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彼女は前世の記憶を話す

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ボーモンとマルカはテレーズの発言に目を見開くが、次の瞬間には納得していた。

「それで君はいつも、どこか面白い考え方をするんだな。異世界での記憶があるなら納得だ。価値観が違ったんだな。でも、君のそういうところが好きだぞ、テレーズ」

ボーモンの言葉にテレーズはびっくりする。

「テレーズ様の長所ですので、あまりお気になさる必要はないかと」

マルカのあっけらかんとした様子に更にびっくりするテレーズ。

「黙っていたこと、怒らないんですか?」

「別に問題ない。今話してくれたしな」

「テレーズ様がテレーズ様なのはその記憶があるからこそですもの。怒るはずありません!」

ユゲットはその会話を聞いて不安そうな顔をする。

「もしかして妾、余計なことを言ってしまったかぇ?すまぬ、愛し子よ。嫌わないでおくれ」

「そんな!嫌ったりなんてしませんよ!ね、ボーモン様!マルカさん!」

「ええ。そんな薄情なテレーズではありませんよ、ユゲット様」

「聖龍様の愛し子を信じてください!聖龍様!」

「本当かぇ?テレーズ、我が愛し子よ。本当に愛しておるよ。一緒にいてくれるかぇ?」

不安そうなユゲットに、テレーズは微笑んで言う。

「もちろんです、ユゲット様!ただ、女王陛下に私がユゲット様の愛し子であることと、ユゲット様がバスチアン邸にいることは報告しても良いですか?」

「そのくらいなら好きにするが良い。テレーズと居られればそれで十分じゃよ。のぅ、ボーモン。そなたもそう思うであろう?」

「おっしゃる通りです、ユゲット様」

にこにこに戻るユゲットに、テレーズはほっとする。聖龍様だと知ってはいるが、子供の不安そうな顔は見たくない。

「ところでテレーズ。女王陛下へ緊急時用の連絡魔法を繋ぐ前に、よかったら君の前世を教えてくれないか」

「あ、私も聞きたいです!」

「妾も聞きたいぞぇ」

「あー……わかりました」

テレーズは包み隠さずに前世の記憶をありのままに語る。前世の彼女は孤独だったこと。所謂ネグレクトと呼ばれる虐待を受けており、放置児と呼ばれ友達の家にも上げてもらえず一人で寂しく過ごす毎日を送ってきたこと。ご飯は冷凍食品かお惣菜だったこと。とにかく愛情というものに飢えていた彼女は事故にあいそうな野良猫を庇って、野良猫は無傷で助けたが本人は事故死したこと。

「……それなら君は、幼いまま愛を知らずに」

「まあ、そうなりますね。でも、今はボーモン様がいてくれるからへっちゃらですよ!」

「……テレーズ様!」

涙ぐむマルカ、テレーズの前世の両親への怒りを必死に抑え込むボーモン、それでも微笑んで大丈夫だと言うテレーズ。ユゲットは言った。

「その分ボーモンと会えて、マルカと仲良くなり、妾の愛し子になった。きっとテレーズはこれから前世の分までもっともっと幸せになるぞぃ」

その言葉にテレーズは大きく頷く。

「はい、ユゲット様!きっとその通りですね!」

「そうですね!テレーズ様はいっぱい幸せになりますよね!」

「私が幸せにするのだから当然だ」

こうしてテレーズは、本人に自覚はないがずっと言えずに胸につっかえていたことを伝えられて大分楽になったのだった。
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