せに暮らしている。なんの問題もない。人攫いは犯罪ですよ」
バチバチやり合う二人の真ん中で、のほほんとテレーズは言った。
「侯爵家は、なんだか居心地が良いです。だから大丈夫ですよ、お兄様」
フェリクスは目を丸くする。ボーモンが勝った。
「……なるほど。ボーモン殿はテレーズに相応しい夫のようだね。失礼な態度を取ってすまなかった。妹を頼む」
「いや、こちらこそ大人気がなかった。テレーズのことは任せてください」
二人の雰囲気が柔らかくなる。使用人たちは心底ホッとした。テレーズは相変わらずニッコニコである。
夕方になるとフェリクスは公爵家に帰り、テレーズは寂しげにしょんぼりしていたのでボーモンは盛大にテレーズを構った。単純なテレーズはそれでまた喜んでいた。
「お兄様!いらっしゃいませ!」
テレーズと熱く抱擁を交わすのは彼女の上の兄であるフェリクス。彼はテレーズを甘やかして彼女を悪の華に育て上げた元凶である。なお本人に自覚はない。
「テレーズは今日も可愛いなぁ。朝摘みの薔薇でブーケを作ってきたよ。お部屋に飾っておくれ」
「ありがとうございます、お兄様!」
テレーズはそんなフェリクスが大好きである。ブーケを受け取り満面の笑みを浮かべる妹に、フェリクスはとうとう我慢ならずまた強く抱きしめた。
「テレーズ、愛してる!」
「私もです、お兄様!」
シスコンとブラコンのとんでもない構図ではあるが、いかんせん二人とも美形なせいで絵になる。使用人たちが見惚れてしまうほどには。
「フェリクス殿、よく来てくださった。うちの妻が世話になる」
そんなフェリクスに無意識のうちに嫉妬をして、無自覚に牽制するのは夫ボーモン。しかしフェリクスは余裕で返す。
「これはご丁寧に。こちらこそ、うちの妹が世話になっているね。感謝する」
フェリクスとボーモンはバチバチと火花を散らしているが、そんなことにも気づかないテレーズは大好きな二人と一緒にいられてニコニコである。
一方で不穏な空気を感じとった使用人たちは蜘蛛の子を散らして逃げた。
「テレーズ、侯爵家ではよくしてもらっているかい?」
「はい!ボーモン様はとっても優しくて、職員さんもいい人ばかりです!」
「……職員さん?使用人のことかい?」
「あ、はい!えへへ。なんか最近つい間違えちゃうんです」
前世の記憶に引っ張られて、どうも〝使用人〟という言い方に慣れないテレーズである。
「……テレーズ、雰囲気が変わったね。そんな君も素敵だけれど、嫁いだからと言って無理はよくないよ」
そんなテレーズが心配なフェリクス。
「ご心配には及ばない。テレーズは上手くやってくれている」
今のテレーズしか知らないボーモンは当たり前のようにそう言った。
「妹に無理はさせられない。なんなら公爵家に連れて帰ってもいいくらいだ」
「テレーズは幸せに暮らしている。なんの問題もない。人攫いは犯罪ですよ」
バチバチやり合う二人の真ん中で、のほほんとテレーズは言った。
「侯爵家は、なんだか居心地が良いです。だから大丈夫ですよ、お兄様」
フェリクスは目を丸くする。ボーモンが勝った。
「……なるほど。ボーモン殿はテレーズに相応しい夫のようだね。失礼な態度を取ってすまなかった。妹を頼む」
「いや、こちらこそ大人気がなかった。テレーズのことは任せてください」
二人の雰囲気が柔らかくなる。使用人たちは心底ホッとした。テレーズは相変わらずニッコニコである。
夕方になるとフェリクスは公爵家に帰り、テレーズは寂しげにしょんぼりしていたのでボーモンは盛大にテレーズを構った。単純なテレーズはそれでまた喜んでいた。
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